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『ツッチー、大地に立ってから九年後。勇者の来訪』


例の勇者が調査にやってきたという報告から十日と開けず、また二人がやってきた。


「よくお似合いです」

「まさに。花の妖精もかくや、というほどに可愛らしい」


妖精はディードリッヒから贈られた白と水色のストライプ柄のワンピースにさっそく着替え、文字通り舞い上がっている。


そうして、領主がテーブルに並べている異国の菓子に舌鼓を打ち始めた。


いつも色々と持ってきてくれる二人だが、最近オレは悟った。


オレ宛てではなく、妖精宛てに色々とお高いモノを持ってくる時というのは、だいたい何かしらある時だ。


思えば前回の勇者報告もそうだった。妖精の好む菓子と果実酒が多かった。


なぜか?


万一、オレが彼らの頼み事を断っても、妖精に泣きついてとりなしてもらおうという魂胆だろう。


一番ツライ時から一緒にいてくれる妖精には、これからも一緒にいて欲しいし大事にしてあげたい。


よって妖精に、なんとかしてあげたら? と言われたら、力の及ぶ限りはきっとなんとかしてあげてしまうだろう。


つまりこうして妖精に贈り物攻撃をするというのは、オレの弱みに付け込む下準備である。


そう思うとどこか顔色が悪く見える二人組である。


妖精がおニューのワンピースで舞い踊る様を褒めたたえ、異国の菓子の説明などをしつつ次の菓子のリクエストなどを聞いてご機嫌とりの真っ最中だ。


妖精は褒められては照れつつも、しかし満面の笑顔で喜びながら、もじもじと新しいワンピースをオレに見せに来た。


「ねね、どうツッチー? 似合うかなぁ?」


スカートのすそを持って、オレの視線の先でくるくると飛び回る妖精。


可愛い。


何が可愛いってオレが褒めるのをわかっていて、その言葉を聞きに来てくれるのが可愛い。


「もちろん。最高に可愛いよ。いつも可愛いけど今日も特別可愛いね」

「そ、そうかな? ふふ、ふふっ! ちょっとお散歩してくるわ!」


そういって、最近お気に入りの場所へと妖精は飛んでいってしまった。


行先は果実酒の作業場だろう。


ディードリッヒが連れてきたダークエルフの一族が住む作業場は、そこそこ離れた場所にある。


オレ達の目に入らないようにと差配されていて、オレも用事がなければ行くことはない。


というのもディードリッヒが彼らをつれて来島してきた日、皆から挨拶をさせて頂きたいと言われ、ホイホイ顔を出したのだか、これがまぁひどい事になったのだ。


老若男女とバリエーション豊かなダークエルフ達が、ディードリッヒを筆頭に平伏して待っていた。


まさに額を土にこすりつけている。


繰り返すが、老若男女、その全てだ。


子供にまでそうさせているのがディードリッヒだとわかっているだけに、ドン引きである。


オレとしては、何にもない所だけどがんばってねーと声をかけて、あちらさんが、いえいえお世話になりますー、的なノリのつもりだった。


なのに向かった先に待っていたのは、満面の笑顔のディードリッヒと、それ以外の全員が額を地につけ、ガタガタ震えて魔王様のお言葉を待つ面々である。


いつも思うがディードリッヒはオレの事を、よそでどういう説明をしているのだろう?


領主の時もそうだったし、自分の仲間や家族にもこれだけ脅しのきいた説明をしているあたり、実はオレはいじめられているのではなかろうか。


というわけで以来、オレは極力、作業場というか、ダークエルフの集落の方には近づかないようにしている。


気を使われる程度ならともかく、気が滅入るレベルで恐れられる大家さんの立場になってみれば、誰だってそうするだろう。


相互不干渉、これが島での共同生活の暗黙の了解となった瞬間だった。


とはいえ妖精が遊びにいくぶんには問題ないようだ。


人間から扱いが悪い種族同士のシンパシーというかなんというか。


今日のように遊びにいくと、色々と察して気を遣ってくれるダークエルフ達が、蝶よ花よ、とチヤホヤ可愛がってくれるのでご満悦らしい。


されどオレのように腫れ物に触れるようにというほどでもなく。


なんというか、すごくエライ人の娘か孫か姪っ子あたりのポジションと認識して可愛がってくれているようだ。


常々、オレだけが話し相手というのもどうかと思っていたし、ダークエルフの集落ができた事は結果として妖精にとってはいい事ずくめだった。


そんな背景もあるわけだし、この二人組がこれから何を言い出すのかは知らんけど覚悟は決めよう。


さん、にー、いち……。


よし、覚悟完了、どんと来い。


「二人とも、いつも悪いな。妖精も喜んでいるよ」


同じテーブルについていながら、最初の挨拶で頭を下げた以降、オレを見ようとすらせず妖精のご機嫌をとっていた二人が初めてこちらを向いた。


待ってましたといわんばかりの笑顔である。


自分たちからは話を切り出しにくいが、お声をかけられたのだからお返事します、というノリだろうか。


色々と面倒くさい人たちである。


「いえいえ、とんでもございません。我が主、その大事なご家族ともいえる方の為とあらば」

「ディードリッヒ殿のおしゃる通りです。魔王ツッチー様にはべるとなれば、かの妖精の美しい笑顔が欠かせませんので」


今日はいつもより押しがキツい。完了したはずの覚悟がゆらぐなぁ。


「それで今日はどうしたんだい? 勇者の……」


勇者の件は順調かい? と聞こうとした瞬間、二人がテーブルに頭を叩きつけた。


痛そうな音がダブルで響く。


『申し訳ございません!』


そして声も綺麗にハモった。


イヤだなぁ、嗚呼、イヤだなぁ。


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