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『魔王塔、屋上。裏切られた者(2)』


今?


何をすればいいの?


焦りながらも、とりあえずシンルゥのいう事に追随すればいいだろうと勢いで口を開く。


「事情を聞かせてくれるか? 少なくとも私は君の命の恩人である。よければ、今後は友人として付き合っていければとも思っている」

「友人だと? なにを世迷言を……」

「世迷言ではなく現実的な話だ。今の君が自分の現状に納得しているとは思えないし、私としてもこのままでは困るからね」

「……困るだと? そもそもなぜオレを助けた? いや、なぜ、わざわざ……倒されたフリなどをした?」


お、ようやく現実を認めたらしい。


皇子たちが悪の魔王たちを実力で倒したのではなく、そういうフリをしていたのだと。


その上で、さらに混乱しているわけだな。


もし逆の立場ならオレもそうだろう。


「込み入った話になる、そのままでは少々具合も悪いだろう」


オレは近くにイスとテーブルを人数分、作り出す。


「サキちゃん、皇子を立たせてあげてくれ」

「あ、は、はい。立てますか?」

「……すまん」


残念そうな顔でヒザまくらを解除したサキちゃんが、いまだよろめく皇子に肩を貸す。


皇子も敵とはいえ見た目も儚く、敵意のない少女に対して敵対行動をとるという事はなかった。


「さて……どこから話すかな」


オレはイスに腰かけて、古い記憶を呼び覚ます。


「ツッチー」


妖精が所定の位置であるオレの肩に戻ってきて、その羽を休める。


死に体だった皇子だが何か隠し玉や切り札があるといけないので、念のためスケさんやキューさんにまかせておいたが、もう大丈夫と判断してオレの所にやってきたのだろう。


「……妖精? あの時の妖精か?」

「ああ。キミたちが予定より弱か……いや、ウチの大根役者のせいで計画が崩れかけたのを助けてくれたのはこの子だよ」


確かに皇子たちは強くはなかったが、最大の原因は『黒衣の死神』の手加減が下手すぎた。


あんなに自信満々だったのに。


むしろあの自信はどこから来ていたのか。


オレがキューさんをにらんでいたら、勘違いした皇子がオレと視線の先を合わせる。


「……確かに吸血鬼との戦いの時に世話になったが……あれも貴様の仕込みではないのか?」

「ほどほどに苦戦した後にウチの吸血鬼が敗退する予定だった。実戦に不慮の事態はつきものだと痛感したよ。この子がいなければ君達はあそこで終わっていた」


オレも終わってたけどね。


「……そうか。人族には妖精を都合よく粗雑に扱う者もいるが……一方で妖精は人をだましたりしない。魔王の部下だとしても、君が我々を助けてくれたことには素直に礼を言う。ありがとう」


お。


なんだ、皇子め。


意外と人間が出来ているな。感心したぞ。


「ふふ、いいの、いいのよ!」


だました事を後ろめたく思っていた妖精の顔が晴れ、嬉しそうに舞う。


そうとも。機転をきかせてくれてピンチを救ってくれた大恩人だぞ、ひれふせ。


チラっと『黒衣の大根役者』を見ると、両手を合わせて頭を下げていた。


手をあわせて謝罪とか、コッチの世界にもある風習なのか。


それはともかく、これだけは言っておくか。


「皇子よ。一つだけ訂正してもらおう。彼女は部下ではない。私の大事な家族だ。キミが聖騎士を兄と呼ぶようにな」


「……! そうか、失礼した」


皇子が妖精に頭を下げて、オレにも頭を下げる。


そんなやりとりを見た妖精が喜ぶ。


「アタシもツッチーの事、大好きよ!」


肩から飛び立ち、オレの頭の上でくるくると舞って、蒼い鱗粉を散らす。


あ、それ、やめ……。


「ハックション!」

「うふふ、ごめんね、ごめんね、ふふふ!」


やっちまった。


魔王としての威厳が損なわれた。これはマズい。


「……うおっほん。というわけで……だ」


オレは何事もなかったという堂々とした顔で、話の続きをする。


「ええと。そうだ。どこから話すか、だったな。長い話になる。あれは私がこの島にやってき――」


映画なら終盤。


物語ならば佳境。


最後の見どころのどんでん返し。


衝撃の真実を最後の敵が語るシーンをイメージする。


カッコよく、それでいて物憂げな表情を意識したオレがゆっくりと語り始めたところで。


「魔王様はこの島で大事なご家族や仲間の方々と、静かな暮らしを望まれています。ただけそれだけです」

「……ん……まぁ、そんな感じ? かな?」


横からシンルゥが一息で説明してしまった。


そりゃ、状況的に時間の余裕はないかもしれないけども。


せめて三行くらいあってもいいと思う。


「……静かな暮らし、だと。魔王とは常に支配地を増やす事を望むだろう」

「そうですね。私もそういった魔人しか知りませんでしたが……真の強者というものは違うのでしょうね」

「……お? あ、そうだな? 私はこの島で静かに暮らせればそれでいい」


真の強者というのが自分の事だというが一瞬わからず、シンルゥの向けてきた視線に対して返事がたどたどしくなった。


だが皇子が気にする風でもなく、さらにたずねかけてくる。


「……オレの国や、人の世に恐怖をまき散らす存在ではない、と?」

「あー。考えた事もない。色々と事情があるみたいだから無理に仲良くしなくてもいいけど、逆に無理にケンカしなくてもいいんじゃないかなって?」


魔王様っぽくしゃべってたけど、なんかボロがボロっボロ出てくるので、本来の喋り方に戻すことにした。


「人と魔の戦争の歴史は古い。分かり合う事は不可能だ」

「いや、そんな大層な事じゃなくて。オレは何にもしないから、そっとしといてねって話だよ」

「人の街からそう離れた場所でもない島に住む魔王の言葉を信用して放置しろと? 貴様がいつ襲ってくるかもわからないというのにか?」


あー。


確かにねー。


不安だよなー。


それもわからない事もないけどなー。


どうしたものかなと、考えあぐねているとシンルゥが笑う。


「ふふふ、皇子様?」

「……なんだ、なにかおかしいか?」

「同じ人族に裏切られたばかりの方のその言葉。説得力があると?」

「……む」


まさか同じ人間であるシンルゥからそう言われると思っていなかったのか、皇子が声なくうめいた。


あらら、皇子、痛い所をつかれたな。


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