4.完璧令嬢との接触(ティア)
入学式が終わった後、することもないので寮に戻ることにした。
(寮内で他の寮生と会えたら良いな。知り合いが出来たら心強いもの)
残念ながら昨日入寮してから今朝部屋を出るまで、職員の人以外とはすれ違わなかったのだ。
講堂から10分程東に歩くと背の高い植え込みがあり、その奥に進むと一つの建物が見えてくる。その建物が女子寮だ。
(ん? あれは何かしら)
植え込みが遠目に見えてきたところで、端から何かがはみ出していることに気付いた。
陰になっているので色は分からないが、柔らかそうな紐状の物体が揺れている。猫のしっぽかもしれない。
猫は好き、というか動物全般が好きだ。村にいた時は羊飼いの人を手伝って、よく羊の世話をしていた。
びっくりさせないように、そーっと近付く。
…………………………
「ひゃっ」
予想外のことに驚いて短く叫び声を上げてしまった。
そこには猫ではなく、頭を抱えて蹲っている女の人がいた。
先程見えていたのは猫のしっぽではなく、その人の髪の毛の一束だった。そよ風で持ち上がって揺れていたのだと思う。
その髪は艶のある金色で、つい先程目にしたばかりのものだ。慌ててその人の元に駆け寄り、俯いた顔を覗き込む。
「大丈夫ですか? どうされました?」
肩に触れながら声をかけると、彼女、セリーナ様は頷いてくれた。
そして「だい…じょうぶ…」とたどたどしく答えた。
(全く大丈夫そうじゃないわ。顔色が悪いし呼吸も荒い…)
私はすくっと立ち上がった。
「寮の職員さんに言って、お医者さんを呼んでもらいますね。少しだけ待っていてください!」
そう言って寮の入口まで駆け出そうとした時、セリーナ様に手をつかまれた。
びくっとして振り返った次の瞬間、私と彼女の周りをぱあっと白い光が包んだ。
(一体何が起きてるの…? でも神秘的で綺麗な光…)
最初ベールのように私達を包み込んでいた光は、どんどん眩しくなっていく。ついに目を開けていられなくなり、ぎゅっと瞼を閉じた。
そのまま立ちくらみを起こしたような状態になり、ぐらりと身体が揺れた。
(ま、待って…)
だんだん気が遠くなる。
ふと、セリーナ様に手を握られたままだと気付く。彼女の手はすべすべしていて、美しい人は指先まで美しいんだなぁ…と感心しながら意識を手放した。