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『魔王島、赤く染まる白浜(2)』 


友情、共感、そういったものが生まれるのか?


ならば、もしかして穏便に事が進む可能性が?


オレがそう思ったのも一瞬、シンルゥはすでに憎まれ口を返していた。


「あら? 同情でもしてくれるのかしら? それともお友達になりたいの? けれど、敵地でおままごとはダメと教えてあげたでしょう?」


ああ、確か上陸の時にも注意していたもんな。


聖女の顔が遠目からでもひきつっているのがわかる。


好意を踏みにじられた、みたいな気持ちか?


だが悪い事は言わない、やめとけ聖女様。


シンルゥには口でも剣でも絶対に勝てないから。


そもそも裏切り行為を繰り返した君を信用するはずがない。


後ずさり、ついに船着き場までたどりついた聖女が船に向かって呼びかける。


「人が優しくしてやろうとすればこのクソ女! ……出てきなさい、魔導士たち! 火球詠唱! 私がアレを召喚するまで時間を稼ぎなさい! 最後の仕事をして帰るわよ!!」


それまで護衛をしていた弓兵たちが剣に持ちかえ、聖女を囲むようにして守る。


オレは老司教に肩を貸しているシンルゥがどう動くのか様子見をしているが二人は動かない。


間を置かず、船の中から聖女に呼ばれてさらに伏せていたのだろう人影が現れた。


合わせて三人。全員ローブ姿だ。


……魔導士って言ってたよね? あと火球とかも。


そして何より聖女はこういった。


召喚する、と。


召喚というと、やっぱりあの召喚だろうか?


こう、魔法陣が現れて、そこから何かがヌヌヌヌヌヌって出てくるアレか?


やばい。


状況は色々と慌ただしいが、どんなものか見てみたい。


だって召喚と魔法陣だよ?


これほどときめくフレーズはそうそうない。


聖女が国教騎士に守られながら船の近くまで下がる。


逆に船から降りた魔導士っぽいのが、火球をシンルゥと老司教に向けて飛ばしてけん制している。


「当てなくてもいい、近寄らせるな! ――、――、――……――!」


そんな中、聖女が手にもっていた杖に対して何やら唱えながら、最後に杖を空に突き上げた。


始まるのか、召喚術!


……いや、やっぱり止めた方がいいのか、コレ?


危なければシンルゥと老司教が動かないはずもないから、大丈夫だと思うが。


そんな中、聖女がさらに声を上げる。


「教会にとって神霊草が採れる島は邪魔だそうよ? 神の御業、教会の奇跡っていうのは、そう簡単に使われてしまってはありがたみが薄れるでしょ? それに教会に必要な量のエリクサーはすでにそこのジジイが手配してくれたしね。だからアンタたちは全員……この島でくたばれ!」


いかにも追い詰められた悪役のようなセリフを叫ぶ聖女。


堂に入った態度だ。


魔王のオレとしては実に居心地が悪い。


聖女が掲げた杖、そこにはめられている水晶が蒼く輝いている。


まるで今にも爆発しそうなほどの雰囲気がある。


「え、なになに!?」


オレの襟から妖精が何事かという顔で、ひょっこり出てきた。


「お、もう大丈夫?」

「う、うん。なんとか。ねぇツッチー、なんだかすごい魔力の放出を感じるんだけどさ?」

「あー……もしかしてアレ? かな?」


オレが聖女を指さすと妖精が、あっ、と小さく叫ぶ。


「な、なによ、あれ。すごく気持ち悪い……すごく濁った魔力よ!」

「ほー。魔力ってのにも綺麗とか濁ってるとかあるんだ。なんか召喚がどうこう言ってたよ?」

「え!? ツッチーまずいわよ! 絶対にろくでもないのが出てくるわ!」

「今の話を聞いて、そうだろうなぁ、と思ったよ」


聖女が掲げていた杖を強く握り。


「出でよ、腐りしもなお最凶の王者よ!!」


聖女が杖を足元にたたきつけた。


水晶が砕けると同時に、蒼い光が何条も白浜へ向かって這うように伸びていく。


それらの蒼い線は、曲がりくねり、時に交差し、奇怪な文様を白い砂の上に描いていった。


まさに魔法陣だった。


「魔法陣って初めて見るけど大きいな。あれで標準サイズとか? どうなの? 大きくない?」

「なにアレ! 大きすぎるわよ!?」


妖精がアワアワするほど大きいらしい。


ざっと目測だが、学校の教室くらいはある。


そして魔法陣がいっそうと蒼く輝く。


「あはは! 絶望しろ! かつて教会が封印した絶望よ! こいつが棲みつけばこの島の全てが喰われ腐り落ちる! 安心なさい? もし教会がまた神霊草を必要としたら、責任をもって退治してあげるわ!」


聖女が高笑いしながら眺めている魔法陣から、鋭い爪を持った前足が現れた。


砂浜に埋まるようにして力をこめ、自分の体を持ち上げるようとしているのだろうか。


さらにもう一方の腕も現れて、同様に力がこもっている。


見た目は鱗がびっしりと生えており、サイズは違えど見た事のあるものだった。


「……ドラゴン?」


ディードリッヒ達が乗っている飛竜によく似た見た目だ。


サイズが十倍くらい大きい事をのぞけば。


やがて答え合わせのようにして、巨大な異形が姿を現す。


長い首の先にあるのは、まぎれもなく竜と呼ばれるものの頭。


こんなの出てきても大丈夫なんだろうか?


頼りにしたくないが、頼りになる二人を見ると。


「大したものなど出てこないと高を括っていましたが……ドラゴンゾンビ? 少々厳しいですわね?」

「ふむ。使い捨ての駒にしては、たいそうなものを持たされておったな」


おいおい。


余裕かましていたのに、フツーにピンチじゃん。


なのに、何? 何で、そんな他人事みたいなの?


え、それともまだ実は切羽詰まってないの?


オレは……オレはどうすればいいの? 誰か教えて!?


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