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『ツッチー、大地に立ってから七年後(2)』

そんなグータラな事を考えていると、気の利くイケメンが今日もまたイケメンぶりを発揮する。


「それで勝手ながら……本日はレディにこのようなものをご用意しました。いかがでしょう?」

「え、なに?」


ディードリッヒが懐から手のひらほどの木箱を取り出し、妖精に向けてフタを開ける。


その中には、妖精のサイズにあわせて作られたネックレスが三本入っていた。


魔石を研磨してさらに小さな珠にしたものを編んだネックレス。


美しいカットが施された赤い宝石のついた、絹糸を編んだネックレス。


細い金糸にからませるようにして、いくつもの花弁の形をした銀細工が咲いているネックレス。


どれも人間サイズでいえば指輪くらいのネックレスだ。


見ているだけで目が痛くなりそうな、実に精緻な細工である。


現代日本ならプラスチックや樹脂で作れそうなものが、それが彫金細工で作られていた。


明らかに一流の職人が手間暇かけて作ったものだろう。


「う、うわっ、うわぁぁ……! けど、すごく高そう……でも、うわぁ! ね、ねぇ、ツッチー?」


ここでいちいちオレの了解を得ようとする所が、いまいち高飛車レディの素質に欠ける部分である。


妖精がオレを見る。


ネックレスを見る。


またオレを見る。


ついには妖精の視線がせわしなく、オレとネックレスを往復する。


オレは苦笑してディードリッヒを見る。


ディードリッヒは、ただうなずく。


タダでどうぞ、という事だ。


このイケメンめ。もはや惚れるのも時間の問題だぞ、オレが。


オレは笑顔を浮かべて、妖精を見る。


「せっかく用意してもらったんだ。もらっておいたら?」

「え、いいの!? え、えっと、どれにしようかな!」


三つを見比べて、どうしよ? どうしよ! と、きゃいのきゃいのとしながら、ディードリッヒが持つ木箱の上でくるくる飛んで回る妖精。


今度はディードリッヒが苦笑してオレを見る。


オレは、小声で悪いな、と礼を言う。


「全部もらっとけばいいさ」

「え!? いいの! 本当に!? やったぁ!!」


いいもなにもない。


オレとディードリッヒは笑いあう。


そんな小さなアクセサリ、他に売れるアテもないんだから、全て妖精の為に用意してくれたものだろうに。


「ディードリッヒの好意らしいぞ。お代は不要だとさ。ちゃんとありがとうしなさいよ」

「いえいえ、とんでもございません。日頃の感謝を込めてのささやかな贈り物です。お気に召していただけたようで安心いたしました」


またしても歯の浮くような口説き文句が息を吐くように出てくる。


自分ではお高くてお堅いつもりの妖精が、フラフラと近寄って。


「あ、ありがとうね、リッヒ! すっごくうれしい!」


ディードリッヒの指先にキスまでする始末である。


……この気持ちはなんだろう。


ああ、娘を嫁にやるような? いや、なんか違うな。けれどそんな感じだ。


父性に目覚めたオレがそれを眺めているとディードリッヒが、ハッとした表情になったと思うと、妙にかしこまり無言で頭を下げた。


なんじゃそりゃ?


「で? 今日は何の用なんだ? 果実の採取予定日はまだ先だったろ?」


昔はひんぱんに果実の採取に来ていたディードリッヒだったが、あまり流通させると商品価値が下がってしまうというのと、店が繁盛して多忙になったというので顔を見せる日が減っていった。


今はだいたい十日から二十日に一度ぐらいのペースで、翼竜に果実運搬用のカゴを装備してやってくる。


オレが昔、知らんヤツを島に入れたくないという話を今でも律義に覚えてくれていて、一人でコツコツ採取している。


ちなみにオレ達が何か頼み事をしていると、果実うんぬん関係なくすぐに届けてくれる。


しかし、店を持ったという話をずいぶんと昔に聞いたが……。


ディードリッヒ店長が好き勝手に動ていてるあたりまだまだ小さい店舗なのだろうな。


果実は価値があるらしいが売り方が下手なんだろうか?


まぁ、それはディードリッヒの領分だ、口を出す事じゃない。


そんな忙しいディードリッヒが果実の採取でもなく、はたまたオレ達の無理難題の注文品を抱えてきたでもなく、やってきた理由。


「ええ。実は……少し込み入った話でもありまして」


いつもはオレがイエスかノーかで回答できるくらいに、要件をわかりやすくしてくれるディードリッヒにしては珍しい物言いだ。


オレは興味をひかれ、腰をすえて詳しく聞く事にした。

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主従そろって出稼ぎライフ!
― 新着の感想 ―
[良い点] 現在ここまで読み進めました! 面白いですね! この後も読ませていただきます。 今のところツッチーと妖精さんは利用される要素しか見当たらないですが、リッヒがツッチーを心底恐れていて真面目に…
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