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『魔王島、フィールドアタック編。行く手を阻むは、命無き骸たち(4)』


聖女が悲鳴に近い声をあげる。


「お気を付けて! 後ろの二体、眼窩に鬼火が宿っています! そのスケトルンたちは……」


眼窩に鬼火?


あ、確かによくよく見れば、スケさんみたいに目の所に蒼い炎が浮かんでいるな。


すると。


「……――、――!」


二体のスケトルトンが何かを叫ぶようにして、手の棒きれを振り上げて打ち下ろした。


瞬間、それぞれのスケトルンの頭上にけっこう大きめな、大人が腕で輪っかを作ったくらいはある、火の玉が生まれて皇子と聖騎士に向かって飛んでいく。


「火球! 大きいぞ!」

「スケルトンメイジか!」


皇子が右によけ、聖騎士が左によける。


するとどうなるか?


「ひっ……」


標的を失った火球は、二人の後ろにいたシンルゥと聖女に向かっていく。


「しまっ……!」


皇子が自らの迂闊さに気付いた時には、シンルゥが二つの火の玉を真っ二つにしていた。


……は?


火の玉って切れるものなの?


というか、シンルゥってあんなに強いの? 


そう言えば戦った所って見た事なかったけど、あれってヤバくない?


「すまん!」


皇子がシンルゥにか、それとも聖女にか。


謝罪を投げかけつつもすぐにスケルトンに視線を戻す。


「ちっ……!」


一方、苦々しい顔でシンルゥを一瞥した聖騎士も、すぐにスケルトンへと向きなおる。


聖女が杖を構える。


杖の先端にはめこまれている大きな水晶が、蒼い輝きを宿し始めた。


「スケルトンメイジは火球を連発できません。最低でも十呼吸の合間が必要です! 前の三体の攻撃を止めてください! その間に私が! ――、――……――!」


呼吸をしないスケルトンなのに十呼吸の間とは何なのか?


などと、オレがゆるい事を考えている間に、聖女が何やら唱え始める。


戦女神がどうこう、神のご加護がどうこう、光がどうこうという文句が漏れ聞こえるあたりからして、スケルトンに有効な魔法なのだろう。


皇子と聖騎士もそれを見て、迫りくる三体のスケルトンが繰り出す槍をかわし、時に打ち返して対処する。


三倍段だっけ?


剣と槍とじゃ、それくらいの差があるとかないとか。


それをこなしているあたり、皇子たちは物理タイプの中級スケルトンよりは強いって事か。


あ、いや、あの後ろの魔法使いはどうなんだ、強そうだけどあれも三級なのか?


「スケさん、後ろの魔法使いの二体も三級? えらく強いみたいだけど?」

「はい。スケルトンメイジは瞬間火力はそこそこですが、接近されれば何もできませんので。単体では最初に呼び出したスケトルンよりも弱いかもしれませんな」

「なるほど。前衛がいてこその強さか」


前衛と後衛、役割分担は人でも骨でも大切という事だ。


「もっとも、上位のスケルトンであれば飛翔や幻術など、移動や幻惑による回避手段を持つので単体でもそれなりの働きをいたしますが」

「え、そんなのも作れるの?」


残念ながら、スケさんは首を横に振る。


「それほどのスケルトンを作り出すとなると数日かかりのひと仕事です。制御も難しく、触媒も必要です。作成にもつきっきりになってしまいます。また、今回の即座に作り出せるものに限っての五等級基準で言えば、一級スケルトンを百体作ってなお、足りぬ魔力が必要となります」


できないわけではないらしいが、金と手間と時間のかかる、ワンオフフルカスタムスケルトンといった具合だろうか?


一応、頭のすみにはおいておこう。いつかお願いする時があるかもしれない。


しかし、それってどのくらい強いのだろうか?


「ちなみにその高級スケルトンって、あの皇子たちで対処できる?」

「ふむ。シンルゥ殿が参戦されるのであれば……足止め程度は。上手くいけば軽微のダメージは期待できますが、間違いなく撃破されます」


あ、やっぱりウチの勇者様は強いんだな。


「ですが、あちらのお客人たちだけであれば、一方的に弄ばれて終わりですな」

「そこまで違うのね」

「彼らだけでは上位のスケルトンメイジに対して攻撃手段がありません。敵に空を飛ばれてしまったら皇子たち二人の剣は届きませんし、聖女とやらの退魔の力も……アレを御覧ください」


スケさんが話の途中で聖女を指さす。


長い呪文を唱え終え、持っていた杖の水晶に宿る蒼い光がいっそう強くなっている。


そして聖女が杖を掲げると、蒼い玉が上方へ飛んでいった。


「聖なる雨よ! 降り注ぎ、大地を清めたまえ!」


宙高く弾けた蒼い玉は無数の雫となり、そのまま周囲へ降り注ぐ。


そう、まるで雨のようにだ。


それを浴びたスケルトンたちは、動きを鈍らせ、やがて糸の切れた操り人形のように地面へと崩れ落ちた。


「うお、あんなに簡単に三級スケルトンが!?」


なんかすごい奥義みたいなのが出てきた。


多少、詠唱に時間はかかるとしても、これって強くない?


「中級相当の魔術ですな。アンデットに対してのみ有効で、有効範囲、射程距離、威力と、悪くはないものですが」

「ですが?」

「術者が未熟なれば、あのように」


スケさんが再び聖女に視線を戻すと、そこには息を荒げ、杖を体を預けて草原にへたりこむ聖女の姿がある。


「連発できる事を最低条件としての使い勝手の良さであります。あれではお話になりません」

「うーん、手厳しい。だが事実なのか」


確かにスケトルンには有効だが、一発で疲労困憊となってしまっては連戦となると使えないし、使ってしまえば命とりか。


「一応、アレも先ほどお話した上級のスケルトンにも効く術ではあります」

「へぇ、やっぱりすごい術じゃない?」

「はい。間を開けず、十回ほど発動させれば、目くらましになるか、という程度には」

「……それはそれで大変のような。それでいて目くらまし程度か」

「術者が十人いればよいのですよ。そして目を潰した隙に、詠唱に時間のかかる火力を叩きこみます」

「あ、そっか」


別に一人でがんばる必要はないわけか。


しかし、今は聖女が一人しかいないのだから、無いものねだりのしようもない。


「して、追撃はどうされますか?」


いまだ呼吸が整わず、胸に手をあてたままうずくまっている聖女を見る。


「うーん。今回はここまでにしとこう。思ったより消耗してる」

「かしこまりました」

「あと、三級はやめとこう。五級と四級の組み合わせで行こう」


ここからさらに三級スケルトンで襲撃させると勝負が決まってしまいそうだ。


この後の道のりとか大丈夫かな、コレ。


聖女の必殺技? により、なんとか骨たちを撃退した皇子たちは安堵した表情をみせていた。


しばらく聖女の回復を待ち、再び歩き出した一行は、警戒を緩めず歩を進めていく。


地面から骨の手につかまれるというのは相当にホラーだったのか、皇子たちの足元への警戒は強く、聖女は見ていて可哀そうなぐらい怯えていた。


しかしスケさんもそのあたりは容赦がない。


五級と四級スケルトンを混在させた十体ほどの襲撃イベントを行うたびに、聖女の足をひっかけていく。


あんまり偏るのもよくないんじゃなかと思い、一度だけシンルゥの足を狙ってみてと言ったらスケさんが渋い顔……いや、顔と言っても頭蓋骨なんだけど、そんな雰囲気を見せた。


「ご命令とあらば。しかし、後程、攻撃対象は全て魔王様がお決めになったとシンルゥ殿に告げますがよろしいですか?」


まさかの告げ口宣言。


「え、そんなにダメ? 逆に興味出てきた、やってみて。あ、三級スケルトンを三体同時で」


スケさんがそこまで言うなら、さっき善戦していた三級で行こう。


「酔狂ですな。それでは……――、――、――」


次の瞬間、三体分、六本の骨の腕がシンルゥの足をつかもうと飛び出した。


そう、勢いよく腕が突出した。


さすが三級スケルトンの速さだ。


「勇者様!」


最初に気付いたのは地面を凝視して歩いていた聖女だった。


すぐ目の前を歩くシンルゥの足元が盛り上がった瞬間には警告を発していたのだが。


「ふふ」


シンルゥはダンスでも踊るようなターンとステップでそれをかわし、地面に向けてすくいあげるように剣を一閃。


六本の腕がシンルゥの眼前ほどまで高く舞いあがり、さらに一閃するとその骨の腕が粉々に切り刻まれた。


呆気にとられる皇子と聖騎士と聖女、そしてオレ。


「……わーお」

「ですから、申し上げたでしょうに」


呼吸をしない体で、器用にため息をもらすスケさん。


そして見えないはずのこちらに視線を向けて、ニッコリと笑うシンルゥ。


実は見えてんじゃないの?


「ま、今後も不自然じゃない程度に、それぞれの足をひっかけて。皇子たちにもやらないと不自然だから」

「かしこまりました」


そして次のイベント会場までにそれぞれ一回ずつ仕掛けてみた結果。


皇子は体勢を崩し、重装の聖騎士は転びかけ、聖女は派手にスッ転び、シンルゥは笑顔を崩す事なく回避していた。


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[一言] スケさんがシンルゥ怖がってる?w 気付くと一日二回更新に戻ってて、個人的には幸せです! ありがとうございます。
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