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『魔王塔、屋上。裏切られた者(3)』


言葉を詰まらせている皇子に、かまわずシンルゥは話を続ける。


「皇子様。話は戻りますが、魔王様達がまるで道化を演じるごとく敗北したフリをされたのは、この島に貴方が今おっしゃった脅威がなくなったと思わせるためのものです。そうすればもうこの島を警戒する者もいなくなり、魔王様はこれまで通りの静かな暮らしを取り戻せます」

「……そうして不意を討つつもりだったのでは?」


んー、そうとも考えられるが、話が堂々巡りになるな。


だがシンルゥはそれをきっぱり否定する。


「不意を討つ必要がないほど魔王様たちはお強いですよ? 島を徘徊するスケルトンの数をお忘れですか? それを束ねるリッチ、そして最強の魔族の一角といわれる吸血鬼、それらを従えるのが、こちらの真の強者、魔王ツッチー様です。その気があればあの程度の港町なぞ、とうの昔に支配されているのでは?」

「……確かにな」

「ツッチー様には人と戦う意思も、人の世に出てくる意思もなく。お言葉通り、この島で暮らすだけがお望みなんです」

「ふん? やけに魔人の肩を持つ」


あ、ついに不審がられたな。


さすがにちょっとは焦ると思いきや、シンルゥの笑顔が少し寂しいものになる。


「人の為、国の為にと命を捧げた結果、あんな裏切り者たちの道具にされていただけと知った私の心情の変化というものに……ご納得いただけませんか?」

「……すまん」


責めてきた皇子を逆に謝らせるシンルゥ。


すげーな。


嘘をつくという事に一切の躊躇がない上、頭の回転がいいから説得力もある。


落ち着いて突っつけば矛盾も出てくるんだろうが、皇子の立場からすれば唯一人族の味方かもしれないシンルゥの機嫌を損ねるような言動もできないだろう。


「それで、裏切りの心当たりはございまして?」

「……ああ、ある。勇者とてこの状況からわかっているだろう?」

「皇子様の口から聞きたいのです」


ついに頑なだった皇子の心と口が開く。


「オレには双子の弟がいる。第二位の王位継承者だ」


ああ。


知ってたよ。


第二皇子との後継者戦争、老司教の言う通りだ。


それを利用しての、今回の計画でもあるんだから。


「いわゆる跡目争いか」


オレの言葉にうなずく皇子。


「……我が国は大国として多くの冒険者を抱えているし、騎士団や兵士も多い。ダンジョン討伐や魔物討伐など他国への派遣している」

「私もそのうちの一人ですからね。冒険者組合から回される他国への派遣依頼はひっきりなしです」


そうだね。


ひっきりなしに袋詰めスケルトンを用意してくれたからな。


どこどこ産のスケルトンは骨太です、とか。


どこどこ産のスケルトンは魔力の扱いがうまいです、とか。


色々と勉強になったよ? どこで使う知識かはわかんないけどな。


ああ、スケさんとは盛り上がっていたようだ。


スタッフさん同士のコミュニケーションを保つ話題には役立った。


「そういった国の背景から、統治者にもある程度の武が求められるのが我が国だ。弟はそうした武というものに優れてはいない。むしろ、体内の魔力がうまく循環しない病もあり、戦いそのものに向いていない。もとよりオレが第一皇子という点からも王位は確実とされていたが……弟は人心掌握が抜群にうまい」


へー、という顔をしてシンルゥを見ると。


「有名ですね。紅の瞳を持つ第二皇子の事は」


それは初耳だ、カッコいいな。


皇子が肩をすくめて。


「……ではこの噂も聞いたことはあるだろう。弟の右目は魔眼である、と」

「はい。口の端にのぼらせれば良くて牢獄、という噂も」

「どういった類のものかはわからんが、その噂の真偽は問うまでもない。魅了か、支配か、洗脳か。そうでもなければ、教会までも弟に味方するとは思えない。そしておそらくは父王も弟についた」


この兄は剣技にすぐれていたが、弟は調略方面に長けていた、と。


老司教も第二皇子の優劣評価には疑問を抱いていたようだし、ま、そういう事なんだろう。


今の皇子の現状は、聞くだに危なっかしい魔眼なんてものを持っていてる第二皇子を放置しておいた結果だと思う。


しかし第二皇子なんて相手に目隠しやら軟禁やらするわけにもいかないだろうし、難しい問題だったか。


「で? 父親である今の王様すら第二皇子の味方になったって事か?」


「……出発前の謁見ではオレの味方だと思っていたが……兄貴の裏切りからして、あの時点でもはやそうではなかったのだろう。教会の教皇もオレの後見だったはずだが、その勅命で随伴した聖女が裏切ったという事は……」


三人でやってきて、自分以外の二人が裏切り者だったわけか。


しかも一人は兄と慕っていた聖騎士とか、たまらんなー。


「弟もバカじゃない。魔眼の力をもって慎重に事を進めていたのだろう。今回の討伐はオレに魔人討伐という確固たる武威を着せて王位継承を確実とするのが目的だったが……そもそも」


皇子は今にして、ある疑問を抱いたという。


「そもそも……たった三人で孤島に乗り込み魔王を討伐するなど、無謀にもほどがないか?」


……え?


今更すぎない?


しかもそれを皇子がオレに聞くか?


オレとしては、最初からどれほど腕が立とうが皇子なんて立場の人間が魔王のいる島に乗り込んでくるなんて正気じゃないと思っていたぞ。


さすが異世界、そういうものかと納得していたが、やっぱりそうじゃなかったんだな。


「今回の件、オレの派閥の者たちも賛成していたが、今にして考えるとあまりに不自然だ。そしてそれを不自然と思わなかったつい先ほどまでのオレにも疑問が残る」


シンルゥが皆が内心で思っているだろう答えを口にする。


「皇子様、貴方ご自身も含めて……全員が弟君の魔眼に影響されていたのでしょう。違和感すら感じさせない魔眼。実は私も同種の力を持つ魔の者を知っております」


そんなヤツが他にもいるのか、などと思っていたらシンルゥがオレを見る。


お前も気を付けろよ的な視線だろう。


しかし、自覚無しで洗脳されるとか気を付けようがないぞ、恐ろしい。


そんな力を持っていたら世界征服もできそうだ。


恐ろしいよなー、とウンウンうなずいていたら、それを見たシンルゥが深いため息をついて皇子に向き直った。


なんだ、おい、失礼な。


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