『神霊草、またの名をマンドラゴラ』
「マンドラゴラが植生しているのですか!?」
ディードリッヒが大きな声をあげる。
植生ってなんだっけ?
多分、生えてるって事だろうから頷いておく。
次いで、こちらも驚いた顔の領主がマンドラゴラの価値を教えてくれた。
「単純な資金というよりも必要としている機関などに供与する事で見返りを求める事ができます。マンドラゴラは様々な方面で触媒として需要が高く、また希少であるがために高額ですが、金を出せばいつでも買えるというものではありません。特に治療方面ではエリクサーの原料ともなるので……」
領主が老司祭へと視線を投げかける。
「ふむ、まさか神霊草の名が出るとはの。教会が最も欲しているのがまさしくそれだ。信徒の治療というのはまさに神のご加護であるのでな。薬草の類はいつも足りておらん」
苦笑を浮かべる老司祭に、シンルゥがまたちょっかいをかける。
「求心の為の必要経費ですものねぇ。もっともそんなお高くつく神のご加護なんて、裏町にはまわってきませんけどね」
はいはい、すぐにケンカしない。
とにもかくにも、再確認だ。
「司祭様。オレには必要額の足しになるかどうかはよくわからないんだが、あのキノコどもでなんとか手を打ってもらえるかな?」
「……数と質にもよりますが、いかほどが期待できますかな?」
正直、かつて住んでいたあの場所が、今どうなってるかもわからんからなぁ。
「オレも久しく見ていないのでなんとも。皆で確認しに行きませんか?」
オレと四人、そして。
「ツッチー、お話まだ終わらない?」
家の中でおりこうさんに待っていた妖精も、ついに退屈に飽きて出てきた。
シンルゥの時の事はシッカリ覚えているようで、用心しつつ様子をうかがうようにやってくる。
「ほ。妖精か。これはこれは」
対して老司祭は妖精に何かしようという様子はなかった。
一応、オレも妖精が出てきた瞬間から、彼女を守るべく身構えてはいたが杞憂だった。
「だぁれ、このおじいちゃん」
「うーん……新しい悪人友達、かな?」
だれ、と言われてもオレも困る。
仲間に引き込められれば、悪人仲間である事に違いはないと思うが。
「ほっほっ。いまだ候補、でありますがな。末永い付き合いができれば願ってもない。それもこれも、これから見せていただくもの次第ですが」
老司祭は妖精に友好的な態度をとるが、確かに話はまだ決まっていない。
「ツッチー? 何か見に行くの?」
「アレだよ、覚えてるかな? マンドラゴラの畑」
畑!? とか、栽培しているのか!? とか、悪友候補と悪友たちが会話の外で騒いでいるが、今は無視する。
「あー、あったわね。あの子たち、元気なのかな?」
「それを見に行こうって話になったんだよ。このおじいちゃんが……人助けに必要なんだって」
オレは妖精に現状のややこしい話をうまく説明できず、それっぽくごまかした。
「ふうん? おじいちゃん、人助けしにきたの?」
「この身は神職にて。神父と言えばわかりやすいですかな?」
「あー、神様のお使い? えらいわね! ……ね、ね、ね、あれやってくれない? 神のご加護を、っていうやつ……」
「ほほ、お褒めにあずかり恐縮ですな。では、こちらへ」
妖精がにっこにこになって、老司祭の目の前まで飛んでいく。
……大丈夫だよな?
危ない事されないよな?
妖精を迎えた老司祭が笑顔になる。
少なくともオレがこれまで見ていた老司祭の笑顔とは違う、慈愛を感じさせる笑顔で、妖精の小さな頭にその皺だらけで骨ばった手のひらをかざす。
逆の手は胸元に下げている聖印を握っている。
「この小さき乙女に神のご加護を」
それを受けた妖精が、ありがと! と礼を言ってオレの肩へと戻ってくる。
「すごい嬉しそうだね?」
「うん! 昔、アタシたちの隠れ里にも旅の神父さんが来たんだけどね! アタシだけ、ご加護やってもらえなかったから、今、すごい嬉しいんだ!」
時折、垣間見える妖精の過去。
オレはあえて何も聞かず、良かったね、と笑いかける。
「さて、早速と行きたい所だが、夜も更けた。今夜はここで一泊してもらって、明るくなったら現地に確認に行こう。それぞれに家を用意するから使ってくれ」
そしてオレは全く同じ箱型の家を四つ周囲に作り出す。
老司祭のみが驚き、他の者はオレに礼を述べる。
「毛布とかはないけど、翼竜に何か積んでないかな?」
オレがたずねると、二人は翼竜に騎乗している際の防寒具や毛布などがあるという事で、それらを流用する事になった。
急な来客用に寝具とか用意しておくべきか?
いや、それならいっそ来客用の家を用意して、内装も整えておく方が楽だな。
そのうち作っておこう。
「じゃ、そういうわけで、おやすみ」
「みんなー、おやすみなさぁい!」
就寝の挨拶に皆も応えて、それぞれの家に寝具を持ち込んで入っていく。
明日は大変そうだし、さっさと寝るとしよう。




