『魔王塔、屋上。獄土の王(3)』
「遊んでいるのか!? どこまでも愚弄してくれるな!」
威勢のいい始まりの合図とともに駆けだした皇子たちであるが、戦闘状況は何も変わっていなかった。
オレと彼らの距離は一向に縮まらない。
比喩でもなんでもなく物理的な距離である。
そう、戦闘における唯一の問題が露呈していた。
魔王ツッチー様は、近接戦闘ができない。
よって近づかれる前に床から生やす土の杭、ストーンパイルで寄せ付けない。
「くっ」
「はっ」
「きゃあ!」
そして皇子たちは足元から生えてくる土の杭をよけるのに必死。
オレはそれをただ眺めているだけだ。
これが屋内であれば壁からもストーンパイルや、天井からのストーンツララという手もあるが、あいにくここには床しかない。
よって、えんえんと下からのストーンパイルだ。
予想していた展開ではあるが、思っていた以上に地味すぎる。
これでいいのか、土の魔人ツッチーよ。
ラスボスにあるまじき地味さではないか? と思わんでもないが、それをふまえてでも塔の屋上というロケーションは捨てがたかったのだ。
多少、最終決着シーンまでの過程が地味になるのは許容範囲としたい。
しかし、相手からすればそんな事情はわからないわけで。
当然ながら、こんな反応が返ってくる。
「戦いの礼儀も知らぬ魔人め!」
「我々の相手なんぞ遊びで十分というわけか。だがその油断が命とりだ!」
前衛二人が侮辱されたと思ってか怒りまくっている。
三対一に礼儀はあるのか?
それに遊びじゃなくて全力なんだよ。
いや、全力ではないが真面目に本気だ。
もし距離をゼロにされたら為す術は……それなりにあるが、期待されるような殺陣のごとき戦闘シーンは披露できない。
よってオレもそれなりに懸命にストーンパイルで皇子たちの相手をしている。
ほどほどのケガはいいが、身動きができなくなるような重傷はマズい。
そして、しまらない理由として最もたるものが、皇子たちはオレの方を見てるのではなく下ばかり見ているのだ。
ストーンパイルは下から来る攻撃なので当然なのだが、ラスボスのオレと目も合わせない絵面というのも最終決戦に似つかわしくない。
これが接近戦であれば、こうはならないんだろうね。
火とか水とか風とかの四天王だったら、さぞ最終決戦に相応しい、見栄えのする戦闘シーンを演じられる事だろう。
せめて緊迫感を増すために少し距離を詰めさせるべきか? とも思うが、何かの拍子にオレが斬られでもしたら大変だ。
いくら事故やケガに備えて霧吹きエリクサーを用意しているとは言え、やられ所が悪ければ死んでしまうかもしれない。
死んでしまってはエクリクサーとて効果はないし、即死でもしようものなら使う事すらできない。
そもそもの話、痛いのイヤだ。
だから、ストーンパイル。
そーれ、ストーンパイル。
「くそっ、近づけん!」
「魔王はまだあの魔術しか手を見せていないというのに!」
ほっとけ、この土杭がメインアタックなんだよ。
だが、こうしていつまでも勝負のつかない決戦をしているわけにはいかない。
なんとしてでもオレは自然に負けなければならないのだ。
では、どうするか?
もちろん考えてある。
魔力切れの演技だ。
キューさんの時の二番煎じと言うなかれ、もともとオレがやる手はずだったのをキューさんのミスで似たような作戦となってしまったのだ。
妖精がとっさに思いついたも、この作戦を知っていたからだろう。
ただし、さきほどの黒衣のなんとかさんのような突発案ではない証拠に、屋上には東西南北に配置して立たせた像がある。
しかも、これみよがしに手に持たせた水晶(例の職人さんに作ってもらった)が輝いている。
しばらくして、オレがミスを装って像の一つを破壊してしまう。
そこで『しまった……』とつぶやき、ストーンパイルなどを地味に弱くしていく。
きっと気づくはずだ。
いや、気づかなくとも、気づくまでがんばるつもりだ。
そして残り三つの像を破壊しようとする皇子たちをほどほどに妨害し、それでも壊されてしまったオレは苦し気にヒザをつく。
あとはカッコいい捨て台詞を残して、空を飛ぶだけである。
だいたい完璧だと思う。
大事なのはタイミング。
皇子たちがほどほど消耗したあたりで、一体目の像を壊すのだ。
オレは機をうかがうべく、目を細め、精神を集中していった。
まず皇子たちの立ち位置をここから一番近い南の像に寄せるべく、ストーンパイルの数と出現位置を調整する。
追い込み漁のごとく、だ。
「くっ」
基本的にストーンパイルは避けるしかない。
防ぎようがないこの攻撃を皇子たちが避け続けていられるのは、ストーンパイルの先端が地面を突き出たあと、一瞬のタイムラグをおいてから突出するという遅延をオレがしているからだ。
そもそもノータイムでこんなものが生えてきたら、回避できるはずがない。
……シンルゥは別としてだ。
一般人相手に回避させたいが為のディレイなのだが、皇子たちがそれを不審に感じず、こういう術だと思ってくれたのはラッキーだった。
オレはストーンパイルをうまい位置に生み出し、ゆっくりと確実に皇子たちを像へ近づけていく。
オレの意図と気づかず皇子たちはその立ち位置を操られる。
「くっ!」
「ええい、厄介な!」
近づくことすらできない魔人を相手に皇子たちは憎々し気な顔で、それでも好機をうかがっている。
さらに、オレはここぞとばかりに新しい術を披露する。
土の杭を生やすだけではなくそのまま射出する、パイルバンカー、である。




