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『魔王塔、屋上。裏切る者(3)』


「……一瞬でこのようなものを作り出せるのか。しかも自在に動かせるとは」


塔の外壁にそって下降している中、皇子が興味深そうにあちらこちらと見ては感心している。


ゴンドラと違うのは吊るすワイヤーがなく、横の壁にくっついたまま滑るように移動している所だ。


「面白いだろ?」

「我々との戦いでも地面から杭を生み出していたな? 相当に魔力を使ったと思っていたが、まだまだ余力があるわけか」

「そうだな。特に疲労はないよ」

「疲労がない? 魔力を使わないということか?」


魔力だかマナだかいう言葉はよく耳にするが、オレはそれがどういうものかいまいち理解していない。


だが疲労があるかといわれると、それも感じない。


「少なくともあの程度の戦いなら無限に続けられるかな? 呼吸をすることに疲れは感じないだろう?」

「……戦女神から四天王と呼ばれる魔人だけのことはあるんだな」


皇子が口にしたその言葉にイヤな女の顔を思い出した。


「……四天王ねぇ。ほかの三人って居場所とかわかってるのか?」

「いや、まったく。手がかりすらない。今回、土の魔人の住処が判明したというのも教会からの情報で……ああ、これも貴殿の計画か。情報をもたらしたのは例の老司教だ」


あー、他の三人もご同郷としたら、どっかで異世界満喫してスローライフしてる可能性もあるな。


「そうか。信じるか信じないかとはともかく、二点、伝えおくよ」


あとあと隠し事をしていたとか言われるとイヤだからね。


「何だ?」

「オレは他の三人について何も知らない」

「ふむ。知っていたとしても仲間の情報は話さないという事か」


そう思われても仕方ないかもしれないが、そうじゃないんだよ。


「深読みしすぎだって。本当に知らないし、そもそも会った事もない相手に仲間意識なんてない」

「……わかった、信用しよう」

「もう一点、こっちが大事だ」

「……なんだ?」


皇子がやや緊張した顔でオレの言葉を待っている。


「オレは四天王の中でも最弱だ」

「なんだと!? これほどの力をもってして最弱!?」


まさに驚愕、という顔だ。


イケメンっていうのはどんな表情でもイケメンだという再確認をした。


実に面白くない。


「そうらしい。だから皇子にはなるべく協力はするが、他の三人と争う場合オレは遠慮させてもらいたい」

「……む。それは仲間とは戦わないという事か」

「だーかーらー。深読みしすぎ。その三人とは関わりたくないんだよ」

「しかし会った事はないんだろう? なぜ自身が最弱と断言できる? やはり仲間なのではないのか?」

「あー……」


実は四天王そのものが、戦女神が信仰を得るために作り出したマッチポンプ要員だと言った所で信じないだろうしなぁ。


「オレ達、四天王を作った者がいる。そいつが言ったんだよ。オレは他の三人を作った後に残った搾りカスで作ったってな」

「……四天王を作る……まさか……大魔王か?」

「大魔王なんているのか? 確かにやってる事は悪辣だからな。大魔王ってのもあながち間違いでもない?」


オレからすれば、あの戦女神を名乗った女は大魔王どころじゃない。


記憶を消されているから確かではないが、オレは前世で事故により死んだという。


そこから魂をすくい上げられてここに来たという点では、強制的に命の恩人でもある。


最初にこの大地に立った時、わけもわからず、ただ右往左往する毎日だった。


怒り、恨みもした。


しかし妖精をはじめ、今では色々な人に囲まれて、それなりに楽しく暮らせている。


第二の生のおかげだ。


過程はともかく結果だけを見れば、多少なりとも感謝もしている。


だから、戦女神が悪の親玉ということは伏せておく。


誰も得をしない情報だ。


「ともかく、そんなわけで他の三人と戦う時はがんばってくれ」

「……わかった。その時が来るまでに、貴殿との友誼を深める事に尽力しよう」

「手伝わないって言ってんの」


なかなか手強い皇子である。


「ツッチー様、あれを」


そんな話をしていると、シンルゥが何かを見つけたように声をあげた。


ゴンドラはすでに二階あたりまで降りてきていて、塔の入り口を間近に見下ろせる場所まできている。


二人の姿でもあったかと思いきや、そうではなかった。


シンルゥが指さした先は別の場所だ。


ここからでは森で視界をふさがれて見えないが、遠方から白い煙が上がっている。


「煙? 火事? あっちになにがあったっけ?」


塔に続く吊り橋よりもはるか先から立ち上がっている煙は、いまだ火元が燃えているようで勢いが止まらない。

さらに。


「お、爆発音?」


ドン、ドン、と遠くから聞こえてくる音と振動。


「オレ達が上陸してきた方角だな……」


皇子がつぶやく。


あー、確かにそうだ。


住人の居住区とは反対方向にディードリッヒ主導で作った例の船着き場がある。


「あそこにはオレ達が乗ってきた高速魔道船と、その船でオレ達の帰りを待つ護衛騎士が待機しているはずだ」

「……まだ一波乱ある感じだな。しかし聖騎士と聖女はまだか? もしかしてとっくに塔から出て、先に行っているとか?」

「いえ、魔王様。今、二人が出てきましたよ」


シンルゥが塔の入り口から出てくる二人の姿を確認する。


オレはゴンドラを聖騎士と聖女からは見えない、少し離れた所で地上に降ろす。


「よし、全員サキちゃんから離れるなよ。特に皇子。この術はこの子の周囲のみ有効だ。離れれば術が解ける」

「わかった、留意する。それでどうやって二人の様子を探るんだ? 遠見や聞き耳の術を併用するのか?」


それだと、その術を持っている人しか様子をさぐれない。非効率的だ、甘いな皇子。


「百聞は一見にしかず。やってみせるが、愚痴や文句は遠慮してくれよ?」

「ああ? 頼む」

「では――ついてこい」

「ああ……ああ、うん?」


そしてずんずんと聖騎士と聖女に向かって歩きだすオレと、オレの服の裾をしっかりと握ってついてくるサキちゃん。


同じくシンルゥ、スケさんとキューさんもついてくる。


それにつられて、慌てた皇子もついてくる。


「お、おい、どこまで近寄る気だ? 悟られるぞ?」

「言っただろう。サキちゃんの術は音も消す。つまり……」


オレは足を止めない。


そして聖騎士と聖女の表情がうかがえるほどの距離、それは声すらもはっきり聞こえるほどの距離まで来て、皇子に向き直る。


「こんな感じだ」

「……まさか、オレ達の時もこうして……こんなに間近で姿を消してついてきていた、と?」

「その通り」

「……」


絶句だ。


イケメンは絶句していてもイケメンなのを再確認したが、今回はちょっと面白かった。


そりゃそうだよな。


いざ魔王討伐と意気込んで上陸している最中、その真後ろに魔王の軍団が透明になって聞き耳立ててるなんて考えもしないだろう。


「あ、けど、接触はするなよ? あまり強い衝撃がくわわっても隠形が解ける。不審に思われて、あぶりだすための範囲攻撃とかを受けるとマズイ」

「……今度から、あやしい気配を感じたらそう対処する事にしよう」


皇子は一つ成長したようだ。良かったな?


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