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『魔王島、夕暮れの海辺で迎える結末(4)』


「命令に服従させる術でないなら、操られているかどうかの判断が下せないな」

「かけられた側に自覚症状がないというのが厄介すぎる。拷問にかけて自白すらさせられんぞ」


うなっているのは被害者の会のイケメン二人だ。


その通り。


もし国に戻ってまた再洗脳されても、本人にすらわからない。


そこに聖女の補足が入る。


「私も多くは知らされていませんが、あの魔眼は使い放題というわけでもないようです。それにかける相手によって効果の強さも違ってくるそうです」


皇子が、さもありなんという顔で疑問を口にする。


「制限があるとすれば人数もしくは回数? そしてかける相手次第で効果が変わるというのは、相手の抵抗力によるものか?」

「理にはかなっている。バランより魔力の少ないオレの方が、かかりが深かったようだしな」

「なんにせよ、国へ戻り次第、弟は即座に反逆罪として牢に入れる。理由が弱くとも軟禁してあの目をこれ以上誰かに向けさせる事はさせん」

「それしかないか。オレと聖女、司教の証言と権力でそこはゴリ押せるが……王と教皇はどうする?」


無敵の能力というわけでもなさそうだが、目を合わせないに越したことはないだろう。


しかしトップの二人が反対に回ると厄介か?


だが老司教が手を挙げた。


「どうした、司教?」


聖騎士が気づき、バランタインも顔を向ける。


「王と教皇に関しては手をうっておりますので。とはいえ、ここまでの展開を読み切っていたわけではないのですが、結果良ければ全て良しという具合ですな」


老司教がまたなんかうさんくさい事を言い出した。


「なに、それはどういう……ッ」

「兄貴」


聖騎士がすぐに問いただそうと迫るが、皇子がオレ達を見て聖騎士をとめる。


「……後程、詳しく聞かせもらうぞ?」


まあ御身内の話でもあるし、そっちだけでやってくれた方がいい。


オレもあんまり関わりたくない。


さて。


あとは念のために、もう一度確認しておこう。


「それで聖女さんは……オレの味方になってくれたという事でいいのかな?」

「ひっ! は、はいっ! お姉さまと……魔王様の為、何でもいたします! いたしますから、どうか、どうかっ!」


うーん。重症。


もはや恐慌状態。


少なくとも今はオレが聖女に話しかけない方がいいだろう。


「皇子? 老司教の今の話も含めて、まずはそっちで今後をどうするか決めてもらっていいか? それに従ってオレたちも協力するよ」

「ああ。できれば船を用意してくれると助かる。それもなるべく急いで」

「船ならすぐ用意できるはずだ。サキちゃん、キミ達の所にない?」

「私達は船を使いませんから……それに、島外を往復される皆さまは、全員飛竜を使われます」

「あ、そっか」


シンルゥが手をあげる。


「で、あれば。それこそあの難破船に積んであるのでは? 上陸用に小舟などがあってもおかしくないでしょう?」


確かに。


以前、物色した時はそこまで考えていなかったが、確かにあってもおかしくない。


「お、なるほど。じゃあ、これからみんなで難破船に向かっ……」

「いやぁぁ! いやぁぁあああああ! お助け、お助けください、お姉さま!」


聖女が錯乱した。


難破船に向かうと言ったとたん、新米お姉さまの足元にすがりついている。


これはもう手遅れレベルだ。


さしものエリクサーも精神疾患には効かなかったか。


オレ達だけで探しに行くという事もできるが、あの船にあった小舟というだけでも聖女を乗せようとすれば拒否反応を起こしそうだ。


「……二、三日もあれば別の所から船を用意できると思うけど、それでも時間的に厳しいか?」

「いや、その程度であれば大丈夫だろう。兄貴はどう思う?」

「そうだな。それくらいであれば聖女に無理を強いる必要はないだろう」


皇子や聖騎士も、目の前で腹を押さえてうずくまって嗚咽と胃液を吐き続ける聖女の惨状に同意した。


「良し。そうと決まれば今夜の宿はどうしようかな。いくら今後はお友達付き合いをすると言っても、オレ達と一緒だと安心できないだろう?」


オレは森の近くに立方体の家を三軒、作り出す。


室内には、土のベッドも配置してある。


さらに三人一緒に過ごせる十分な広さがある大きめの家も一つ用意した。


敵地ともいえる魔王の島だし、バラバラでいるよりも一緒にいたいかもしれないしね。


一瞬でそれらを作り出した事に驚く皇子たちへ、オレは森を指し示す。


「この通り、夜風をふせぐ寝床は用意しておくよ。腹が減ったら森の果物でもかじっててくれ。毒があったりして食べられないような実はないから安心していい。ちょっと探せばゴロゴロしてるはずだから、日が落ちるまででも十分な数が採れるはずだ。それと……水も必要か。シンルゥ、ダークエルフ達のところにいって、何人かに手伝ってもらって運んであげてくれる?」

「はい、ではそのように」


シンルゥがうなずき、ダークエルフ達の集落がある方向へと歩き出す。


「よし。これでひとまずは終わったかな?」


皆の顔を見回す。


一様にうなずくあたり、問題は残されていないはずだ。


よし。


オレが肩の力を抜くと、妖精がオレの頭の上に飛び乗った。


「ツッチー、おつかれさま!」

「ああ、みんなもお疲れ様でした」


こうしてオレたちの長い一日は、海に夕焼けが沈むころに落ち着いた。


皆、多少の疲れが見えるがケガなどもなく終えた事に満足だ。


皇子たちを運んできた騎士や、聖女の部下であり、老司教をとらえていた国教騎士たちの犠牲はあったものの、それは仕方ないし、そこまで気遣う義理も余裕もない。


勅命に従う忠臣かもしれないが、オレからすれば侵略者だ。


無理に命を奪うつもりはなかったが、そもそも、その犠牲も仲間同士の裏切りと同士討ちの結果である。


気の毒とは思うが運が無かったという以上、どうしうもない。


他にも色々な計算違いもあったが、上出来な部類の結末し言えるだろう。


と、人心地ついた時。




グオォォオン……グォオンンォン……グォンンンオン……




「あ」


……いや。


まだ解決してない。ハーフサイズの腐竜がいたな。


今はぺったりと伏せたまま、穏やかな寝息を立てていた。


って、本当に寝てるのか。体が半分になったままなのに。


しかし、さきほどまでは血やら内臓やらを切断面から垂れ流していたがそれはおさまっている。


どうやら断面をおおうように肉が再生しているのか、傷口がふさがっているように見える。


あの状態で何かを食べたらどうなるんだろうか? という疑問が脳裏に浮かぶが、それよりなにより。


「聖女さん、あれってどうすればいい? もう暴れたりしない?」


元飼い主に聞いてみた。


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