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『魔王塔、三階。強欲の天秤』


さて、皇子一行は勇者という最大戦力であり、道案内を欠いた状態で三階へと上がった。


どんな難敵、どんな障害がある事かと覚悟を決めていた事だろう。


ゆえに予想外だったのか、三階に広がる光景を見て足を止めていた。


「これは……」

「ふむ。確かにあって不思議ではないな」


三階は外壁以外の壁が一切なく、補強の為の太い柱がいくつか立っているだけの超ただっぴろい円形ワンルームだ。


端から端まで見渡せて、中央には上へと続く階段がある。


だが皇子たちは階段よりも、部屋のあちこちに無造作に置いてある木や鉄の箱が気になっているようだ。


それはそうだろう。


明らかに宝箱です、といったビジュアルの箱なのだから。


「ここは宝物庫、なんでしょうか?」


聖女が近くに置いてある、やや小ぶりの木箱を用心深く見つめている。


「罠だ」


皇子がバッサリ言い切った。


確かにその通り。


けれど、それを確かめてみないと納得できないのも人の業だ。


「有用な魔道具でもあれば、ここでの戦いも楽になるやもしれんぞ」


もっとも人間味があるのは聖騎士のようだ。


聖女が杖でつっつき始めた木箱を指さす。


「兄貴、やめておけ。聖女も迂闊な事をするな」

「階下をあれだけ強力なリッチが守っていたんだ。罠と断じてしまうのもどうかと思うぞ?」

「それは……確かにそうだが」


リスク完全回避の用心深い皇子と、リスクをとってでも戦力増強に賭けたい聖騎士か。


さて、ここまでくればこのフロアのボス……正確にはボスではないので、ううん、なんだろうか、罠というべきか。


その正体の想像がつくことだろう。


この部屋のどこかで息を潜めて待機しているその姿は立派な四角い宝箱。


正体は実にお約束な存在、そう、ミミックである。


いわゆる宝箱に潜んで、開けた冒険者の不意を襲う――魔物だ。


魔族と魔物の違い?


魔族はまっとうな生き物。


魔物はまっとうではない化け物だ。


脳や心臓が存在していないのに生命活動? をしているタイプもいるのだから生物とは言えないだろう。


わかりやすい魔物としては、スライムがいい例だ。


生物を体内に取り込んで捕食するあの透明な体には、脳や心臓といった器官も内蔵も存在しない。


そして人間だろうが魔族だろうが、動くものを補足すれば襲い掛かってくるし、意思疎通などもできない危険な存在。


この部屋にいるミミックも、そんな危険な魔物の一種なのである。


ウチの勇者様がどこぞのダンジョンの奥底で見つけ、わざわざ捕まえて持ってきてくれた。


そんな危険な魔物をどうやって、と聞いたら、あらかじめ捕まえて縛り上げておいたゴブリンをミミックに食わせ、満腹になって眠っている所を箱のフタを開かないように外から鎖でぐるぐる巻きにして持ってきたらしい。


いくらゴブリンとはいえ、やる事なす事、基本的に外道で容赦がない。


持ってきた時のミミックの箱はボロボロの木箱、しかも血まみれだったため、たまたま出迎えたオレと妖精は『珍しいモノを捕まえて参りましたよ』と笑顔でそれを担いでいるシンルゥから逃げ回った。


一瞬、きょとん、としたシンルゥはいつもよりいい笑顔になってオレ達を追いかけまわしやがった。


ちなみにミミックの中身と箱の大きさは比例しない。


ミミックにはそういったスキルがあるらしく、箱の倍か三倍くらいの中身が住んでいる事は珍しくないそうだ。


ただ、あまり極端に小さい箱には棲めない。


手のひらほどの箱から象ほどの巨体が出てくる事はさすがにないと聞いた。


……つまり、象ほどデカいミミックも存在するということか。恐ろしい。


ウチにもらわれてきた、というか、さらわれてきたミミックの箱は大人が抱えて持てる程度の大きさだ。


そう考えると小さい方なんだろう。


さて、ではこの折角のミミックをどう活用しようかと皆で考えた末、出来上がったのがこの三階。


血まみれのボロい木箱は怪しすぎるので、ヤドカリのごとく住み替えさせられないかなと、豪華なからっぽの宝箱をおいて皆で隠れて見ていたら、いそいそと引っ越しとばかりに移り住み、今に至っている。


大きさ的には最初に入っていた宝箱の倍くらいあるだろうか?


当初、箱の中身、つまりミミック本体を見るまでは、四角い箱に住んでいるからカクさんにしようと思っていた。


……スケさんもいるしね?


言ってみたいじゃん。


スケさん、カクさん、やっておしまいなさい、とか。


だが、衝撃の事実。


ミミックはモッフモフで可愛いらしい外見だった。


いや、完全にポメラニアンである。


思わずミーちゃんと名告げてしまったのは仕方ないだろう。


ミミックのミーちゃん、誕生の瞬間である。


ビジュアルはポメラニアン、体の大きさはセントバーナード以上だから違和感がすごい。


さて、そんなこんなで設置されたミーちゃんであるが、果たして活躍の場はまわってくるだろうか?


全てはこの用心深い皇子次第だ。


「魔王の塔にあるものなんて罠に決まっている。二人ともしっかりしろ」


うむ、皇子。キミは正しい。


しかし聖騎士はそうではなさそうだ。


「とりあえず、コイツを開けてみて考えないか? これだけ小さい箱なら仕込み矢などもないだろう」


皇子と聖騎士、二人の視線は聖女が杖で転がし始めた小さな木箱を見ている。


「……わかった。試しにその木箱の中身を確認してみよう」


皇子が折れた。やったね。


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[気になる点] この物語の関係図というか、恋愛関係図ってどうなってますか?主人公に春(恋愛)は来るのでしょうか?
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