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『魔王島、赤く染まる白浜(6)』 


「どうしたのツッチー?」


妖精がオレの様子に気付いて声をかけてくる。


そう。


オレがたどり着いた真理とは。


「エリクサーって美容品にもなるんじゃないか?」

「……え?」


オレは聖騎士の顔を指す。


妖精がパチクリとした目で観察し、気づいた。


「あー、確かにお肌がつるつるになってる。男の人ってもっとガサガサしてるのにツヤツヤだわ……ね、ね、アタシもちょっとやってみたい!」

「お、やってみる? いいよ?」


妖精がオレの顔の前に飛んできて小さな両手を差し出したので、オレはそこへシュッと一吹きしてやる。


エリクサーで濡れた手を自分の顔にペタペタする妖精。


「どう? 効いてる感じ?」

「んー……あ、きてるきてる! ほっぺがフワっとして、ツヤっとして、プルンってしてきたわ!」


語彙が可愛い。


「へー、やっぱり効くんだ」

「バッチリ効くわね!」

「ふうん……ほっぺた、ちょっと触っていい?」

「えー? どうしよっかなー? じゃあ、ちょっとだけね?」

「お、すごい! ぷにっぷにだ!」

「でしょ?」


などとオレと妖精がエリクサーの新効能を発見し、その効果を臨床実験にて確認していたのだが。


いつの間にかスケさんに護衛されてやってきていたシンルゥと老司教にその一部始終を見られていた。


二人が今まで見た事のない顔になっている。


特にシンルゥの笑顔以外の表情というのは、最初に島に乗り込んできた時以来のような気がする。


「……御覧になりましたか、司教様?」

「うむ。ワシもこれまで神霊草より苦労して搾った雫を、神の御慈悲をたまわるにふさわしい者達に与えてきた。多くは不治の病。戦場で失った四肢を取り戻したいと願う者もいたし、親や子を助ける為と願う者もいた。かけがえのない願いの為、たった雫のごとき量に対して黄金と信仰を山と積んだ者たち。彼らが今の光景を見たら、嘆くか怒るか、まったく予想もできんよ……」


老司教が何が言いたいのかと言うと、貴重なものは相応の苦労があって作られるものであり、要するに無駄使いをするな、という事だ。


シンルゥも無表情でこっちを見たままだ。


にらんでいるわけじゃない、ただ見ている。


怖い。


敵に回したくない相手の一番と二番がじーっとこっちを見ている。


は? どっちが一番でどっちが二番かって? それ今重要な事?


とにかく分が悪い。


ここは素直にごめんなさいをするシーンだ。


だが……ちょっとだけ興味がわいた。


シンルゥも女性、しかも、どちらかというまでもなく美人の範疇にある容姿。


むかーし、化粧はしていない、すっぴんですよ、という話を妖精としていたのは覚えている。


だからと言って美容に興味がないというのは別の話ではなかろうか?


「……シンルゥも試してみる?」


オレが霧吹きを向けてみると、シンルゥの表情がまた変わる。


呆然という顔。


しかしそれも一瞬だった。


さきほどのような無表情によく似た、しかしまったく違う顔、つまり真顔になったのだ。


そして硬直する事、だいたい三秒ぐらい。


「お願いします」


両の手の平をオレの前に差し出した。


「はいはい」


そこへシュッシュッと二吹きしてあげると、その雫が手の肌に染みてしまうよりも先に自分の顔へと潤いをなじませた。


「……ッ!!」


シンルゥの細い垂れ目がカッと見開いた。


ちょっとビックリした。


「……すごい……私は今、本当の神の慈悲を知りました……」


手で自分の頬をなでるシンルゥ。


はたから見ているだけでわかる。


肌のツヤ? というか輝きみたいなのが見て取れるレベルだ。


さすがにシンルゥに触らせてとは言えないが触るまでもないほど、ほっぺがツヤツヤしている。


感極まったように恍惚とした表情のシンルゥ。


一方で、口の中いっぱいに苦虫をほおばったかのような顔になった老司教がつぶやく。


「……神よ。この島は恐ろしい所です。皇子は兄と慕っていた聖騎士に裏切られ、その聖騎士もまた教会の擁する聖女に裏切られ。ついには勇者と讃えられる者までも邪教徒であったことが判明しました……」


今、シンルゥが目を閉じて自分のまぶたの中に見ている神様と、老司教のあがめる神様は別人だろうしなぁ。


「一応、聞くけどやってみる?」

「……ワシにそれをどうせよ、とおっしゃる……?」


確かに老司教のシワシワに効くかはあやしいし、そもそも望んでいないだろうからなぁ。


「まあまあ、女性のご機嫌とりは大事だぞ」

「それがどれほど貴重なもので、どれほど労を要して作られたものでるとお思いですか」


いかん、女性陣のご機嫌はマックスだが、老司教の不機嫌ゲージも振り切れていそうだ。


もしくは不機嫌を装って、何かオレに要求しようとしている見慣れたムーブだ。


ともかく、今度こそ、ごめんなさいをしようとして……ふと思い出した。


皇子や聖騎士のケガとか、その他あれもこれも、色々と予定になかった苦労をしたのってさ。


「……っていうか、教えてもらった計画とずいぶんと違ってるんだけど、それに関しては……」

「では、お互い様、ということで」


握手を求めるように手を差し出された。


老司教がそんな事をするなんて思いもせず、つい、慌ててオレも手を差し出して握手を交わした。


「さすが偉大なる魔王様。器が広く、心も広い。この老いた神の子羊からすれば、実にまぶしいほどの御方であります」

「え? あ、うん?」


……え?


もしかして今ので全部うやむやにされた感じ?


あんな苦労、こんな苦労、全てトントンにされたの?


しかもオレが自分に使ったわけでもないエリクサーなのに?


「さて。それでは残った問題はあの腐れ竜ですな。半分になったとはいえ、死から蘇った腐れ竜。周囲の魔力を吸い取り、自身の肉体を再生して暴れ続ける、いわゆるアンドテッドであるわけですが」


あ、完全に終わった話題にされた。


老司教相手に話を蒸し返せるほど弁が立たないオレは泣き寝入りする事にした。


いつの世も人間が一番恐ろしいというのは異世界でも共通か。


「あ、うん。確かに危ないな。なんとかできる?」

「この老骨に何ができましょう。ですが、まぁ……しばらくすれば、大人しくなるでしょう」

「え?」


老司教の言葉の意味を考えるがよくわからない。


シンルゥに視線を送って、遠回しにどういう事か聞いてみると。


「左様です。あの体躯を再生させるのであればとりこむ魔力の莫大でしょう。さらにあの再生速度からして、すでに大量のマナをこの島から吸っているわけですから」

「ううん?」


さっきからこの二人だけが、色々と知っているような会話をしている。


そしてオレの理解が及ばないまま、事態は変わっていき。


「あ」


二人が言っていたように、ドラゴンゾンビが急に大人しくなったのだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 何に気付いたのかと思えば、美容w シンルゥも食いつきますよねぇ
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