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『魔王島、フィールドアタック編。行く手を阻むは、命無き骸たち(2)』


抜刀したままの剣を肩にかつぎながら、近くの木にもたれかかるシンルゥ。


視線は……こちらに向いていて、ニッコリと笑顔を深めた。


準備オッケーという事だろう。


しかし、シンルゥにはこちらが見えないはずなんだけどな? やっぱり気配とかでわかるのだろうか。


ま、緊張感がなくなった一行には、いい刺激になるだろう。


聖女が泉のふちにひざまずき、軽くなっていたであろう水筒で水をすくいあげる。


「冷たい、気持ちいい!」


それを口に運び、ふたたび水筒を泉にひたす。


「よし『泉でドッキリ大作戦』を開始だ。スケさん、よろしく」

「は、了解いたしました……――、――、――」


スケさんが声にならない声で何かを唱えた。


かつて眼球があった二つの眼窩に灯る蒼い炎が、勢いを増してゆらめく。


すると。


「え? なに、あれ?」


それまで何度も水をすくって飲んでいた聖女の様子が変わる。


聖女がのぞきこんだ泉の底はそれなりに深く、いかに水が透き通っていても水草や流木などで隠れて見えない。


そんな中で白い何かがうごめいたように見えた、次の瞬間。


「きゃああぁぁあああ!」


聖女の絶叫がこだました。


水筒を水につけていた聖女の腕を、白い骨がつかんだのだ。


泉の底の土の下からガイコツたちが急に姿を現し、聖女をつかんでひきずりこもうとしている。


「くっ!」


泉の近くの倒木に腰をおろしていた皇子が走り出す。


「なんだ、どうした!?」


鞘におさまったままの両手剣を担いで走り出す聖騎士。


「ふふ」


その頃にはすでにシンルゥの剣が一閃し、聖女を骨の拘束から解き放っていた。


……って。


いや、なにやってんだよ。


予定と違って対処があまりにも早すぎる。


もう少しわちゃわちゃさせて、皇子たちが対処できなければシンルゥが対処するという流れだったはずだ。


うーん、シンルゥめ。さては段取りを間違えてミスったかな?


腕を切断されたスケルトンたちは再び水底へと潜っていき、泉は静謐を取り戻す。


「あ、あ、ありが、ありがとう、ございます」


腰をぬかして座り込んでしまった聖女が、助けを求めるようにシンルゥへと手を差し向ける。


「どういたしまして」


だがそう言ったシンルゥが聖女の手を取る事はなく、自分で立ち上がらせる。


老若男女、地位も身分も関係なく、全方位に厳しいシンルゥ。さすがである。


「無事か!?」


かけつけてきた男たちに、シンルゥは涼しい顔で声をかける。


「あら? そんなに息を切らしてどうされました? 休める時に休むのも仕事の内ですよ?」


シンルゥが皇子と聖騎士、特に聖騎士の顔を見て言い放つ。


「この程度、それなりの冒険者であれば茶飯事ですので、お気になさらずゆっくり休んでらして?」


あーあーあ。


やっぱりさっきの聖騎士とのやりとり、根に持ってたのか。


こうやって意趣返しをしたくて、さっきの骨達を瞬殺したわけだ。


「……貴様」


だがさすがに今回は言い返しようがないのか、聖騎士は顔を赤くしただけで二の句が継げない。


それを見た皇子が、苦い顔で仲裁に入る。


「兄貴、引いてくれ。勇者もわきまえてくれ。確かに兄貴に否はあったが、戦地で仲たがいしても良い事はないだろう」

「私は別段なんとも思っておりません。実際、この程度はよくある事なので。水場というものはあらゆる生き物に欠かせないもの。そして水を求めるものを狙う格好の餌場でもあります。警戒してしかるべき場所ですから」


涼しい顔で言い放つシンルゥに対して、聖騎士が詰め寄る。


「ならばなぜ警告しない!?」

「先導する私の横を駆け抜けた彼女の行動を、良し、と言われたのはどなた?」


確かにシンルゥは止めていたし、聖騎士が良しとも言っていた。


「貴様! 揚げ足ばかりとりおって!」


ついに聖騎士が剣の柄に手をかけ、さすがにそれはと皇子がすぐさま制止した。


「兄貴!」

「……くっ」

「ふふ」


うーん、完全にシンルゥに遊ばれている。


しかし、多少の悶着があったとはいえ、ここまでシンルゥが格下相手に粘着する事も珍しい。


なんか思う所でもあるんかな。偉い人が嫌いとか、そんなカンジ?


「あ、あの、申し訳ありませんでした!」


事の発端である聖女がシンルゥに向かって頭を深く下げる。


「次は気を付けなさい? 冒険者にとって、次、がある事なんて滅多にないんだけれど」


笑顔のまま厳しい言い方をするシンルゥに、聖女がコクコクとうなずく。


ま、これが普通の冒険者のクエストだったら、あそこで聖女は泉に引き込まれていただろう。


そしてヒーラーを失ったパーティーは、遠からず壊滅する……んじゃないかな? 多分。


「……では、先を行こう」


ギスギスさをともないつつも緊張感を取り戻した一行は、皇子の号令で再び出発する。


シンルゥは相変わらず余裕をもった歩き方だが、その後ろを歩く三人はいかにもな臨戦体勢となっているのがわかる。


さらにその後方を歩くオレ達は、うーむ、と、うなる。


「力みすぎじゃないか?」

「力みすぎですな」

「力みすぎかなって思います」


オレの言葉にスケさんもサキちゃんも同意する。


仕掛けさせたオレと仕掛けたスケさんにそんな事を言われてもかわいそうだが、さきほどスケルトンの顔見せも終わった。


次は本格的な戦闘イベントを用意しているので、警戒してくれるぶんにはいいのだが、かえってそれが裏目に出そうなほどに緊張している。


最悪、皇子以外は不慮の事故で不幸な結果となってしまっても計画は破綻しないだろうが、できれば三人とも生還してもらった方が後々の展開がオレにとっても良いだろう。


例えば兄弟分の聖騎士が死んでしまえば、傷心した皇子の今後に障るかもしれない。


弔いとばかりに、この島を焦土にするとか言い出しそうでもあるし。


また聖女もウチの生臭坊主の同僚だろうし、今後もこちらにとって都合よく活躍してもらう為にはやっぱり凱旋して欲しい。


本当なら、このままエンカウントイベント無しで塔まで来てもらってもいいが、無数のスケルトンが徘徊しているという設定なのでそうもいかない。


この設定があるからこそ、軍隊とかの大人数を投入されずに済んでいる。


もし大人数で制圧しようとした場合、その被害を受けた死者がさらなるスケルトンとなって甦るからだ。


……という話になっている。


老司教がそういう話にしたそうだ。


聖職者のくせにウソと演技がうますぎるだろ。


だからこそ、皇子がたった三人の仲間だけを連れて、土の魔人の首狩り作戦を決行しているのだ。


それなのにスケルトンに襲われないというのは不自然だし、こちらも予定通り襲うしかない。


「どうされますか、魔王様。そろそろ次の作戦地点にさしかかりますが」

「うーん……」


スケさんの言葉通り、やがて一行は森を抜けて平原に出る。


一面が緑で覆われ、ところどころに花々が咲き誇る大草原だ。


風が吹くたびに草原が波のように光を反射して、実に美しい。


「おお、これは見事な!」


皇子の感嘆の声に続いて、聖騎士も息をのみ、聖女も「きれい」と声をあげた。


もちろんこれもオレが整地して、生えている草花もよそから持ってきたものだ。


最初、この作戦予定地点は、ただの土と砂の平地だったのだが、妖精が『ちょっと味気なくない?』というので二人であれやこれやとやっているうちにこうなってしまった。


結構な出来栄えに妖精も喜んだが、特にダークエルフに受けがよく、ぽつぽつとアクセントとして植えた大樹の木陰では、夫婦や恋人、家族などが弁当などをもって安らぐ光景も見られ、保養施設のようなノリになっていた。


計画初期の段階で作っていたため、すっかりこの草原になじんだ彼女たちは忘れてしまっていたのだが。


少し前にオレがこの草原は戦闘予定地だからボロボロになっちゃうよと改めて言った時、妖精が思い出したように呆然とした。


ダークエルフたちも普段はオレの言葉に是も非もなく従うのだが、この時ばかりは『あー……』という顔になっていたのが実に印象的だ。


本当に気に入ってるんだな、この草原。


皇子たちが帰ったら、後でちゃんと直しておくと約束すると、皆、安心したように納得してくれた。


というわけで次の作戦『地面から生えるホネホネ大作戦』開始だ。


詳しい作戦内容?


名前の通りだよ?


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