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『魔王島、赤く染まる白浜(8)』 


老司教の悪い笑顔の先にいるはニッコニコのサキちゃんだ。


気を失ったままの聖騎士に膝枕をして実にご満悦状態であり、二人の視線が自分に向けられている事すら気づいていない。


サキちゃんを見るシンルゥは、老司教の言葉に何やら納得したようだった。


「……聖者様ともあろう方が教会の秘儀とやらを逆手にとる為とはいえ、魔族の手も借りますか?」

「神からは告げられぬ答えを魔王様から賜ったのだ。今更、淫魔や夢魔の手を借りることになんの抵抗があろうよ?」

「お髪が白くなるまで神様神様と唱え続けた人生でいらっしゃるんでしょう? その手のひら返し、極端とは思いませんか?」

「宗教家というのはもとより極端な者ばかりよの。見た事もないものをいると信じ、聞いたことのない言葉に耳をかたむけるのが生業じゃぞ?」


二人が二人だけの世界で会話を終わらせていた。


そんな中、オレはおずおずと確認する。


「それでさ……転移しちゃった聖女はどうするんだ? いいのか? この島、襲われたりしないか?」


シンルゥがにっこり笑ってオレに即答してくれた。


「大丈夫です、魔王様。最悪、聖女が食われて仲間にできないかもしれませんが、その場合もなんとか致しましょう」

「左様ですな。元より偽物の聖女であれば、その代わりもいくらでもご用意できましょうぞ。もっとも先ほども申し上げましたが、アレほど”良い腕”の持ち主は稀有でありますので無為に失いたくもありませんが」


二人は相変わらず同じ方向を見ている。


さきほどよりもちょっと遠くを見ているようだが、やはりそこには何もない。


いや、それよりも何か変な事を言わなかったか?


「……ん? 聖女が食われるだって? 転移していなくなったのに? いや、そもそも食われる?」


シンルゥは確かにそう言った。


しかしシンルゥはオレの反芻に対して、首をかしげる。


「まだ……おとぼけを? 飼いならしているのではなくて? ですから私も餌付けをしていたのですけれど?」


そんな恐ろしいペットなんて飼っていない。


いや、オレと妖精が知らないだけで実は怖い獣が島にいるとか?


と思ったが、すぐに目の前の二人を見て思い直す。


「……いやいや? ウチの島にそんな凶暴な獣なんていないはずだろ? シンルゥだって、この島の全体は把握してるはずだ」

「そ、そうよ! ルゥだって島をよく見回ってくれるじゃない!?」


オレと妖精は普段から島の安全に気を配って巡回をしてくれるシンルゥを見ている。


本人は木々に生っている果実を食べ歩いているだけと言っているが、それはきっと照れ隠しだろう。


「そうですね。もとより肉食獣の類は見た事がございませんし、魔獣や魔物の類もおりませんが……」

「じゃあ、なんで聖女が食われるなんて言い出したんだ?」

「……ええと、それは……」


珍しくシンルゥが何かを言いよどむが、そこで老司教が口をはさんでくる。


「勇者よ。あまりに魔王様をからかうのはよしなさい。”魔王様が支配する島の住人”をおびやかす危険な獣などおらんと知っておるじゃろう? ワシもこの島はよく巡り歩いて様子を知っているが”皆”魔王様に忠実であったぞ?」


そう。


忘れがちだがこのジイさんね、こんなんでも聖者様なんですよ。


だから島に住む人たちから治癒や加護を求められたりすることがある。


最初はダークエルフの住人達も教会関係者には近づかなかったが、この老司教が種族に関係なく接する優しい聖者様と知ってからは非常に友好的な関係らしい。


冗談みたいだが本当だ。オレも目を疑ったし。


だがジイさんが島民に接する態度は実に立派な聖者様だ。


優しい笑顔を浮かべながら、癒しの術を惜しみなく使う。


ザ・聖人だ。オレにもそうやって接しろ。


ちなみに老司教も果実のつまみ食いがてら、よく島で散歩をしている。


危ない場所なんかがあったら教えてくれるという話だったが、特に何かを見つけたという報告は受けていない。


「こんな老骨が気ままに歩いて回れる島ぞ? 魔王様のご加護を受けた者は、みな、仲間であり、友人であり、家族であろう? それがどれだけ哀れで、己を見失っていたとしても」

「……ふふ、左様ですね。魔王様、失礼いたしました。慣れない冗談など口にするものではありませんね?」


……え?


からかわれていたのか?


「あ……あんまりおどかさないでくれよ、この島の魔王様は気が小さいんだからな」

「そ、そうよ! ツッチーは怖がりだからおどかさないでね! アタシは別に怖くないけど!」


そうして妖精と二人で安堵していると。


「魔王様! 聖騎士様が!」

「魔王、兄貴が意識を取り戻した!」


聖騎士に膝枕をしていたサキちゃんと、その側で様子を見守っていた皇子が声を上げた。


「お、今行く!」


オレがそちらに向かおうとすると、老司教がシンルゥに視線を送っておりシンルゥは何も言わずにどこかへ歩き始めた。


「シンルゥ? どこ行くんだ?」

「……紳士は女性が一人でそっと歩き出した時に気付かないフリをするものですよ?」


は?


「……あ!」


トイレか。


しまった。


「わ、悪かった」

「もう、ツッチーは相変わらずなんだから! ルゥ、ごめんね!」


妖精がポコポコとオレの頭を叩いてくるが、オレはそれを甘んじて受けるしかない。


「ふふふ、気にしておりませんから」


そう言ってシンルゥが森の方へ歩き出したので、オレは反省を態度に表すべく、すぐに背を向けた。


そして何事も無かったように意識して、聖騎士の元へと向かった。


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