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『魔王島、フィールドアタック編。行く手を示すは、恐怖の大吊り橋』


そんな地獄のような草原ウォークラリーもようやく終わりを告げる。


草花が薫り、時折アクセントに骨の腕が生えてくる大草原の終わりは崖であった。


まさに断崖絶壁というほどに深い谷。


言うまでもなく、落ちれば命はない。


そんな谷には一本の長い吊り橋が渡されている。


そして橋をわたった先に見えるものこそ、メインイベント会場。


「アレが魔王の住まう塔……塔なのか?」


塔だよ。他の何に見えるってんだ。


「塔だよ。塔にしか見えないよね?」


つい声に出して、同意を求めた。


「左様。実に異郷風情があってよろしいかと」

「と、塔だと思います」


言葉と表現は違えど、二人の幹部も優しい。


いや、これはオレが無理に言わせてしまった感がないか? パラハワにならないか?


確かに塔と言われて、普通に想像するものとはいささか形状が違う。


スラっとはしていない。


例えるならケーキだ。


ホールケーキによく似ている。


しかも二段どころではない。


結構な階層の高さなのだ。


つまり、ホールケーキの最上位、ウェディングケーキのような形になっている。


下が大きくて、その上がちょっと小さくて、さらに上が小さくて。


高さがある分、当然ながら一階部分は広いため、それを活用して迷路にしてある。


そんな迷路の中にはスケルトンが徘徊しているという、いかにも魔王様の塔だ。


「四天王というだけあって、ただの塔、ではないというわけか」


お、いい事いったな、皇子。


では、気を取り直して。


皇子が吊り橋の先にそびえる高い塔を見上げる。


時間と手間をかけた自信作だ。


準備期間の七割はコレにかけたといってもいい。


二階建てすら建てられなかったオレの著しい成長の証である。


「塔というのは登ってしまえば常に上下からの挟撃の危険にさらされます。ここの魔王は残忍で好戦的なのでしょう」


聖女がオレの立派な塔を見て恐ろし気に語る。


悲鳴や不安をあおる言葉で、こうして雰囲気をアゲてくれる彼女には感謝しかない。


「ああ。引き込んだ獲物は逃がさないといった所か」

「むしろここまでの道中であれば、まだ引き返せるほどの加減も感じる。だがこの橋を渡ってしまえば……」


そういう意図はなかったが、そういう勘違いは悪の魔王様としても都合がいい。


今までは遊びだ、これからが本番だよ、みたいな。


「考えていても仕方ない。我々は進むしかないんだからな。まずはこの橋を渡ろう」


皇子が声をあげる。


フォーメーションは変わらず、シンルゥが先頭に立ち、皇子、聖女、聖騎士と続く。


太い綱と厚い橋板。


四人程度の重量では橋が揺れる事もないだろう。


ディードリッヒが都合した材料を使って作ったしっかりとした作りだ。


ん?


どうやって橋を作ったか?


橋をかける知識と技術はどこから持ってきた? 


そんなものは必要ない。


そもそも手順が違う。


まず橋をかけたい場所を、まったいらに整地する。


その地面の上で橋を作る。


しっかりと橋の両端を地面に固定する。


そうしたら、橋の下にオレがでっかい谷を作る。


そーら、恐ろしい崖にかかる橋のできあがりだ、簡単だろう?


……いや、実は二回ほど失敗して橋が落ちてしまったが、三度目の正直で完成した。


というわけで、通常の橋の作り方とは異なるが、それなりに苦労をして作った橋だ。


「よし、皆、いいか? 行くぞ」


皇子の号令で、ついに全員が橋に身を預け、こわごわと歩き始めた。


オレは笑う。邪悪に笑う。


「さあて。魔王様の塔へ続く橋だ。ただで渡れると思ってもらっては困る。とっておきの恐怖というものを演出してあげようか」


オレは肩をぐるぐる回しながら。


「二人も手伝ってくれ……って、いや、ごめん、やっぱりいいや」


オレはスケさんとサキちゃんを見て、自分一人でがんばるしかないと思い直し、橋へと乗り込んだのだが。


「ふむ。お言葉ですが、いかなご命令とて務めあげる覚悟。なんでも申し付けてくだされ。お役に立って見せますぞ」

「わ、わたしも! がんばります!」


言い方が悪かったかな。


期待してないとかではなく、向き不向きの問題なんだが。


「……じゃ、オレが最初にやってみせるよ?」


オレは吊り橋を支えるローブをしっかりと握りしめ――。


全力でゆすった。


「きゃぁあああ!」


聖女の悲鳴が橋の上に響く。


「くっ!」

「風もないのに! 橋が、揺れる! 全員何かにつかまれ、振り落とされるなよ!」


オレはゆする。


まだまだゆする。


全力でゆすり続ける。


「いいやぁぁああ!」

「聖女、オレにつかまれ!」


お、ラブロマンスが始まりそうなシチュエーション。


まさに吊り橋効果か。


オレの腕の筋肉が悲鳴を上げ始めたので、恐怖演出はいったん終了する。


「ふう、ふう……どう? できそう?」


オレはスケさんを見る。


「……大口を叩きました。ワシには無理なようです」


そうだね。


スケさん腕力なさそうだからね。


骨太だと思うけど筋肉ないし。


というか、着ているローブに隠れて足元が見えてないけど、スケさんって微妙に浮いてるっぽいんだよ。


常にホバー移動だ。


ふんばりがきくとは思えない。


一方のサキちゃんは、涙目になってへたり込み、落ちないようにローブにしがみついていた。


迂闊にもフレンドリーファイヤしてしまった。ゆする前に教えてあげれば良かった。


だがしかし。


サキちゃんは涙目のままオレを見上げてハッキリとこう言った。


「わ、わたしは、がんばります!」

「おお、やってみる?」

「やります!」


サキちゃんが奮闘の意思を見せる。


しがみついていたロープを握りなおして立ち上がる。


そして腰を落とす。


「いきます!」


ぬぐぐぐぐ、と、かわいい顔を上気させて揺さぶりを始めた。


かんばれ、サキちゃん!


「おさまったか。また揺れがくるかもしれない。慎重に、だが急ごう」


皇子が聖女に手を貸しながら立ち上がる。


「ぬぐぐぐぐ!」


サキちゃんはがんばっている。


しかし皇子たちは何事もないように進んでいく。


「ぬぐぐぐっぐぐぐぐっ!」


実際、橋は微動だにすることもなかった。


ついに息も絶え絶え、ぜえぜえ言い始めたサキちゃんの肩にオレはそっと手を置く。


「サキちゃん、もういいよ。君はがんばった、感動した」

「お、お役に、立てず……」

「いや、適材適所というものだよ。現にこうしてオレたちが透明化しているおかげで、こうして作戦を遂行できるんだからね。サキちゃんがいなかったら、とてもこんなことはできなかった」


この言葉はウソ偽りなく、慰めではない真実だ。


「あ、ありがとうございます!」

「さ、あとはオレにまかせて」

「はい!」


オレは再び、皇子たちを恐怖に陥れるべく橋のロープを握りしめて。


「きゃあああ!」

「またか!」

「皆、落ちるなよ!」

「……がんばりますわねぇ」


ふはははは!


魔王島の恐怖をその身に刻め!


あとシンルゥは、せめてちょっとは慌てるそぶりをしろ。


バレたらどうする、コッチを見るな!


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