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『魔王島、帰路編。命無き骸たち、その裏側』


恐怖の吊り橋を通過した後、帰路は森へと続く。


かつてここで皇子たちをスケルトンで襲ったわけだが、帰り道にも襲ってケガでもされると都合が悪い。


よって今回は襲撃イベントは無しで、会話を盗み聞く為にそれなりの距離でついていく。


「……骨ども、出てこないな。魔王か、もしくはリッチが操っていたか」

「そ、そ、そ、うです、ね?」


行きの道程で足をつかまれて、転ばされまくったのがトラウマになっているのか、聖女は聖騎士への返事もそぞろに足元ばかり見て歩いている。


「魔王よ。例のスケルトンどもは、後ろのリッチが操っていたのか?」

「そうだな」


オレと皇子は後ろからついてくるスケさんに視線を向ける。


するとスケさんが優雅に頭を下げる。


おお、悪役っぽくてカッコいい。


「あれも手加減されていたか?」

「ああ。魔王の支配する島っぽく雰囲気を出そうと思って、ほどほどの難易度にしようとがんばってたよ」

「ほどほど、か。それなりに脅威は感じたが。加減無しであればここで終わっていたと?」

「全員が同じ回数ずつ襲われたり、襲われる相手の実力に応じてスケルトンの質が変わったり……不自然じゃない?」


皇子が思い出すような素振りで考え込む。


「そうだな。勇者が襲われた時だけやたらと強いスケルトンだと思ったが、あの時点で彼女が最も強いとわかっていたわけか」


今度はシンルゥに視線が集まるが、シンルゥは特に変わりなく笑っているだけだ。


今の所、最初から内通していたという事は隠す方向らしいのでオレも余計な事は言わない。


そうこうするうちに、ついに森を抜ける。


そこからは白い砂浜の海岸線だ。


皇子たちが上陸してきたであろう、簡易な船着き場が見えてくる。


まだ離れているとはいえ、船と護衛の騎士は確認できる距離だ。


そのはずだった。


「……誰もいないな。襲われたか? いや、襲ったのか?」


皇子が物騒な事を言いだしオレを見る。


まーだ疑ってますね。


オレは即座に首を横に振った。


「最初の予定からお帰り願うつもりだったのに、そんな事はしないぞ」

「……だったら……いや、わずかに臭うな?」


え? 何が?


オレがつい自分の体の匂いを確かめようとすると、シンルゥも周囲を見回しつつ。


「確かに。まだそれほど時間は経っていないようですが」


だから何が?


オレが変わらず自分の体臭を気にしてモゾモゾしていると、妖精が気にして声をかけてくる。


「なに? どうしたのツッチー?」

「ああ。その、オレって……臭う?」

「何が? ツッチーはいつもお日様みたいな、大地の香りがするわよ」


土の魔人の面目躍如である。


どうだ、といわんばかりに皇子とシンルゥを見ると、二人は先を進む聖騎士と聖女の様子をうかがっていた。


聖騎士もまた足を止めて呟く。


「血臭? それに船はあれど……騎士たちの姿がない」


血の匂いって事か?


オレの体臭じゃなくて?


「……どうされました?」


聖女が怪訝な顔でたずねると聖騎士が剣を抜く。


「船の護衛に置いてきた騎士達が襲われた可能性がある」

「……え」

「骨どもであればそのあたりに潜っている可能性もあるが……」


聖女がまた足元を警戒する。


「いや、骨どもではない。護衛の姿がないということは連れ去られたか……食われたか、だろう」

「ひっ」


なるほど、そういう考え方になるのか。


「骨どもが徘徊するとなれば、人を食らう不死者、グールなんぞがいても不思議じゃない。あいつらは常に飢えているからな。生者がどれだけ身を隠しても、臭いをたどって追いかけてくる……と、聖女に対して披露するような知識ではなかったな」

「い、いえ。私も知識としては知っていますが、相対した事はないので」

「であれば続けよう。対峙した時の対処だが」


聖騎士は周囲を警戒しつつも、聖女にグールへの対処方法を語り始めた。


この島にそんな危なっかしいのはいないが、オレも後学の為に聞いておく。


「生きている人間だろうが動物だろうが木でも草でも花でも食らう。だがそれは飢えて死んだ者の末路ゆえ。死に際の想いを果たしたい、だから喰って生き延びたい、生きていたころの真似事だ」

「……グールには、強い後悔や絶望を抱え、飢えの果てに禁忌を犯した者が成り果てると言われてますものね」


聖騎士がうなずく。


「グールは不死者だ。骨どもと同じく魔力が活動源。グールは肉を喰って栄養とするのではなく、喰らった対象が持っていた魔力を摂取している。そこまではいいな?」

「は、はい」

「よって、グールが身に蓄えている魔力を枯渇させるまで活動させれば力尽きるが、どこまでも追いかけて襲ってくる不死者相手にはあまり現実的ではない」

「……疲労などなく追いかけてくるという事ですね」

「そうだ」


マナとやらが尽きれば活動不能になるが、逆に言うば体力の限界がないという事か。


どこまで追っかけてくるとかホラーだな。


「結局の所、単純な方法しかない。まず足を潰し動けなくした後、捕まれないように腕を潰し、最後に頭だ」

「最初に頭を潰すというのはだめなのですか?」

「頭蓋骨というのは硬い。生きた相手であれば、痛みや出血でひるむなりするが相手は痛みを感じないグールだ。初撃で頭を潰すか、首を飛ばせなければ、捕まって貪り食われる」

「な、なるほど……けれど、それでは私は……」

「確かにお前では無理だ」


女性にその対処は難しいだろうな、と思いつつも、そばにいるシンルゥを見る。


シンルゥは余裕の笑みで、聖騎士のアドバイスを首肯していた。


いや、聖騎士の言葉が正しいかどうかを求めたわけじゃないよ?


「だから逃げろ。グールの体の状態次第ではそれが最も生存できるか可能性が高い。蓄えている魔力が少なければ肉体の腐敗が進んでいるだろうし、筋肉が劣化していれば足も遅い。グールそのものは死なないだけの、元は人間だ。群れで襲われて囲まれない限りは追いつかれないだろう。その後は臭いをごまかすために、水場に向かえ。海か湖。そこで身を沈めてやりすごすのが現実的だ」

「……ですが、この島の湖には……」

「ああ、骨どもがいる。ならば向かうべきは海だろう。オレのような重装であれば水には入れんが、泳げるのであればそれが一番いい対処だ」


なるほど。犬から逃げるみたいな感じか。


そうして聖騎士が助言を終えたものの、聖女の顔は暗い。


「私は……泳げません」


あー。


「……ふむ? ……そうか……ならば……」


聖騎士も次のアドバイスを頭の中で探していたようだが、しばらくして。


「……では生きて帰ったら水練をするといい」

「そう致します……」


あ、サジを投げられた。


聖女、どんまいだ。


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