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『ツッチー、大地に立ってから九年後』

「おー、今日も美味しそうだな」

「そうね! 見た事ないお菓子!」


庭にあつらえたテーブルに座り、様々な種類のパンと彩り豊かな野菜を前にして、いただきます、と手を合わせるオレ。


反対側には色とりどりの菓子と小さなグラスに注がれた果実酒を並べてご満悦な妖精が、羽根をパタパタさせて浮いている。


このように基本的に菜食メインとなったオレであるが、妖精がいない所でディードリッヒが持ってきた燻製肉をあぶって食べたりしている。


お肉おいしいというのもあるが、栄養価的に野菜と果実だけでは不安がある。


魔人の体がどういうものかはさておき、食事で解消できる精神的不安なら対処しておきたい。


まぁ、妖精といる時はオレも甘いものを結構食べていてるが、腹がでたりとか、逆に痩せぎすになったりとか、そういった体形の変化がみられないので杞憂かもしれないが。


で、いつもは二人だけの昼食だが、今日は他に二人の客がいる。


客、とはいうものの、テーブルを整えたのはそのうちの一人のディードリッヒだし、彼が持ってくるものよりも珍しい遠国の菓子を持参して並べたのは、もう一人の客の領主だ。


ちなみに領主さん、と呼ぶとものすごく恐縮される為、ぜひに呼び捨てるようにとお願いされた。


「お喜びいただけたようで何よりです」


ディードリッヒが深く礼をする一方。


「遠方の菓子ゆえ珍しいものですが、こちらがご淑女のお口に合うかどうか」


領主が心配そうに妖精を見ている。

気を使いすぎだよね、この人。


「あっまーい! おいっしー!」


妖精が初めて見る菓子を抱え込んで食べている。

クッキーのようなそれはオレからすれば手のひらに乗る程度の大きさだが、妖精にとっては巨大だ。


両手で抱えて水色のワンピースを粉だらけにしながらも、少しかじっては頬をいっぱいにふくらませて満足そうな笑顔を浮かべる。


かわいい。


「二人ともありがとうな。妖精もこんなに喜んでるよ」


お礼を言うと、二つの頭がまた深く下がる。

近年ますます丁重というか、こちらに対しての敬意というものがマシマシになってるのはなぜだろうか。


この二人にとってオレが恩人というのは理解しているが、それにしても行き過ぎでは? というレベルになっている。


それとなくたずねたり、直接問いただしたりもしたが、本人たちはそれが当然という顔をするだけで、むしろ聞いたオレが変な人扱いされるのが納得いかない。


病的なのは君たちの方なんだが。


ともかく過度な気遣いは少々こそばゆいが、やってる本人たちがそれで満足しているのだから、もう放っておくことにしている。


もーどうでもいいや、好きにしてくれ、ともいう。


さて。


こんなお二人さんだが、そろってやってきて、しかもわざわざ食事を一緒にと誘われる時というのは、だいたい何かある時だ。


これがディードリッヒだけであれば果実酒の売れ行きが好調、という報告がてら妖精の服やアクセサリなどを持ってきてくれるし、領主だけであれば領地に運び込まれた珍しい舶来品などを持ってきたりしてくれる。


ちなみに領主にもディードリッヒから翼竜が一頭贈られたので、今では単身で来られるようになっている。


偉い立場の人が一人で空を飛んでやってくるというのは問題ないんだろうかとも思うが、今までトラブルがない以上は、うまい事やっているのだろう。


あ、いやトラブルというか、軽犯罪に悩まされているって話はあった。


初めて会った時、吸血鬼がどうこうって話をされたのを思い出し、あれからどうなの? と聞いたことがあった。


領主もオレが聞くまですっかり忘れていたぐらい、それらしき被害はなくなっていたんだが、代わりに菓子屋が盗難の被害にあっているそうだ。


飲食店全体に被害ではなく、甘味屋のみが被害にあっている、と。


最近は特に菓子店が増えているという事もあって、多種多様な菓子が集まる港町として有名になってきているらしい。


それに飽き足らず、領主はさらに海を越えてまで、様々な菓子を集めている。


甘味限定の食道楽とまで陰で言われているらしいが、そうまでしてなぜ菓子を求めるのか?


それはウチの子のご機嫌とりのためだ。


そんな領主が面倒を見ている菓子店の品だ、美味くて当然。


盗んでまで口にしたいと思う者もでてくるだろう。


主に未発表の新作菓子などが被害にあっており、領主としては死活問題のようだが……。


確かに悪い事だし、領主としては取り締まるべき立場だからオレが口出しはできないんだが、吸血鬼の被害が広まるよりはよかったかな? と、スルーした。


がんばって捕まえてくれ。


と、それより話は戻るが、ディードリッヒにしろ、領主にして、どちらも一人で来られるのにわざわざ、こうして示し合わせてやってくる時というのは何かある時だけだ。


しかも、こちらが水を向けてやらないとなかなか本題に入らない。


仕方なく今日もオレは気遣いのできる魔王様になるのである。


「それでどうした? 二人して何か心配事でもあるのか?」


オレの言葉をきっかけに、二人が感嘆した顔になる。


「さすが我らが偉大なる主。我々の心などすべてお見通しのご様子。お言葉通り、些事ながらもお伝えしたいことがございまして」


ほらね? やっぱりなんかあるんだよ。


あと、さっきも言ったけど、ディードリッヒの言葉遣いは年々グレードアップしてくる。


丁寧を通り越して実は馬鹿にされてるんじゃなかろうかというレベルだ。


「確かに魔王ツッチー様にとっては些事なれど、我々だけでは対処方法の決定に不安がございまして。ぜひともご意見をうかがえればと」


ディードリッヒの言葉を継ぐようにして、領主が困ったような顔でそう告げた。


イヤだなぁ、聞きたくないなぁ。


しかし、はやく聞いてくださいといわんばかりの視線が二人から突き刺さってくる。


「へ、へぇ? オレでよければ話を聞くよ」


そして二人が満面の笑顔を浮かべてて深く頭を下げ、厄介ごとの内容を話し出した。


もしかしたら一パーセントくらいは良い話かもしれない。


そんな期待を抱いて話を聞く。


「本国から魔王討伐を標榜する愚か者――勇者がやってきました」


やっぱり厄介ごとだった。

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