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『魔王塔、屋上。獄土の王(2)』


続けざまに聖騎士も同じように迫ってくる。


「答えろ、魔王! その服をどこで手に入れた!?」


服?


別に魔法の服とかそういうものではないし、ただの……ああ、そうか、今日は例の船長服だ。


確かに派手だしちょっと変わっているが、カッコいいと思うんだけど?


いや、ラスボスのビジュアルとしては微妙だったか?


聖騎士も続けて声を張り上げた。


「その背中の紋章は王家のもの! それが縫われた船長服となれば、母様のご病気を治すための神霊草を求めて旅立った船団の船長であり、我が叔父以外に存在しない!」


うんんん?


なんか聞いた事があるような?


そしてめっちゃ怒ってる。


二人とも、めちゃくちゃ怒ってる。


これは難破船から引っ張り出してきた服だし、元の持ち主の遺族さんというのであれば返却するのがスジだろうか?


いや、今のこの状況で? 


さすがにそれはできないので、逆にこれを利用して、魔王っぽく振舞おうとしよう。


憎まれる分には問題ない。


魔王様は悪い奴でなければならないのだ。


さてイメージしろ。


獄土の王と呼ばれた土の魔人、孤島を支配する魔王様は、余裕あふれる最強の魔人。


ならば口調はクールでニヒルタイプがいいだろうか?


慇懃無礼でいちいちカンに障る、みたいなトークを心掛けてみようじゃないか。


「ふむ。この服の事か?」


まず、ツッコミの入ったこの船長服に関してはどうしようか。


正直に、カッコよくてサイズが合っていたから頂きました、ではマズい。


ならば。


「あの男の甥とはな。人の縁とは不思議なものだ」


知ってるふうな振りをしてみる。


こうすれば勝手に勘違いしてくれるはずだ。


「貴様、叔父上と会ったのか?」

「ああ。無口な男だったよ」


骨だったしね。


「この服は彼から譲り受けたものだ。彼にはもう不要だったようだからね」


本人の承諾は得ていないが、ダメとも言われていないのは確かだ。


「殺して奪ったか!」

「失敬な。滞在費代わりのようなものだ」


一応、この島はオレが最初に住んでいたから居住権はあるだろう。


戦女神も無人島と言っていたし、権利を主張してもいいはずだ。多分。


「もっとも、あいにく船長帽だけは見つからなかった。残念だ」


あれから何度か出入りして探したが、帽子だけは見つからなかった。


それをどうとらえたのか聖騎士が感心したように口を開く。


「さすが叔父上。船長として、船を託す者以外には渡さないだけの意地を見せたか!」

「ほう、船長帽は船長の証というわけか。ご立派な事だ」


なるほどね。


しかし船長さんが骨になっていたし、他に誰もいなかった。


という事は船長帽は海にでも飛んでいったとかで紛失したか?


ま、それはいい。


ほどほどに誤解もしてくれたようだし、このまま世間話にいつまでも付き合っていてはせっかく生まれた緊張感が台無しになってしまう。


「さて」


仕切りなおしだ。


オレは両手を広げ、わざとしらく歓迎する。


二人の予想外なセリフにここまでアドリブだったが、あらかじめそれっぽいセリフをディードリッヒがしっかり考えてくれている。


オレはそれを状況に応じて使い分けていく。


まずは改めて、ご挨拶だ。


「あらためて、ようこそ我が島へ。勇敢なる皇子とその従僕たちよ」

「誰が従僕か!」


いきなり聖騎士がキレた。


なんでそんな反応? 部下みたいなもんじゃないの?


皇子もまた聖騎士の言葉を継げるように声をあげる。


「彼は兄のような存在だ。従僕などと思った事はない!」


そんな本音と建て前みたいな事はどうでもいい。


などと言うと、また色々と怒鳴られそうなので空気を読む事にした。


「なるほど失礼した。つまりは、親友、というわけか」

「そうだ。部下を使い捨てる魔族と人間は違う!」


使い捨てられたはずのスケルトンとか吸血鬼は多分、君らのすぐ後ろで観戦してると思うけどね。


ちらりと聖女を見ると、こちらは緊張感をみなぎらせオレを警戒していた。


男どもはなんか事情が複雑そうなので、紅一点にちょっかいをかける事にする。


「かわいらしい顔が台無しだな。聖女などと名乗るならばもう少し上品にしたらどうだ? せっかくの銀髪も、ずいぶんと土で汚れてしまっている」

「……ッ!」


すると聖女が憎悪を含ませた表情になる。


「……髪の色なんて……どうでもいい!」


聖女もキレた。


……もうわけわからん。


今のオレのセリフのどこに地雷があったのか?


しかし見れば、皇子と聖騎士も聖女の反応に驚いているようだった。


「どうした?」

「……大丈夫か?」


二人の声にハッとした聖女が、口をつぐんで首を振る。


「失礼しました……つい、恐怖と、緊張、で……けれど、大丈夫です! 戦えます!」


聖女の言葉に、二人の男たち、特に皇子は納得しきれない顔のまま、しかし臨戦態勢をとった聖女に続くべく、それぞれもオレに向かって剣を構えた。


「ふむ。歓談の時間は終わりというわけか。では、ここからは……」


オレがセリフを噛まないようにして、カッコよく開戦の合図を出そうとするより早く。


「行くぞ、人の世にふりかかる災厄、獄土の王!」

「――、――……――!」


オレに向かって走り出す皇子。


無言で続く聖騎士と、何かの補助魔法をかけている聖女。


こうしてラストバトルが始まった。


せっかくディードリッヒが考えてくれた脚本のセリフくらいまともに言わせて欲しいなぁ。


がんばって覚えたんだぞ?


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[一言] ああ…… セリフ。言わせてもらえなかったツッチー(´;ω;`)
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