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『ツッチー、大地に立ってから七年後』

もはや、豪邸、と言っても差し支えないだろう。


オレはこれまで立てた平屋の中で、もっともよい出来となった新居を前に深くうなずいた。


「ツッチー、今回はがんばったわねぇ」

「おうよ。どうだ、この色合い?」

「きれーい!」


そう……今回の家はなんと壁に色がついている!


外観は今までと同じなのだが、建てた家に色を塗ったのだ。


こればっかりはスキルでどうこうできなかったので、コツコツと手塗りした。


高い所を塗る時は足元の土を盛り上げ、作業台にすればいいので脚立いらずだ。


ちなみに色は薄桃色で、これは妖精の羽根と同じ色だ。


だから嬉しそうなんだね、この子。


今までなら新居を構えた場合、近くに食糧庫として果樹林と花畑を配置していた。


しかし、今やその必要もなくなった為、屋外で食事などができるようにテーブルとイスを配置してある。


なぜ必要なくなったかというと。


「同感です。すばらしい出来栄えかと」


この笑顔のイケメンのおかげである。


「ディードリッヒもありがとうな。なんか無理に手伝わせて。忙しいだろうに悪かったな」

「いえいえ、とんでもございません。お二方のお役に立てるのであれば、なんであれ喜んでお手伝いいたします」


着ている高そうな服も桃色まみれになったディードリッヒが、満面の笑顔で新居を褒めてくれる。


もちろんこのペンキ、というか顔料? を用意してくれたのもディードリッヒである。


最初はお菓子だの酒だの衣類だのと、わりと普通のものを頼んでいたオレ達であるが、最近はもう何でも頼んでいる。


これは無理だろうという物も、とりあえずダメモトで頼んでみるか、くらいの無茶振りをすることも多いのだが、ディードリッヒが笑顔で快諾する以外のリアクションをした事がない。


そうまでされると無理してるのでは? と、気を使ってしまう。


仮にもオレ達が命の恩人のいう事だから断りづらいのだろう。


ならばこちらが遠慮しなくては、と思うのが人の心であるのだが。


「そうよ! 儲かってるんでしょ!? 感謝なさい!」


人の心を持たない妖精に至っては、もはや通常では流通していないものすら作って持ってこさせている。


今もフルオーダーメイドの空色のワンピースをヒラヒラさせて飛んでいる。


木綿でできた服を綺麗に染め上げたもので、お気に入りらしく受け取ってからは毎日着ていた。


袖と裾には小さなレースまで縫い付けてある。


もちろんこんな小さな服など売ってるはずもなく、ディードリッヒが職人に依頼して作ってもらったものだ。


……恥ずかしかっただろうな。


いい歳したダークエルフの男が、お人形遊びでもしているのかと思われただろうに。


「ツッチーとアタシのおかげで、今のリッヒがあるんだからね!」


妖精から居丈高な物言いをうけても、ダークエルフのイケメンは涼やかな笑顔を崩さない。


それどころか。


「レディのおっしゃる通りです。これからもお引き回し頂ければ幸いです。ああ、それにしても、やはりそのドレスはお似合いです。レディの御髪と羽根をよく引き立てています」

「そ、そう? うん、とっても気に入ってるの! えへへ、ありがとう!」


がんばって上から目線で威張ろうとするものの、素直じゃない素直さがすぐに表に出る妖精である。


ディードリッヒも服を褒めているようで、その実、妖精の髪や羽を褒めているというテクニックを用いて、さらに妖精をヨイショしている。


イケメンで口がうまいとなると、さぞかし地元ではブイブイ言わせているに違いない。


などと嫉妬で狂いそうになっていたのも昔の話だ。


ディードリッヒには本当にいつも世話になっている。


オレとしては、妖精のわがままをできる限りきいてあげたい。


そしてディードリッヒもこうして大人の対応をしてくれるので、それにいつも甘えさせてもらっている。


その代わり、というわけではないが果実の売買に関しては全てを任せている。


妖精の言うように、儲かっているようだがオレはその全容どころか欠片も知らない。


形式上、果実販売で得た純利益の五割は、オレの名前で預かってもらっている事になっている。


そしてオレや妖精が頼んだ品の代金は、そこから引いてもらっている。


しかしオレはその金額は今どうなっているかは知らないし、頼んだ品々の価格がいくらなのかも聞いた事がない。


よって、ディードリッヒがその気になれば、好き放題できるのだ。


ビジネスパートナーというには、あまりにいい加減だと思う。


しかし、そもそもディードリッヒがいなければ、この島の果実はうまいだけの果実だ。


菓子や酒、衣類や家具などに化ける事はない。


なのでオレとしては、こちらの要望を聞いてくれる限り、数字に関しては聞くことすらしない。


これをディードリッヒが信用と受け取るか、ボロいカモだと腹で笑うかは好きにすればいい。


しかし少なくともディードリッヒから感じる親愛のようなものが、オレの気のせいではないと思いたい。


あと……正直、数字とか見たくない。


良い話の後で悪いが、多少、もうけをちょろまかされても面倒な書類とか数字を任せられるならまかせたい。


異世界であろうとも不就労収入という言葉は、細かい事がどうでもよくなるくらいに魅力的なのだ。

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