『魔王塔、屋上。獄土の王(4)』
パイルバンカーとは?
まず、これまでのストーンパイルのように真っすぐ土杭を突き上げるのではなく、やや斜めに出現させる。
そしてそれを射出する飛び道具を、パイルバンカーと名付けた。
ロケットパイルと二択で悩んだが、浪漫指数的にパイルバンカーが上回った結果だ。
もちろん皇子たちを攻撃する目的ではなく、戦いを演じる中で、自然に像を破壊するためだ。
だが開幕からこれを使ってしまうと演技や手加減に苦労してしまう。
奥の手というほどではないが、魔王が『ほう、やるではないか。少し遊んでやろう』みたいな、手数を増やすイメージで使っていく。
というわけで、像にもぼちぼち近づいてきたし、新技のお披露目だ。
「ほう、やるじゃないか。もう少し遊んでやる」
「なに?」
オレは自分の足元に、斜めに突き出た見た目はストーンパイルを生み出す。
初見攻撃でもあるし、生み出したパイルの先端を少し丸くし、念のため硬さも柔らかくした。
まともに当たっても刺さりはせずに砕ける、それぐらいの柔らかさだ。
「避けろよ? パイルバンカー」
これなら大丈夫だろうと判断し、三人が固まっている場所にオレの足元に生やしたストーンパイルを射出した。
しかし足元からの攻撃に慣れ切っていた所に、新しい攻撃は避けられないかもと不安になり、念のため忠告と技名も口にする。
「どういう意味……くっ!!」
うおっ!
……あ、危なかった。
柔らかパイルが皇子の顔の近くをギリギリでかすめていった。
あわてて竜革の盾を構える皇子。
「下がれ、バラン! 聖女もオレの後ろに隠れろ!」
聖騎士がすぐに前に出て、幅の広い両手剣を盾のようにして身構える。
魔王の新しい攻撃に対して、決して油断はしないという顔だが。
「いいのかな、こちらばかり見ていて?」
オレは今までのように皇子たちの足元へストーンパイルを生み出す。
「くそっ!」
毒づく皇子たち。
もともと手詰まりだったところに、厄介な攻撃が増えたのだから当然だ。
しかしここまで差がつくとは。
練習がてらシンルゥとディードリッヒにハンデをもらって行った模擬戦では、二人があまりに簡単に回避するもんだから、皇子達にももっと迫られると思っていた。
だが現状はオレが予定していたよりも、圧倒的すぎる状況になっている。
キューさんばかり責められないぞ、これは。
とっと像を破壊してやらないとマズイ。
「むむ……」
オレは自分と像を結ぶ射線に、誰かを入れるべく位置取りをする。
繰り返すが、パイルバンカーは皇子たちをイジめるためのものではない。
オレの任意のタイミングで像を破壊するための飛び道具だ。
誰か狙って射出したパイルをうまく回避してもらい、そのまま像を破壊するのが理想。
そこからはオレの演技次第。
「……むむむむ」
しかし、皇子たちも中途半端に動きがいい。
特に皇子はちょこまか動くし、聖騎士も体格のわりに速い。
一番狙いやすいのは聖女か。
うーん、ちゃんと避けてくれるだろうか?
いや……がんばれ、聖女!
君ならできる! さ、いくぞ?
念入りに柔らかく作ったパイルを出現させる。
これなら当たっても、いたーい、くらいで済むはずだ。
肝心の像に当たっても砕けない可能性もあるが、そうなれば土製の像を操って水晶を破壊する。
だが土杭を脆く作りすぎたせいで、飛翔時に空中分解しそうなのが不安だが……いや、やはり聖女に大けがさせるとこの後の展開がよろしくない。
このまま飛ばす。
「パイルバンカー」
その技名に反応した三人がオレの足元を見て、パイルの先端がどこを向いているのか確認する。
順応性高いな。
そして自分に向かっていると気づいた聖女がすぐに身をかわす、ナイス聖女。
と、思いきや。
「あっ!」
とっさの動きで足がからまり、盛大にずっこけた。
あ、顔からいったな。アレは痛いぞ。
大丈夫か? と思って様子をうかがっているが、ピクリともしない。
これは……気絶してないか?
あ、いや、立ち上がろうとしているが、やっぱり頭を打っているようでフラフラしている。
恰好の的というヤツだ。
まずい。
実にまずい。
この状況で聖女を攻撃しない理由がないぞ。
「バラン!」
とっさに聖騎士が聖女の前に立って盾になり、それを見て皇子も意図をつかんだのがすぐに駆けだした。
すぐに聖女を横抱きにして立たせる皇子。
ナイス皇子。
そして飛翔時が不安だった柔らかパイルを通常の硬さに戻す。
よし、発射!
「くっ」
「きゃっ!」
皇子が聖女をお姫様だっこをして飛びずさる。
すごいな。
体は細く見えるが、なかなか筋力も高い。
戦女神の意図もからんでるいのか知らないが、やはり身体能力が常人より図抜けている。
ま、それはいい。こんなところまで乗り込んでくるぐらいだ、それくらいはあって当然か。
オレは避けられたパイルバンカーの着弾点を見る。
しっかりと像が持っていた水晶を貫いて破壊しているな、よし。
「ぐ……」
オレは胸をおさえて苦し気にうめく。
警戒していていた皇子たちが、オレの異変に気付く。
「なんだ?」
「苦しんでいる?」
そうだ、苦しんでいるぞ。
どうして苦しんでいるか考えろ?
ヒントは君らのすぐ背後だ。
オレはそれでも顔をあげ、ストーンパイルを繰り出す。
だが心持ちサイズも小さくし、出現するスピードもゆっくりにしていく。
聖女を抱きかかえている皇子でも余裕で回避できるスピードだ。
「なんだ、気のせいか……弱っていないか?」
「いや、気のせいじゃない、間違いなく弱体化している! しかしなぜだ?」
皇子、後ろ後ろー! と叫びたいのを我慢して、オレは演技を続けるのだった。




