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『魔王塔、一階。迷路とスケルトン』


曲がり角から現れた三体のスケルトン。


それがシンルゥの剣により一瞬で斬り砕かれる。


それでも皇子は警戒をゆるめることなく、しかし安心感の宿った顔でシンルゥを見る。


「さすが勇者と呼ばれる実力だ。君がいなかったら、我々はこの迷路でかなり消耗していただろうな」


皇子の言う通り先導役のシンルゥのおかげもあって、迷路を徘徊するスケルトンを鎧袖一触にしていく。


「お褒めの言葉、ありがたく。実は最近はスケルトンがらみの依頼が多く、頻繁に相手にしておりましたので、このくらいは」


確かにこの皇子様ご一行ツアーの計画の準備が始まってから、シンルゥの仕事の大半は、あっちこっちからスケルトンを麻袋でラッピングしてもってくることだった。


そりゃ、スケルトンの扱いだって慣れもするだろう。


「地面からスケトルンの手が生えてこないのがこんなに落ち着くなんて……」


聖女はずいぶんとトラウマになったようだ。


必要な犠牲だったのだ、ごめんね。


「しかし迷路破りの魔道具とはな。勇者として名を馳せた要因の一つはそれか」


皇子がシンルゥが手で輝くアイテムを見る。


「ええ。ダンジョンで見つけ、手にした時に専用化されてしまったようで譲渡はできません。申し訳ないですが」


専用化?


言葉の雰囲気でだいたい伝わるが、なるほど、そういうものもあるのか。


ま、今、シンルゥが持っているアイテムはそうではないんだが。


「古い遺跡には最初の持ち主にしか扱えなくなるアイテムが出てくるからな。もし、そうでなくとも冒険者ならば垂涎の品だ。その持ち主にこうして協力してもらえるだけで僥倖だよ」


皇子の視線の先、シンルゥの手にはチカチカと青く明滅する水晶玉がある。


塔の一階は迷路という情報は、老司教を経て皇子たちにも伝えてある。


その迷路を踏破するための魔道具として用意しておいた小道具だ。


ディードリッヒの伝手で普段から変わったモノを作る職人に作ってもらったのだという。


実際は迷宮踏破の機能などなく、チカチカ光るだけのオモチャだがシンルゥがそれっぽく扱っているので疑われていない。


ではどうやって道案内はどうやっているか? わざわざルートを暗記している? そうではない。


壁や天井、床に施された彫刻装飾の中に紛れ込ませた目印に従って、シンルゥがそれっぽく先導しているのだ。


もしも道を間違えようものなら、塔内部の細かい補修や彫刻の着色などを行っていたダークエルフたちの休憩所やら更衣室やらシャワー室やらにたどり着いてしまう。


そうなったら大惨事だ。まさに目も当てられない。


異世界のボスが住まう恐ろしい場所で、トイレにたどりついた皇子たちの心中など察するどころではない。


しかし仕事はキッチリこなすシンルゥだ。信用はしている。


そんなシンルゥの先導のもと、ちょくちょくエンカウントする複数のスケルトンを皇子たちは相手どっていく。


最初はカドを曲がるたびに警戒していた一行だが、しだいに慣れてきたようで、今では不意の挟撃にあっても危なげなく戦闘をこなしている。


この迷路を巡回しているスケルトンが五級の最弱スケルトンだから当然かもしれないが、ここで三級とかギリギリをせめるわけにもしかない。


ここでのスケルトンは、あくまで雰囲気づくりのための小道具。


そんなスケルトンを合わせて五十か六十は倒しただろうか。


そろそろ迷路の中のスケルトンの在庫がやばくないかな? という頃、ついに一行は広いロビーにたどり着く。


ロビーの中央に少し開けた場所があり、二階へと続く大きな階段があった。


「おお、あれは」

「ありました、上への階段です!」


聖騎士と聖女が階段の続く先に目をやり、一方でシンルゥは皇子に視線を向ける。


「少し休まれますか? ここであれば不意打ちなども防げますけれど?」


階段の周囲は視界が広く、物陰から突然に襲われるという事はなさそうだとシンルゥが提案する。


少し迷った皇子だったが、首を横に振った。


「……いや、行こう。短期決戦だ。夜になればスケルトンどもが活性化するだろう。この島で夜を明かす事は無理だ」

「わかりました、では」


シンルゥは光る水晶をしまいこみ、二階への階段に足をかける。


皇子、聖女、聖騎士と続き、そのちょっと後ろをオレとサキちゃんが続くのだが。


「……ーん、あれ?」

「お、起きちゃった?」

「あ、えーと。あー、ここって塔?」


ねぼすけさんがようやく目を覚ました。


目をこすりながらオレの胸元から這い上がり、所定の位置である肩に座り込む。


「そうだよ。今、一階を踏破し終わって、二階に向かう所」

「あー……ずいぶん寝ちゃったのね。起こしてくれればよかったのに! いいところ、見逃してない?」


自分が寝てしまったのが恥ずかしかったらしく、妖精は誤魔化すように声を荒げる。


「いや、かわいい寝顔だったからね。それにスケさんの活躍シーンまでには起こすつもりだったよ?」

「そ、そう? それなら……いいわ。許してあげる!」


かわいい。


色々とかわいい。


しかしそう言うと、照れつつそっぽを向くのであえて言葉にはしない。


オレはね。


だが、サキちゃんがにんまりと笑っている。


「姫様かわいい!」

「も、もう! サキ! ほら、ツッチー! 早く追いかけないと置いていかれるわよ!」


妖精が指さす先には階段を上っていく皇子たちの姿。


その最後尾の聖騎士の背中が見えなくなりそうになっていた。


「はいはい。サキちゃん、行こう」

「はい!」


こうして皇子たちは見事に魔王の塔の一階を踏破し、さらに恐ろしい強敵が待ち構える二階へと足を踏み入れたのだった。


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