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『魔王塔、屋上。裏切る者(2)』


「具体的にさ、何が望みなんだ?」


オレを見る皇子を見返し、逆に問いかける。


皇子は詰め寄るように問い返してくる。


「どんなことでも協力を得られると?」

「あまり無茶を言わないでくれよ。それと……」


いやに念を押してくるので、オレは正直に言った。


「血なまぐさい事は遠慮したい」

「……皮肉か?」

「いや、本気で。今回みたいに身を守るというのであれば仕方ないと思う。けど粛清やら聖戦やらっていう単語は苦手だな」


無論、自分の命を狙う相手に反撃するというのであれば、それは正当防衛だと思う。


だが悪い奴がいて、その部下もみんな悪いのか? と言うとオレには疑問が残る。


自分に都合のいいように言葉を飾ったところで、命を害するという結果は変わらない。


遠回しに、お家争いで、罪なき人を巻き込むな、という事だ。


皇子はオレの言いたい事をすぐに理解したようだ。


「わかった。魔眼持ちの弟相手に策謀でどうこうするというのは骨が折れるが……」


確かに皇子が不利か?


だが、あの老司教が味方にいるんだし……と、ここでふと疑問が残る。


「老司教はなんで洗脳とかの影響を受けなかったんだろうな?」

「……それもそうだな。彼は弟に対して露骨に敵対していたし、まっさきに洗脳なり魅了なり……それが無理なら始末されてもおかしくないんだが」


オレと皇子の疑問に即答したのはシンルゥだ。


「精神を掌握する術というのは、すでに別の者が行っていた場合、その術者より強い術で上書きする必要があります。逆もまたしかりで自分の操っていた者が別の者の術に上書きされ、裏切られる事もあります」

「へー」


あいかわらず色々と詳しい奴だ。


「それはオレも聞いたことがある。だからこそ、精神を操る術を使う者は、術中の者すら信用しない。皮肉なものだ。しかし弟の魔眼に匹敵する術者か……」


オレの間の抜けた返答とは違い、皇子は国に他の術者がいないか考えているようだ。


だが、そうすると? あれ? マズくない?


「あの老司教……どっかの誰かに操られているってわけか?」

「……おとぼけを?」

「いや? なにが?」


シンルゥがじーっと見つめてくる。


「もしかして、とは思っていましたが。ご自覚が、ない?」

「……んん?」


オレが戦女神とやらに与えられた力は『浸食支配』というカッコいい名前の土いじりスキルだ。


自分の魔力がしみこんだ土地を自由に操れるという、便利だがいまいち凄みのないスキル。


ちなみに、魔力のしみ込んだ土地で実った果実は魔力が含まれていて、とても高く売れる。


おかげでマンドラゴラなんてものも育ち、お金にも困らなくなった。


しかし残念ながら精神をどうとかいう、カッコいい系のスキルではないのだ。


「いえ。では、その……そうですね。その老司教様はきっととても信心深く、洗脳や魅了などを受け付けないほどの精神力をお持ちなのでしょう。お会いした事はありませんが、まさに聖者の鑑のような方ですね」

「……聖者の?」

「……鑑……?」


一応、老司教とは知己ではないという立場のシンルゥが、あのジイさんを聖者の鑑と称した事に対して、顔見知りであるオレと皇子がそれを微妙に否定する。


老司教の事を知らないフリをしなくてはいけない為、それらしい言葉を吐いているシンルゥが自分の言葉に誰よりもイヤな顔をしている。


「……だが、精神力という点では常人離れはしているだろう。それこそ弟の魔眼をものともしないほどに」


皇子が自分を納得させるようにつぶやく。


そしてオレに向き直り。


「ツッチー殿。取引は成立という事でいいのか? 具体的にオレが何を差し出せばいいのか明言されていないが、国をわが物としたあかつきには、何でも差し出すつもりではいるぞ……無論、国そのものを差し出せと言われると困るが」


何度聞かれても、オレの答えは最初から変わっていない。


「ああ、なら、この島をそっとしておいてくれればそれでいい」

「……ここまで来て嘘をつく必要もないぞ? 今、貴殿に見捨てられればオレは野垂れ死にだ」

「嘘じゃない。今まで通りここで静かに暮らしたいだけだ。ああ、たまに港町でこっそり買い物や食事を楽しむくらいは認めてくれ。ちゃんと変装はしていくからさ。ウチの妖精が甘い物とか好きなんだ」

「……わかった。なるべく自由に動けるように色々と整える事を約束する。あそこの領主も色々と怪しい所もあるし、その時はオレが直接話をつけよう」

「……あー」


ちらっとシンルゥを見ると、フルフルと横に首を振っている。


余計な事を言うなという事か。


確かに話がようやくまとまりつつあるのに、また話が長引いてしまうからな。


「では、そうと決まれば……あの二人の後を追うか。そちらのサキュバスの術でどうやってか、オレ達の行動を監視していたのだろう? 同じようにすればあの二人の会話から何か掴めるかもしれない。下の宝物庫にも寄ると言っていた。まだ追いつけるだろう」


あの間抜けな尾行を皇子に知られてしまうが……確かに聖騎士と聖女の会話というのは気になる。


宝物庫に寄るならば、塔の外壁でエレベータしていけば先回りもできるはずだ。


「あー……そうだな。サキちゃん、いける?」

「は、はい!」

「じゃ、全員集まってー」


オレは退屈そうにしていた魔族組を手招きしつつ、肩で寝息をたてている妖精を優しく揺り起こす。


「ふえ?」

「起こしてゴメンな。ちょっと移動するから」

「あ、うん、どうなったの?」

「皇子の味方をする事になったよ。それでこれからサキちゃんのアレで、聖騎士と聖女の後をこっそりつけて話を盗み聞き」

「ふふ、サキ、大活躍ね!」

「が、がんはります!」


ふんす、と鼻息も荒く、サキちゃんが隠形の術を展開する。


「お、おお?」


自分の体が蒼くふちどられる事に驚く皇子。


他の者も全員の輪郭が蒼く発光しているのを見て安堵する。


「サキちゃん……彼女から離れると隠形が解除される。気を付けてくれ? 範囲内にあれば、声も聞こえないからそれは気にしなくてもいい」

「なるほど、隠形している者同士は認識できるのか。巧みな術だな、素晴らしい」

「え、えへへ」

「そうよ、サキはすごいのよ! サキ、えらいえらい!」


サキちゃんが照れつつも、嬉しそうに褒められている。


「じゃ、サキちゃん。オレの近くに」

「は、はい、失礼します」


そしてオレの船長服の袖をつかみ、今度はオレが手品を披露する。


端へと歩いていき、ちょっと身を乗り出せば、はるか下に森が見える場所まで来る。


奇しくもそこはオレが先ほど飛び降りた場所だ。


「ここから下まで一気に移動する」

「さきほどの身投げか? どうやらタネが知れるようだな」

「いや、期待させて悪いが、さっきとは別の方法だ」

「どちらにしろ興味はつきんよ」


全員が近くに来たところで、オレは塔の外壁に少し大きめの出っ張りを作る。


さらに転落防止の為の柵も付け加えて、ゴンドラのようにしてから乗り込んだ。


「さ、乗ってくれ」


全員が乗り込んだのを確認して、オレはゆっくりとゴンドラを降下させていった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 徹頭徹尾、静かに穏やかに暮らしたいと願うツッチーのぶれなさが良いですね。 気が付けば心強い仲間も増えて賑やかになってますし、早くトラブルが片付くといいですが、なかなかそうはいかなさそうです…
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