『魔王塔、屋上。獄土の王』
「じゃあ、皆はサキちゃんから離れないようにしてオレの活躍を見守っていてくれ」
「ツッチー、がんばってね!」
「おうよ」
そしてオレは例のごとく、外壁に穴をあけてそこから出る。
穴を空けた場所から壁に踏み台を作る。
他のみんなには螺旋階段を登ってもらったが、オレの場合はこの踏み台を操りエレベーターのごとく、上へと向かう。
これなら先に向かっている皇子たちよりも先に屋上に到着するだろう。
っと、思う間にも到着だ。
「よし。ついにこの時が来たな」
オレは屋上に異常がないかをぐるりと確認する。
屋上には腰ほどまでの高さの凹凸の壁を転落防止柵としてあつらえた。
西洋のお城のイメージで作ったアレで、狭間胸壁というらしい。
凹んだ部分から矢をいかけたりするモノだが、ウチの塔の場合は完全な飾りだ。
「いち、に、さん、よん……良し」
実に目立つような女神像が四体、この屋上には設置してある。
東西南北というように、屋上を囲うように四方に一体ずつだ。
しかもご丁寧に手には水晶まで持たせてある。
なんて思わせぶりなんだろうというぐらいの像だ。
コレが今回の肝である。
オレは空を見上げる。
屋上にはさわやかな風が舞い、青い空には雲一つない快晴。
「ああ、死ぬにはいい日だ」
さて、塔という高所。
その屋上を決戦場とした理由はおわかりだろうか?
オレはイメージする。
最高のラスボス、そのやられ方を。
そう、追い詰められたラスボスとは。
『よくぞ我を倒した! だが、貴様らの手では逝かんッ!』
と叫び、満身創痍の体で壁に身を寄せつつも、ゆっくりと歩いていく。
そして最後に皇子たちを振りかえり。
『さらばだッ!』
と、身を投げるのだ。
もちろん飛んだあと塔の外壁を操作して自分を受け止め、すばやく塔の内部へ自分を回収する。
最悪失敗しても、墜落予定地の地面を柔らかくすればいいだけだ。
どちらにせよ、確認しようと駆け寄り下を見ても、その頃にはオレの姿は視認できない。
深い森の中に墜落し、絶命したと考えるだろう。
実際これまでもそうだったが、やられたフリをするにあたって難しいのが生死の確認だ。
幹部雇用の際にもそこが重要だったため、採用までに難航した経緯もある。
運と巡り合わせが良く、スケルトンと吸血鬼という死に際を偽装しやすい人が雇えてよかった。
肝心のラスボスであるオレの場合はどうしようと悩んだ結果、生死確認そのものをうやむやにしてしまおうと考えた。
こうして身投げしてしまえば、マジマジと確認される事もない。
さすがに地上に降りて確認まではしないと思うが、それを防ぐための島に徘徊するスケルトン軍団である。
魔王は倒せただろうという確信に近い状況から、さらにスケルトンたちを相手どってまで魔人の死体を探しはしないだろうし、それをさせるほどの余裕は残さない程度の戦いを演じるつもりだ。
「問題はバトルシーンだよなぁ」
不安なのは戦闘だ。
当たり前だが、前世でも今世でも実戦経験のないオレは、この日の為にシンルゥとディードリッヒに頼んで模擬戦で修行を積んだ。
ディードリッヒの手加減をしているようには見えないように気を遣われた手加減されまくった攻撃や、シンルゥが片手でお菓子を食べながら相手をしてくれるぐらいであれば、なんとか逃げ回る事ができるようになった。
そもそも、まともに生き死にを賭ける戦いをするわけじゃない。
ある意味ではキューさんと同じ、手加減して熱戦を演じなければならないのだ。
こんなオレでも敵を倒すだけ、というのであれば簡単だ。
それこそシンルゥやディードリッヒが相手でも『この島限定』という条件があれば余裕勝ちだ。
相手の足元に超デカい大穴を空けて終了。
翼でも生えない限りオレに負けは無い。
さらに塔の屋上という条件なら、自分と透明化している仲間の足元以外の底をぬけばいい。
皇子たちは地上までまっさかさま、これで勝負ありだろう。
しかしそれではいけない。
よろしくない。
この魔王島での聖戦はそこそこ皇子側を負傷させ、追い詰めつつ、しかし最後は逆転してもらうという流れだ。
不安を押し殺すようにして、ほっぺたをペチペチ叩く。
「よーし、気合入れていくか!」
オレは階段の出口からやや離れた場所で、背中を向けて立つ。
皇子たちからすれば、余裕を見せつけられるかのようなポーズだろう。
やっているオレとしては背中からなんか投げられないだろうかとドキドキなのだが、ラスボスには相手を迎えるに相応しい威厳あるポーズというものが必要だ。
待つこと……数分? ぐらいだと思う。
三人の足音と声が背後の階段から聞こえてきた。
「……明るいな」
「屋上か?」
「風も通りがよくなって……あっ!」
どうやら最初にオレの姿を認めたのは聖女だったらしい。
「あれは!」
「魔人……いや、この孤島を統べる魔王か!」
すぐに皇子、聖騎士も声をあげて屋上へ躍り出た。
階段という狭い空間に留まる事を不利と思ったのだろう。
そしてオレと距離を保ったまま、それぞれが武器を構えた。
さて、ここから名乗りかな? と、オレが緊張しつつも振り返ろうと思いきや。
先にオレの背中に向けて皇子が叫ぶ。
「貴様……その服は……どうしてそれを貴様が着ている!?」
皇子がなにやら予想外の事を言い出した。




