表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

102/130

『魔王島、帰路編。恐怖の吊り橋、再び』


皇子の遠回しの愚痴りを無視しつつ、二人の様子を注視する。


聖騎士と聖女がオレ達に気付いた様子はなく、時折、何かを話しながら塔から出て歩き始めた。


「ようやく外か。しかし聖女よ……好きにしろとは言ったが欲張りすぎだろう。これからスケルトンどもをかいくぐって船まで戻る必要があるというのに荷物を増やしすぎだ」

「聖騎士様のお力、期待しておりますので」


背中のバックをふくらました聖女に、聖騎士が苦言を放つ。


戦利品として本当に色々と詰め込んでいたらしい。


どうりでオレ達よりも塔を出るのが遅いはずだ。


「……であれば代わりに持つが? オレが預かった方が手間が減りそうだ」

「紳士ですね」

「騎士たるもの、そうでなければならん」

「ふふ、さきほど長年の友であり、主であった皇子を背中から討った方がですか?」

「なんだと?」


なんかえらく険悪になってるな?


もっと仲が良かったと思ったけど。


「裏切り者たちも一枚岩ではなかったということさ」


疑問が顔に出ていたのか、オレの顔を見ながら皇子がそう言った。


「王族を含む貴族階級と教会という組織は互いに寄生しながらも争う関係だ。互いを必要としながらも、相手から貪ろうとする」

「お偉いさんってのは、めんどくさいな」

「それには同意するよ。オレがこんなザマなのもその面倒ごとのせいだしな」


オレ達がほがらかに話している間、聖騎士が聖女をにらみつけていたが、ようやく聖女が深く頭を下げる。


「失礼、冗談です。つい共犯の意識で慣れ慣れしく振舞ってしまいました。お許しを」

「……そうだな。オレも割り切ったつもりだったが、やはり罪悪感は捨てきれていないんだろう」

「では、参りましょう」

「露払いはまかせろ。遅れずについてこい」

「ええ。ありがとうございます。あ、少々おまちを」


背負っていたバックから戦利品の数本のナイフを取り出した。


それぞれデザインが違っているものだが、その刃はわずかに蒼みがかっている


確か宝物庫に置いておいた宝物の一つ。


島のダークエルフ達の使っている包丁なのだが、なんとこちら、超お高い魔道具である。


刃がヘタりにくいという効果が付与されているので、長期間、研がなくても切れ味がかわらないという逸品だ。


鍛冶屋とか研磨士とかこの島にはいないからね。


包丁を研ぐにもディードリッヒか領主、シンルゥなどに頼んで港町に持っていってもらって職人に研ぎに出さないといけない。


それは面倒ということで、ずいぶんと前にディードリッヒがどこからか調達してきたのだ。


で、オレが宝物庫に設置するに当たりアイテムが足らないからすぐに用意できる物でなんかない? と聞いた時、ディードリッヒが居住区に向かっていきコレを持って帰ってきた。


聞けばダークエルフの住人達から供出させたと言っていたので、さすがに日用品を取り上げる事はダメでしょと断ったのに強引に押し付けられてしまった。


せっかくダークエルフの住人達と仲良くできていたのに、なんてことしやがるんだろう、あのイケメンは。


色々と落ち着いたら埋め合わせをしなくちゃいけないが、何がいいかな? というのが直近の悩みの一つだ。


そんな蒼い刃の包丁を見ながら、聖騎士が少し考え込む。


「切れ味の増した魔法のナイフか? 確かにそれなら女の細腕でも革鎧ぐらいは貫くだろうが、スケルトン相手ならその杖で殴った方が役に立つのでは?」


骨には打撃が有効であるとか、点より面での攻撃が有効である、とか思われがちなのだが。


「この杖の先端の宝玉、教会の備品でございますよ? しかも至宝と言われていて、こんな勅命でなければ外に出す事なんて絶対にないものです。割れたら立て替えて頂けますか? もっとも値段なんてつけられないものなんですが……」


その通り。


骨系に刃がダメで鈍器が良い、というのは別にそれがスケルトンに対して効果が高いというわけではないのだ。


刃物というものは堅いものを斬ると刃が潰れる、それが道理だ。


それは勿体ないから、堅いスケルトンには打撃武器を使いましょう、というのが真実。


見るからに高価そうな鈍器で殴るとういうのはオススメできない。


逆に硬いものを斬っても刃が傷まない剣を持っていて、それを扱える技量があればそれでもいい。


シンルゥも道中で聖女の足をつかんでいた骨の手をスパスパやっていたからね。


しかし聖女にそんな技術はないだろう。


だが宝玉なんて割れやすいものがはめられた杖で殴りかかるより、魔剣包丁の方がよほどいい。


少なくともあの包丁であれば、多少の無理をしてもそうそう刃欠けする事もない。


聖騎士もそれに納得したようで、聖女に背を向けて歩ぎだした。


「ナイフでもないよりマシか。行くぞ」

「ええ」


そして二人が歩き出す。


オレ達もまた、聞き耳を立てながら、二のとつかずはなれずの距離を保ってついていく。


しかし、期待していたほど聖騎士と聖女は会話をしない。


できれば、首謀者が誰とか今後はどういう計画なのかとか色々と聞きたかったが、そういう雰囲気でもないらしい。


塔を出てしばらく歩くと吊り橋に出る。


「気を付けろよ。また揺れるかもしれん」

「はい」


まず、聖騎士が。その後しばらく躊躇してから聖女がゆっくりと踏み出す。


二人ともしっかりと手すりがわりのロープを握りながら、慎重に進んでいた。


オレの隣にいた皇子がその様子を見ながら、問いかけてくる。


「魔王よ。この吊り橋、こちらに来る時はかなり揺れたのだが……あれも魔術か? おそらく風の精霊手を扱う手下がいるのだろう?」

「うーん。その精霊手とやらはよく知らないが、多分違うと思う」


多分もへったくれもない、絶対確実に違う。


「見たいか? 魔王の力の一端を?」

「……あ、ああ」


皇子の体に緊張が走る。


百聞は一見にしかずともいう。


その目に刻み込め、この魔王様の恐ろしさをな。


オレは二人がしばらく先に進んだあたりで、橋へ進み出る。


そして手すりのロープを両手で強く握りしめて腰をおとした。


「ふんっ!」


オレは勢いよく橋を揺らす。全身の筋肉と体重と使って、上下に大きく屈伸運動を繰り返す。


すると。


「むっ、やはり揺れるか!」

「きゃあ! いやぁぁ!」


先を進んでいた二人が手すりに身を食いつけるように寄せて、揺れに耐えている。


「それそれそれ!」


オレは気合をこめて揺らす。揺らしに揺らす。


そうして、しばらくがんばった後。


「はーっ、はっー……はっーはーっ! どうよ!?」


整わない呼吸のまま皇子に向かい、グッと親指を立ててみる。


「……どうよ、と言われてもな。あまりに予想外すぎてなんと言えばいいのか」


皇子の目には感心や尊敬とは違う感情がこもっていたが仕方ない。


真実というものはいつも残酷だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読み頂き、ありがとうございます。
感想、評価、ブックマークで応援頂けると喜びます。
過去受賞作が書籍化されました!

主従そろって出稼ぎライフ!
― 新着の感想 ―
[一言] 皇子様、緩めの裏方側にご案内w
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ