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『副船長、独白:遭難、そして飢える日々(2)』


――知らない人間たちがまたやってきた。


船からその小舟を『遠目』で監視する。


敵、だろうか。


島の敵、船長の敵、だろうか?


客だろうか? わからない。


ダメだ、ダメだ。


……まだ、ダメだ。


船から降りた三人は島の中を進んでいく。


船の中にもまだ何人か残っている臭いがするが、小舟で上陸した先に船番は必要だから人を残すのは当然だ。


そして歩き出した三人の中で、二人の男は剣を吊っている。


残る一人は聖女様のようだが……あとをつけるべきか?


この島には女子供も住んでいる。


忌避すべき呪われた種族のダークエルフどもだが、子や母に罪はない。


それにいつぞや女冒険者がお連れしてきた、いつでも笑顔の聖母様もいらっしゃる。


万が一、そちらの集落に行くようなら防がねばならない。


だが、三人の足は最近できた船長の塔へと向かっていた。


ああ、船長の客人だったか。


ならオレはここにいなきゃならない。


船長にはこの船長帽とともに、船をまかされているのだ。


外に出るのは食い物を取りに行く時だけだ。




***




再び、小船が何艘かやってきた。


また新しい客かと『遠目』で見ていると……新たな客たちは、先にやってきた三人の船の護衛に襲い掛かったのだ。


新しい客人の中には、いつもオレに御慈悲とご加護を与えて下さる、老いた聖者様もいらっしゃった。


どうやら捕らわれているようだ。


お助けするべきだろうか?


だが、島には船長がいる。


船長であれば何でもできるし、オレはこの船をまかされているのだから勝手な事はできない。




***




やがて日が暮れ始めたころ。


騒がしくなった船着き場の方から、何かが走ってこちらへとやってきた。


『遠目』で確認すれど姿は見えない。


だが生きている者の匂いが近づく。


身隠しの術だろうか?


姿なき主の足音は、板張りの甲板を走り、船内に飛び込んだ。


何者かを確認するため、背後で息を潜めて待つ。


やがて船の中で術が解けて姿を現したのは、聖印を胸に下げた赤い髪の聖女様だった。


最初に剣士の二人とともにやってきた聖女様だろうか?


その時は銀髪のだったように思う。記憶違いだろうか? 


どうも最近は記憶がおぼろげになる事が多い、困ったものだ。


オレは船に入り込んだ聖女様の様子を隠れたままうかがう。


もし何か助けが必要であれば、お手伝いしなければならない。


こんなオレでも何かの役に立てるのであれば。




***




聖女様は船内を歩き始め、オレの作った畑を見つけて驚いていた。


確かに船の中に畑などありえないからな。自嘲してしまう。


実に手を伸ばしかけていたが、触れる事はなかった。


いくらでも差し上げたいのだが……女冒険者や老聖者様から、オレは病気にかかっているからなるべく船から出たり、人と会わないようにと言われている。


その後も家具や壁の壊れた場所を見てまわっていた聖女様だが、服の下から聖印を取り出した。


それを握りしめて手を合わせて下さり、そして「安らかに」と祈りを捧げられていた。


ああ。


聖女様。


その一言で我らは救われる。


友を殺し、友を食い、あげく病に侵されたこの身が救われる。


この島に居をすえた船長は正しかった。


なにせ、オレを祝福してくださった老聖者様、手ずからパンを焼かれる聖母様、そして今度はうら若き聖女様までやってこられた。


ここは祝福された地なのだろう。


この船はもう浮かばない。


船とともに国に戻る事ができぬのなら、この地で終えると覚悟した船長に間違いはない。


聖者様からは、船長より神霊草を託されたともうかがっている。


そう、我々は勅命を果たしたのだ。


航海の先の孤島で終えるのも悪くない。


オレはただただ神に感謝した。


聖女様の祈りを邪魔するべきではない。


もし聖女様にオレから病がうつればオレは自分を許せない。


久方ぶりに心安らかになったオレがその場を去ろうとした時。




「――こんな島など滅びればいい!」




突如として聖女様が叫び、オレ達の安寧を祈ってくれた聖印を叩きつけていた。


砕けた赤い水晶が散乱する。


聖女様はそれを見て、どうして、どうして、と叫んでいた。


オレは耳をうたがう。


だが目の前の聖女様は人が変わったかのように、その赤い御髪をかきむしりながら叫んでいた。


いや、絶叫のように罵っていた。


時折やってきては、ひどく飢えるオレに笑顔で獣の血肉をくれるようになった女剣士を。


時折お越し頂き、禁忌を犯したオレに神の祝福たるお言葉をかけてくださる老聖者様を。


なにより。


船長に怨嗟の言葉を吐いてい る。


船長を魔王などと呼び、何 度も何度も罵倒している。


そしてにぎりしめられた聖印。


それを使えばこの島 に兵士たちが


やっ てきて占領するという。


島の住まう 者を


皆殺し にするとい う


ああ。


 ああ、あ。


あ゛あ゛あ゛ !!!


船長のこの船を壊すというのか


 船長と オレの仲間


達を殺すというのか


ならアレは敵だ


 アレは


食って




――いい!




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