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『ツッチー、異世界に根付く』


あれから何年経っただろうか。


あの日、裏切られ、死に瀕した第一皇子バランタイン。


しかしオレと協力関係を結び、さらにシンルゥと老司教の手もあって、見事に魔眼の第二皇子を退けて王へとなった。


後から聞いた話だが、お国の礼拝堂には四天王が生きているかどうかがわかる四色の宝玉があるらしい。


そんなもんがあるならいくら魔王討伐を申し合わせてもバレるのではないかと思ったのだが。


オレが考える事なんてとっくに対処ずみだ。


老司教がオレの色の宝玉だけをバランタインの出立前夜にすりかえていたらしい。


バランタインも後から言われて気づいたそうだが、理由があって預かっていた『本物』と偽った偽物を、すり替える前にこっそりお披露目されていたらしい。


その偽物を本物と信じ込み、まったく瓜二つだと、出来栄えまで褒めてしまった。


『悪戯を成功させた時に見せる業腹な笑顔を見て気づくべきだった……』と、バランタインは苦笑して当時の事を教えてくれた。


ちなみにこの模造品を作ったのは、オレの女神像などの水晶や装飾なども作ってくれた職人だそうだ。


こういった縁の下のプロフェッショナルのおかげで、今作戦は成功したのだろう。感謝しかない。


バランタインを裏切り、礼拝堂にこもって祈りをささげるといいつつ酒宴を開いていた王と教皇の二人。


そこで偽物宝玉が、設計通りに設定通りの時間になって盛大に爆発。


まさかの時限爆弾である。


魔人が死ねば水晶も割れる、という話らしいので爆発した事そのものは不審には思われていないらしいが、その爆発の規模が攻めすぎだろう。


少なくとも割れると表現していいレベルじゃない。


破裂した水晶は周囲に鋭利な破片をまきちらし、王と教皇も軽くない負傷をしたというから本当にシャレにならない。


その後、治療のためしばらく下がっていた二人は、その間に凱旋したバランタインにスキをつかれ、ケガの療養から『病気』療養とされ、今は警備上の理由でどこで療養しているかも明かされていない、となっている。


……二度と出てくる事はないだろう。


すでに老司教が教皇代理を兼任している以上、おそらくは、まぁ、そういう事なんだろうね。


最後に第二皇子はどうなかったか?


こちらも政敵としてうまく病死として――。


「大魔王よ。新しく生ったこの実はうまいな。いや、他も全て美味いし、何年食べていても飽きない。どれもこれも魔力の含有量がケタ違いでボクの魔眼も暴走する気配すらない」


処理されてはいなかった。


今日も尊大なイケメン面で、ウチの島に居座り続けていらっしゃる。


横でおすわりしている巨大な白い獣をなでながら、酒の注がれたグラスを傾ける姿はまさに裏ボスの貫禄だ。


白い獣? ミーちゃんだよ。ずいぶんと人なつっこくなった。


最近では箱にこもっている時間より、こうして外に出ている時間の方が長い。


島の住人が自分に危害を加えないと悟ったのかそれとも別の理由からか、バランタイン撃退戦以降ちょくちょく箱から出るようになっていた。


もし島をうろつくようになると危険だと思い、どこかよそにやってもらうかとシンルゥに相談したら『ああ、ようやくですか』と言いながら危険性はないと断言したので、妖精と二人でこわごわ様子を見ていたが……。


フツーに犬だった。


デカいポメラニンとしか言いようがないほどに愛玩犬になっていた。


さらに島のあちこちで特にダークエルフの集落で子供たちと一緒に遊んでいるうちに、頭や腹を撫でられる事が気持ちいいと知ってしまったらしい。


それからは常に人の多い所を好むようになった。


特に第二皇子は撫で方がお気に入りなのか、しょっちゅう側にいる。


「大魔王、この赤い実は喰ったか? 特にうまい、酒に合う」

「そりゃ良かった。今日は食べ放題だ。それに喜べ、明日も食べ放題だ。腹が破裂するまで食べるといい。あと大魔王はやめろ」

「ふ。我らが帝国を裏で牛耳り、圧倒的な力を有するにも拘わらず、表舞台には貴様の名前すら出ない。ボクが考えるに最悪の大魔王だぞ」


責めているというより、たいしたモンだと言われているのは理解できる。


まぁ言って改めるようなヤツではないので、オレは諦めて肩をすくめた。


「はぁ。もう、好きにしろ」

「ああ、そうするよ、我らが偉大な大魔王よ……む、酒が切れたな。おい」

「は、はい! どうぞ!」


いつものごとくオレが作った土のテーブルの対面に座り、カットされた果実を高そうな銀食器で優雅に食べている。


ミーちゃんの反対側には露出の多い派手なメイド服を着た、嬉しそうに笑顔で奉仕するサキちゃんの姿があった。


「ま、あの皇子ならこの裁定も不思議じゃないかな?」


バランタインは甘い男だった。


魔眼の主であるこの第二皇子こそ本当の被害者であると考え、病死と偽って国から連れ出しこの島で面倒を見てくれと言ってきたのだ。


本人も今、チラッと言葉にしたが彼の魔眼は暴走するものらしい。


これは後に教会に封印されていた文献を調べた老司教が教えてくれた。


どういうものかというと、魔眼の持主である第二皇子が体に蓄えている魔力が少なくなってくると、周囲の人間に干渉し魔力を含む食料を集めさせるように仕向けるそうだ。


そこには宿主たる第二皇子の意思は関係なく、むしろ魔眼そのものに意思があるかのように思える。


オレをはそれを聞き、かつての世界での知識を思い出した。


そう、まるで寄生虫のようではないかと。


それらの中には宿主の脳に侵入し、ソンビ化と言われるように操るものもいたはずだ。


仮にそれが真実で、かつ魔眼に意思や知能があるとすれば相当なものだろう。


魔眼は第二皇子という立場を理解し、その権力を持って魔力を集めさせていたのだから。


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