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『時を経て、再び玉座にて』


かつて、神託の巫女と呼ばれる少女が一つの宣託を王に告げた。


『――この大陸の、高き山、広き海、青き空、そして深い森。それらに魔人たちが生まれ落ちる』


魔人。


人の姿にて、人でなき存在。


身体のどこかに黒を宿し、夜と闇からの使者とされるそれらは、例外なく強力な力を持つ。


ゆえに凶暴な魔人などが生まれれば、人の世にもたらす脅威は計り知れない。


教会は人々に語る。


魔人は人のように見えるその姿で油断させ、全てを破壊するのだと。


もし穏やかに見える魔人がいたとして、それもまた偽りの姿である。


力を蓄えて、必ず人に絶望をもたらす存在であるのだと。


巫女の言葉は続いた。


『荒ぶる炎の少年。深く眠る少女。風に舞う乙女、土にまみれた中年……もとい青年。どれも人に仇をなすであろう。ゆめ、信仰をおこたらず、星を仰ぎ、土を耕し、愛に生き、全てをもって決死に挑め。さすれば慈悲もあるであろう』


玉座の間に集まっていた者たちは、それを聞いた時、青ざめた。


魔人が四人も現れるのだ。


王は未来を思う。


生まれたばかりの双子の王子たち。


彼らが成長した時、この国には安堵と平和に満ちているだろうか。

それとも、魔人の手によって、火と悲鳴にまみれているのだろうか、と。


そんな宣託から時は経ち、十六年後――






***






「――この国だけではない。人の国、全てを救う大役。皇子バランタインよ。次にこの国を担う者の一人として、しかとやり遂げよ」


父親の顔ではなく、王としての顔で眼前にヒザをつく青年に告げる。


自分と同じく金の髪、蒼い瞳の少年こそ、この国の第一皇子であり、愛する息子である。


「勅命、この命に代えても成し遂げて御覧にいれます!」


堂々としたバランタインの宣言に、玉座に集った者たちが一斉に拍手と歓声を上げた。


「そして……幼き頃より息子に仕えてくれた我が国が誇る剣、聖騎士よ」

「はっ」


ヒザをついているバランタインの後ろには、同じく二人の若者が跪いている。


まず声をかけられたのは、銀色の鎧姿である青年だった。


皇子よりも三つか四つ年上で、柔和な顔立ちをしている。


彼もまた金髪碧眼という容姿を持っている。


「敵は恐ろしくも強大であろう魔人であるが……」


王は玉座の間に控えている巫女を見る。


かつて神託をもたらした巫女がその手に持っているのは、四つの宝玉。


常であれば礼拝堂にて厳重に警護されているそれらは、戦女神より与えられた時と寸分変わらぬ輝きを放っていた。


つまり、四天王たる魔人は全て健在。


あわよくば魔人同士、仲たがいでもして数を減らしてくれれば、とそう思わない日はなかった。


王は一日たりとてその宝玉を目にしない日はなく、割れていないか、ヒビすらもないかと、願い続け、ついぞそれは今日までかなわなかった。


王は改めて息子の親友たる青年を見る。


決意と覇気に溢れる。有望な若者だ。


「そなたであれば、きっと魔人とその配下を打倒し、未来の王も守り通せるであろう。この国でただ一人、聖騎士の称号を持つ者であるのだから」

「勿体ないお言葉にございますれば。僭越ながらバランタイン皇子の事は弟のように思っております。我が身、我が命、全てをもってこの国の未来、お守りいたしましょう」


乳兄弟として育ったこの聖騎士の言葉に間違いはなく、皇子の面倒をずっと見てきた青年である。


今は亡き王の実姉の息子であり、夫は公爵家の次男、つまり王の甥にあたる貴族。


王宮騎士としての英才教育を受け、剣と魔術の鍛錬を積み、礼儀作法に関しても非の打ちどころの無い、まさに


国で最高の騎士であった。


このような場でなければ第一皇子の事をバランと呼び、バランタインもまた兄と呼ぶほどに慕っている。


側近であれば二人の関係は周知である。


「うむ」


どこか姉の面影を残す甥に向かい、王も満足げにうなずく。


「そして最後になったが」


最後に声をかけたのは、ヒザをついた床に泳ぐほど長い銀髪をもった少女だった。


「聖女よ」

「はい」

「か弱き娘を魔人の住まう島へと送り出す、我ら年寄りを恨んでも構わん」


王は前の二人とは違う、苦し気な顔で語りかける。


「だが使命を果たし、救世の一歩を為してほしい」

「はい、戦女神様の名において」


聖少女と呼ばれた娘はあどけなさの残る顔に微笑みを浮かべる。


そして白いローブの胸元でゆれる聖印のペンダントを、同じくヒジまで覆う白い手袋をはめた両手で包むようにして祈りを捧げた。


おお、と周囲から感嘆のため息が漏れる。


長い銀髪と聖印に祈る姿。


それは絵画でよく描かれる戦女神の肖像画を思わせる光景を彷彿とさせたのだ。


王は深くうなずき、玉座から立ち上がる。


「余はこれより教皇とともに礼拝堂にこもり、戦女神へ祈りを捧げる。若人たちよ、必ず生きて帰ってこい」

「はっ!」


三人が声を合わせ、決意と覚悟を示す。


王が謁見の間より立ち去り、玉座には権威だけが残った。


本日は三回更新の予定です。

よろしくお願いします('ω')ノ

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