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『魔王塔、三階。強欲の天秤(5)』


慌てて妖精の肩をつつき、サキちゃんの肩をゆすって、色々と終わった事を知らせる。


「……結局、どうなったの?」

「どうなったんでしょうか?」


周囲には蒼い液体がこびりつき、ミーちゃんが住んでいた箱は真っ二つになっている。


代わりに違う箱がなぜか土格子の中にあるという状況だ。


こんなに話が進展するまで二人に合図をするのを忘れていたとは言えないので。


「あわや! 皇子の首にかみつこうとしたミーちゃんだったが聖女の機転でそれを逃れる!」

「う、うん!」

「は、はい!」


オレは誤魔化すために、やや声をあげ、大げさのジェスチャーで早口にまくしたてる。


「聖騎士の強力な一撃を受けたミーちゃんは、住んでいた箱を破壊され大けがを負ってしまった!」


周囲の蒼い染みを指し示しながら、オレは視線を土の檻の中の箱へと移す。


それにつられて二人もやや小ぶりの箱を見る。


「瀕死になったミーちゃんが新しい箱へと逃げ込み、皇子たちは追撃を逡巡した結果、無用の危険を冒さないようにと戦闘を避けて、四階へ向かうことになった!」

「へぇ、そうなったんだ!」

「す、すごいですね!?」


誤魔化せた?


「……あれ? 誰もケガしなかったの? だったらもっと早く教えてよ! ずっと目を閉じて待ってたのに!」

「あ、そ、そうですよ!」


誤魔化せなかった。


「ごめんごめん。オレにとっても色々と予想外の展開だったから」

「ん、もう」


妖精が腕組みして、怒ったポーズをする。


サキちゃんがそれを見てくすくすと笑う。


「じゃあ、オレ達も上に移動しようか」


皇子たちが階段を上っていく後ろ姿を見て、オレたちも上に移動しようとした時。


「お待ちを。サキ殿、我々にも隠形術をよろしいかな?」

「うふふ、魔王様、お疲れさまです」


スッと近くの柱の陰から姿をあらわす、スケさんとシンルゥ。


え、いつからいたの?


「あ、ルゥとスケさんだわ。もう着替え終わって追いついてきたのね」


妖精の言う通り二人とも服が変わっている。


スケさんはボロボロになった黒いビロードローブの代わりに、白いローブで薄紅色の花吹雪が左肩から右のすそへと流れるように刺繍されたローブに着替えている。


ディードリッヒが贈ったものの一つで、当人は着るつもりがないものだったが、これを見た妖精がかわいいかわいいと連呼したため、たまに着てあげているようだ。


慣れとは恐ろしいもので、今ではスケさんも派手なローブも悪くないと思っているふしがある。


はたから見るとめっちゃファンシーなローブを着たガイコツというのは、ちょっとお目にかかれないホラーである。


シンルゥはもともと軽装だったが、先ほどまで装備していた革の胸当てやら小手やらも全部置いてきている。


というか、港町で菓子やお酒を物色するときの余所行きワンピースを着ていた。


一応、腰にまわした革ベルトで剣を佩いているあたり、仕事中ですとアピールしているようではある。


要するに二人とも完全にリラックスモードだった。


「サキちゃん、あの二人にも隠形をかけてあげて」

「は、はい! ただいま!」


オレと同様に驚いていたサキちゃんが、二人に隠形術をかける。


二人の輪郭が蒼く輝き……ここで気づく。


「あれ? 二人とも、今、オレたちの姿って見えてた?」


術のかかっていない二人に、オレ達の姿は見えないはずなんだが。


「いえ。サキ殿の術は実にお見事。どれほど近くでも視認できません」


ならどうして? という疑問を声にする先にシンルゥが種明かしをする。


「足元に散らばっている瓦礫を踏んで足跡が残ってしまったり、逆に砂ぼこりで足跡がついたりはしますのでそれを頼りに憶測でお声がけしたんですよ」


シンルゥがさらりと言う。


あ、もしかして。


「塔に入る前の道中でさ、シンルゥがたまに後ろからついていってるオレ達に視線を向けていたのも偶然じゃなくて?」

「ええ。森では足元に草がありますから、とてもわかりやすかったですよ」


まー、そう言われれば?


何もいないのに草がつぶれたりすればわかる、のか?


じゃあ、皇子たちに気付かれる可能性もある?


そんな不安が顔に出ていたのか、シンルゥが笑顔で否定する。


「とは言いましても、隠形した魔王様達がついてきていらっしゃる、という事を知っているからこそですけれど。普通は気づきません」


シンルゥがそういうのであれば、大丈夫そうか。


マンガや小説のごとく、武芸の達人が気配を察知していたとかでなくて安心した。


いや、やりかねんな。


「殺気を向けられればわかるんですが、物見遊山気分でついてこられてもさすがにわかりません」

「へー! ルゥ、すごーい!」


苦笑するシンルゥと素直に驚く妖精。


やっぱり達人系らしい。


妖精がしきりに感心していて、スケさんにも同じことをたずねていた。


「スケさんもわかるの?」

「ふぅむ。アンデッドであればこそですが生きる者の匂い、というものは感じる事がありますな」

「え? 臭い? あ、アタシ、もしかして臭う?」


その言葉に反応した妖精がクンクンと鼻を鳴らす。


「いえいえ。かぐわしき花の姫君。そうではなく、血、肉、そして魂を持つ存在への憧憬、郷愁、羨望、そういったものが鼻孔をつくのですよ。鼻などないこのような身であるのに。不思議ですな?」

「ふぅん?」


難しい事を言われて、ちょっと悩む妖精。


オレとしても興味深い内容だったが、妖精はこの後に大事な役目がある。


のんびりしている暇はないはずだ。


「皇子たち、もう行っちゃうけど上で待機しなくていいのかい?」


すでに皇子たちの姿は階段の上へと消えている。


「あ! そうだったわ! ツッチー、早く早く!」

「はいはい。ほい、どうぞ。じゃ、がんばってね」

「ふふふ、期待してなさい!」


オレは再び塔の横壁に穴を空けた。


妖精がオレの肩から羽ばたき、慌ててそこから出ていく。


この上の四階に先回りするためだ。


「姫様、楽しそうですね」

「ずいぶんと練習していたからねー」


さて、ではオレ達も四階へ向かうとしよう。


四階は塔の中で一番、資金と時間をかけて作った場所だ。


それに見合うだけの盛り上がりは欲しい所だが、はてさてどうなるか。


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