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『魔王塔、エピローグ』


「ううぅ、うううッ、うぐッ!」


涙を流しながら落下するオレ。


最高のキメ所できまらない、もはやトラウマだ。


自由落下してすぐ、塔の壁から自分を受け止めるためのアームを伸ばし、自分の体を塔の中へ回収する。


階層は一つ下の四階、つい先ほどまでキューさんが激闘を演じたフロアだ。


オレはここで皇子たちが帰還の為に通り過ぎるのを、所定の場所で隠れてやりすごす。


皇子達がこのフロアから降り去った後、その後ろからついてくるサキちゃんと合流。


隠形の術をかけてもらってから、再び皇子たちの後ろをついていく予定だ。


「ここだな」


隠れるといっても、あらかじめ決めておいた位置の壁を二重壁にして、小さな部屋を作り中で待っているだけだ。


その場所を知っているサキちゃんがノックしてくれれば作った壁を解除するだけ。


ただし、今のオレは透明でもなんでもないので、外の様子をうかがう事ができない。


サキちゃんのノックが聞こえるまで、一畳ほどの狭い部屋で、ただボーっと待つのみだ。


というわけで、オレはさっそく予定している位置の壁際に椅子とテーブルを作り出し、それを隠すようにして薄い壁を作る。


「はー……どっこいせっと」


壁で身を隠した後、作ったイスに座り込み。


そのまま机に突っ伏した。


「決めセリフ、噛んだわ……キューさんにあれだけデカい事言っておいて……噛んだわ……」


真のやられ役を見せてやる、キリッ、という過去の自分が、はーずかしいー。


穴があったら入りたいというのはまさにこのこと。


どれだけ練習や打ち合わせをしても、実戦というのはトラブルがつきものか。


できればこの後、皇子たちを御見送りする時に皇子たちが本当に魔王を倒せたのだろうか? 的な不信感を持っていないか会話から確認したい。


強敵を倒しての凱旋なのだ。


彼らにとって未だ敵地ではあるが、肩の荷が下りれば口数も増えて色々な話が聞けるだろう。


もしも再度この島に様子を見に来るとか考えてるようなら、老司教になんとかしてもらおう、そうしよう。


オレ達はあのジイ様の立てた計画を頑張ってやり遂げた。


あとは責任者がなんとかしてくれることを祈る。


「……」


オレはちらりと自分の服を見る。


この服を見て騒いでいた。


なんか事情があったっぽい。


口ぶりから皇子や聖騎士がこの服の持ち主の遺族というのであれば、難破船に残っている骨も供養してやるべきか。


いや、お墓くらいは立ててもいいんだけど、やっぱり船乗りだし、船長っぽいから自分の船にいたいかなーと思ってしまってね。


結局、そのままにしていたんだけども。


それに王様のお姉さんだっけ? 病気を治すための船出とも言っていた。


叔父やらなんやらとも言っていたし、聖騎士と皇子は従兄弟? もしくは従甥いとこおいとかの関係だろうか?


少なくとも血縁関係ではあるのだろう。


で、その聖騎士が叔父と呼んだ船長さんの船に、サッちゃん……マンドラゴラがあったわけだ。


「……」


という事は、まぁ……皇子や聖騎士の言うとおりなんだろうな。


難破船の惨状からして、船と船員、そして船長にとっては悲惨な末路だった。


だが、あの船がもたらしてくれたものでオレは今までやってこられたようなものだ、感謝しかない。


皇子達からすれば、ふざけるな、という話だろう。


だが、オレ個人としては一方的でも感謝を捧げたい。


老司教にはもし今後の継承問題とかで皇子が困っていて、かつ、オレにできる事があったら協力してもいいよ、という話を通しておこう。


……これにて一件落着。


色々あった。


大変だった。


だがついに。


オレは晴れて平穏をつかみとった。


事後処理はあるが、山場はのりきったのだ。


「おつかれさんでしたー……」


と、自分で自分をねぎらい、腰かけていたイスにもたれかかったまま、溶けた猫のようにズルズルと体をだらしなく預けて目を閉じる。


あとはサキちゃんが来るのを待って、懐かしいピンクのマイホームに帰るだけだ。






***






で。


「……なんか遅くない?」


あんな事もあった。


こんな事もあった。


などと、とりとめない事を考えていただけだが、そこそこの時間が経っている気がする。


皇子たちが屋上で勝利を祝っていたとしても、いまだ敵地、魔人の島にいるわけだし。


そろそろ気を引き締め直して帰ろう、というぐらいの時間はとうに経っているはずだ。


かといって、目隠しのための壁を解除して様子を見に行こうとした瞬間、降りてきた皇子たちとバッタリするというのは絶対にダメだ。


中途半端に時間が経っているぶん、今かもしれない、もうすぐかもしれない、となると身動きが取れない。


「どうしよう、どうしたものか」


もう一度外壁に穴をあけて、上を見に行くという手もあるが……皇子たちがいまだオレの落下先を気にして、下を覗き込んでいる可能性を考えると、これもできない。


手詰まりだ。ぐぬぬ。


それからさらに時間が経って、ようやく。


『魔王様! ツッチー様!』


コンコンコンコン! と慌ただしいノックとともに、ずいぶんと急いだ様子のサキちゃんの声が壁越しに届く。


「お、来た来た」


オレが壁を解除すると、そこにはサキちゃんをはじめとして、全員の姿があった。


サキちゃんを先頭に、その頭に妖精がのっていて、シンルゥ、スケさん、キューさん。


……あれ?


おかしくない?


すぐに違和感を感じる。


「サキちゃん、もしかして、隠形の術、解いてる?」


隠形の術が継続していれば、オレに彼女たちの姿が視認できるはずがない。


そもそも声も聞こえないはずだ。


だからノックをして到着を伝えてもらう手はずだったのだが。


「は、はい! あの、あのですね、魔王様!」

「ツッチー、大変、大変よ、早く早く!」


お? おお?


あわてふためく小柄な美少女と、手の平サイズの美少女の二人は、アワアワしすぎて言葉が足らず要領を得ない。


ちらりとシンルゥを見ると、いつもの笑顔というより、やや苦笑している。


スケさんはそもそも表情筋がないし、キューさんも眉をへの字にして、よくわからない事になっています的な顔だ。


「シンルゥ、簡単に状況説明を頼む」


腕っぷしもあり頭の回転も早く、いつも冷静なシンルゥに事の次第をたずねる。


「聖騎士と聖女が皇子を裏切りました。皇子は背後から聖騎士に足を斬られ、さらに聖女に腐食毒を付与されて、屋上で虫の息です。救命するのであれば魔王様がお持ちのエリクサーを吹きかければ間に合うかと」


ふむ。


ふむ?


……。


「はあ!? 皇子が死にそう!? なにそれ!? と、とにかく、みんな集合! 上に行こう!」


オレは動揺を隠せず、だが即座に皆を呼び寄せると頭上の天井に穴をあけ、全員の立っている床ごと屋上へ移動した。


一体、何が起きてるんだ!?


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