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『勇者、独白:絶望の向こうにあった楽園(4)』


自分のスキルを信じて、まさに命がけの命乞いをした結果。


私は拍子抜けするほど、アッサリと命を拾った。


腕の一本、目の一つ。それぐらいは覚悟していた。


しかし、魔人から黄色の札を一枚与えられただけで解放されたのだ。


とにもかくにも、こうして私は生きたまま島から還る事ができた。


もはやこれは奇跡だろう。


行きと同じく私は領主の、いやこれからは先輩であり同僚である領主様の翼竜に同乗している。


背後には『精霊手』を常に意識しているディードリッヒさんの飛竜が飛んでいる。


彼らは私の裏切りを警戒しつつも、ご主人様である魔人ツッチーの言葉には逆らわず、表面上は私を仲間として扱うだろう。


私はどうするか?


金づる、もとい、お人好し……もとい、港街の多くの住人を救った善たる魔人を裏切って本国に報告する?




バカな。




問題の真相を知り、黒幕すらも知った今であれば、こんなに素晴らしい状況はない。


私は私の命の手綱を握られ、しかも念入りに口止めとして金を握らされて、仕方なく虚偽の報告をするのだ。


もしこの真相を解き明かす者がいれば、私がやむを得ず魔人に従ったのだと思うだろう。


不死性を持った魔人と、辺境の港町とはいえ領地を持つ貴族と、莫大な財を持った商人が結託しているのだ。


そんなのを相手に平民上がりの一匹の勇者がどうしろと?


そう、誰だって仕方ないと思うはずだ。


哀れとさえ思うだろう。


そしてこのまま真相が誰の目にも触れなければ、私はディードリッヒさんから多額の買収金、もとい口止め料を得つつ、虚偽の報告とはいえ、本国の冒険者組合からの任務も果たす事ができる。


どこかで誰かが損をしているかもしれないが、私は何も損をしない。


孤児院への送金はディードリッヒさんや領主様から差し止めを解除したという話を聞いた。


色々あって忘れていたが、とりあえず再開はしておく。


そもそも私は自分を良く見せる為に、そういった慈善活動をしているだけだ。


孤児院で育ったから寄付をする、というのは他人からすれば実に美談だ。


実際、お貴族様から民衆にまで実に受けがいい。


私が何か失敗をやらかしたとしても、勇者は孤児院で育ち寄付もしていた、ともなると酌量の余地ができる事も多々あった。


確かに孤児院に恩はある。


私が育った孤児院と、私を育ててくれたシスターには。


だがそれも今や、もう無い。


数年前の飢饉と疫病でまともな支援も受けられなかった孤児院はなくなり、身を粉にして私たちを守ってくれていたシスターは抱えた借金のせいでどこかへ連れ去られてしまった。


まだ子供だった私はそれを理解できず、また理解できたとしても止めるすべもなく、ただただ泣きわめていただけだった。


流した涙はあれが最後だ。


……いや、今更な話だ。


とにかく私は、田舎者の領主とチンケな商人が小銭稼ぎをしているだろうと思っていた所にやってきた。


それが実は、虎の巣穴、いや竜の巣穴もかくや、というとんでもない場所であったわけだが、終わってみれば、命拾いをした上に大金を得る事もできた。


しかも今後、島の秘密が守られる限りこの待遇が続くのだ。


これを手放すバカがいるだろうか?


だが、冒険者組合を相手どって島の秘密を確実に守るためには、手紙の報告だけでは足りない。


ちょくちょく本国の冒険者組合に戻り、組合長などに対して真摯に報告をする必要もあるだろう。


疑問を抱かれれば丁寧に説得する必要もある。


ささやかな土産で、相手の態度も柔らかくなるかもしれない。


そして私はそれに必要な、権力と財力という後ろ盾も得た。


それで通じないなら勇者として認められるほどの力を、路地裏の暗闇でそっと振るえばいい。


加えて、本国に戻った際には、面倒な依頼などを率先して受けることにする。


そうすれば私の発言力や信用も上がるだろうし、この島に別の調査員を派遣して私の機嫌を損ねるようなこともしないだろう。


誰もが避けるような面倒な仕事にあたる際にも、必要な装備や道具なども、ディードリッヒさんに頼めば融通してくれるだろう。


自腹を切る事なく、上質な装備や道具が使い放題。


手に入る報酬は全部私の物。


冒険者組合での地位や発言力も高まる。


「ふふふ」

「……何だ?」


手綱をにぎる領主様が私の漏らした愉悦に、細くした視線を向ける。


私は首を振る。


「いいえ、なんでも。偉大な魔王様との出会いに幸運をかみしめていました」

「……そうか。本心であれば良いがな」


領主様が疑っている。当然だろう。


けれど、まごう事なき本心だ。


本当に最高だ。


嗚呼。


魔王様、万歳!






***






……ちなみに私は自分自身をこのスキルで視た事が一度だけある。


結果はこうだ。




『技能看破』


・視界にある知性体が生誕より所持するスキルの名と効能を看破する。


・対象の所持スキルが変化、増加、喪失した場合は再度の看破を要する。


・後天的に得た技術などは看破できない。




一番最後がなかなか厄介だ。


要するに努力して得た技術などは見破れないという話。


スキルというのは生まれ持ったものだ。


だが人は無いものねだりをする者だけではない。


日々努力する者も多くいる。


例えば毎日素振りを千回して得た剣の鋭さというのはスキルではなくて、その者の才能と努力だ。


そういったものは看破できない。


だから私はこの『技能看破』を頼りにしても、これだけが全てとは思わないようにしている。


油断大敵というものだ。


そしてもう一つのスキルである『人物看破』の解説も確認する。




『人物看破』


・視界内の、人、亜人、魔人、を世界の理に当てはめて見定める。

・人物はうつろうものであり、時事により再度の看破を要する。

・錯乱、喪失、混乱など、精神が正常でない場合は正しく看破できない。




そして鏡に映った私はどんなものかと『人物看破』で視てみたところ。




種族 人間


状態 『強欲』


性格 混沌、悪




と……正直、予想していた結果だったが、わりと落ち込んだ。


無欲でないし、善人でもない。それは自覚していた。


けれど自分のスキルでこうも明確にされてしまうと、鋼を自負していた乙女心とはいえ、ひっかきキズもつこうというものだ。


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