『魔王塔、四階。黒衣の死神(3)』
「そういえば名乗っていなかったな、諸君。我が名は『黒衣の死神』。短いつきあいだろうが、お見知りおきを」
優雅な一礼。
本当に大したものだ、尊敬すらする。
自分を『黒衣の死神』なんて名乗れる胆力、オレには絶対にない。
「ふん、行くぞ『黒衣の死神!』」
「その黒衣、死に装束にしてくれる!」
「黒衣より深い闇に帰りなさい!」
皇子たちもスゴいな。
キミ達、もしかして出会い方が違えば、いい仲間になったんじゃないの?
それとも馴染んだと思ってたこの異世界、まだまだオレが未熟だっただけか?
オレは後ろにいる仲間達を見る。
「スケさん的には、どうなのアレ。名前のセンス、とか」
「……独創的、ではあると思います」
いつもスケさんは控えめだ。
「シンルゥは?」
「詩人と道化の口以外から、ああいったセリフを耳にするのは貴重な体験ですわね」
さすがに同僚が相手だけに珍しく気遣っている。
そのオブラートも本当に薄いものだが。
「サキちゃんの友達とかは、ああいうセリフって使う?」
「サキュバスは多分言いませんけど……夢魔、インキュバスですと、潜り込んだ相手が、夢の中で望めばあるかも?」
夢の中ですら疑問形か。
「起きてるときは?」
「……どうかなぁ、って」
サキュバス、インキュバス界隈でもあまりない事らしい。
やはりオレはまともだった。
そして激しい戦いが始まり、やがて――。
***
皇子たちをボッコボコしたダメ吸血鬼が、一人たたずんで、いや、立ち尽くしていた。
「ふむ。他愛のない」
余裕を見せつけるようにして、倒れ伏す皇子たちを見下す黒衣の死神。
明らかにやりすぎである。
やられ役という事を忘れて……。
「ほ、本当に、他愛のない……」
黒衣の死神が焦っている。
もともと青白い顔ではあるが、それを差し引いても見事な顔面蒼白である。
「こんなはずでは……」
ぼそっと本当に小さく呟いたのはをオレは聞き逃さなかった。
完全に手加減ミスってんじゃねーか。
最初のセリフは『ふむ、他愛ない』じゃなくて、接戦を演じて『ほう、なかなかやるようだな?』だったはずだよねぇ?
「さあ、立ち上がれ! 諸君らの力、そんなものではないだろう!」
ポンコツ黒衣が皇子をはげましている。
多分、過去にこれほど人間を励ました吸血鬼もいないだろうな。
しかし、なかなか立ち上がれない。
奮戦していたからね。
三階で手に入れたポーションも使い切ったみたいだし。
「がんばって! 立ち上がって!」
妖精が倒れた三人の上で飛び回り、蒼い鱗粉をかけている。
しかしすでに何度もやっているので、ふりかかる粉の量も減っている。
三人は小さくうめき声をあげるだけで、指すら動いていない。
ダメじゃん、あきらかにダメじゃん。
「どうした、そんなものか! 人の愛とは、夢とは、希望とは、そんな簡単に打ち砕かれるものか! 絶望するにはいささか早すぎるだろう!」
しでかした張本人が、一番絶望した顔になっている。
無理はない。
雇用契約書には皇子を死なせた場合、損害賠償が発生するという項目をディードリッヒがつけている。
「立ち給え、諸君。人の世の平和を背負っているのであれば、今、立ち上がらずしてどうするのかね!?」
セリフそのものは悪くない。
いかにも慢心して余裕ぶった中ボスの態度にふさわしい。
ただその中ボスがコッチに向かって、すみません、こんなつもりでは、という顔ではなければな。
サキちゃんの術でこちらの姿は見えていないので、微妙に視点はズレているのだが謝意は伝わってくる。
だからと言って、許すわけではないが。
さてこの始末、どーしたものか。




