『魔王塔、屋上。獄土の王(5)』
皇子と聖騎士がオレを見つつも、何が原因かを探っている。
そして露骨にあやしい像、その手にあった水晶が砕けている事に気付きに目を留めた。
「兄貴……アレか?」
「いや、だが……そんな重要なものを敵の手に届く位置に?」
至極ごもっともなんだが、気づいてもらえないようなアイテムだと意味がない。
オレがここでトドメの一撃を放つ。
「像に近寄るな!」
あえて焦ったような声とともに、皇子たちへと叫ぶ。
すると。
「兄貴!」
「おう! 聖女はオレの補助を頼む!」
「は、はい! ――、――、……、――!」
阿吽の呼吸とヤツだろうか。
目配せだけで役割分担をした二人が動く。
聖騎士に比べて軽装の皇子が残り三体の像へと走り出した。
それを追わせまいと、聖騎士が聖女の補助魔法を受けてオレへと距離を詰めるべく走ってくる。
オレは、くっ、みたいな顔をしながら皇子を気に掛けつつも、距離を削ってくる聖騎士の足元へストーンパイルを生み出していく。
そして聖騎士がオレをけん制している間に。
「せやっ!」
西側の像が持つ水晶が皇子の剣で一閃され、粉々に砕け散った。
「ぐあー!」
タイミングを計ってオレが苦しむ。
胸をおさえつつ、ヒザをつこうとして、ギリギリ持ちこたえる。
我ながら名演技だと思う。
像を破壊した皇子をワザとらしいほどににらみつけ、パイルバンカーを射出しようとすると、しっかり聖騎士が詰めてくる。ナイスムーブ。
オレは忌々しげな表情を浮かべて、再度、聖騎士に向き直り地面からストーハンパイルを生やす。
すると。
「三つ目!」
「ぐああー!」
南、西ときて、北の像の水晶が皇子に破壊された。
「今だ、魔王よ、闇に帰れ!」
好機と見たのか聖騎士がそれまでより強引にオレとの間合いを詰めてきた。
来るんじゃない、顔が怖いんだよ!
さすがに肉薄させたくないので、ストーンパイルを聖騎士の足元に連発する。
「む、まだ余力があるのか!」
聖騎士が退くが、皇子は最後の像へと向かっている。
「やらせはせん、やらせはせんぞー!」
オレは距離をとった聖騎士に背中を見せつつ、皇子に向かってパイルバンカーを打ち出す。
しかしそれをしっかりと避けた皇子は、やがて最後の像へとたどり着いた。
「獄土の王よ! これで終わりだ!」
タメも躊躇も感慨もなく、皇子が水晶を真っ二つにした。
獲物を前に舌なめずりをうんぬん、というセリフが使えなかったのが残念だが、皇子はオレの期待に十分に応えてくれた。
ありがとう。
「ぐ……ぐぐぐっ!」
オレはがっくりとヒザをつき、しかしそれでもなお、皇子たちをにらみつける。
「や、やるではないか……人間どもめ。だが、オレを倒したとていい気にな……」
ここから悪の親玉のラストシーン。
ディードリッヒ渾身の出来栄えであり、オレもがんばって覚えた長口上を披露する時が来た。
さて皆さま、ご清聴よろしくと思いきや。
「兄貴、今だ!」
「応ッ!」
聖騎士がトドメを刺しに来る。
今だ、とか、応ッ、じゃねぇよ。
血の気の多い奴め、見せ場だぞ? 勘弁してくれ。
オレは聖騎士の足元に、ほぼノーディレイのストーンパイルを生やして足を止めさせる。
「チッ! 悪あがきを!」
「兄貴! 油断するな! 攻撃の手がゆるんでいない! それにどうにも……簡単すぎる!」
くそ、聖騎士の追撃を止めたせいで、皇子がオレのピンチを疑い始めた。
これはもうちゃっちゃっと幕引きをするべきだ。
「やるではないか! 人間どもめ! だがオレを倒したとていい気になるなよ!」
さっきは情感を出そうとして声が小さくなってしまったから聖騎士が調子に乗って突撃してきたのだ。
ここは声を張って、活舌よく、しっかりと内容を伝える事が必要だ。
「オレは四天王の中でも最弱! 次に現れし四天王が貴様らを絶望の果てに叩き込む事だろう!」
おおおぉ、気持ちいい……。
言ってみたかったんだよね、このセリフ。
いや、こんなシチュエーションでもない限り口にできないから、絶対に言おうと思っていた。
夢がかなったよ。
万感の思いを込めたオレのセリフに驚愕する皇子たちの顔を見て満足するオレ。
あとは、大声をあげられるほど元気だな、というツッコミが入らないうちに屋上の端の壊れた像の一つへとよりかかる。
何をするつもりだという顔の皇子たちに向かい、オレは高笑いとともに最後のセリフを吐き出す。
「だがオレは貴様らの手にかかっては逝かん! たらばだ!」
……あ゛あ゛あ゛! 最後の最後で噛んだぁぁああ!!
しかしやり直しなどできない!
オレは半泣きになりながら飛んだ。
それはもう恥ずかしくて力いっぱい飛び立ったよ!
これだけの手間と時間と資金をかけて最後の最後でこれだなんて!
なぜオレには異世界転生の主人公よろしく、時間を巻き戻せるチートがないんだぁぁあ!




