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そら音のイデア  作者: 金田悠真
第2章 母を訪ねて両世界編
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第3話 母への手がかり 其の三

 



 城の内部へと通された3人は、巨大なリーダーのためだろうか、応接するには面積が大きすぎるような一室へと案内をされていた。


 テーマパークのように楽しみながらせわしなく周りをきょろきょろと見回しているライザを、どこか香織が羨ましそうに見つめている。


「なぁっ、バケツかと思ったんやけど、アレあの人専用のコップなんかなぁっ!」


 どちらに話しかけるでもなく、ライザは楽しげな声を上げた。指差した先にはバケツ大よりも大きいグラスが陽の光にキラキラと反射をしている。



 お互いがお互いに、どちらかが相手するだろうと目線を逸らした2人からの返答は無かったが、ライザは気にするような素振りも無く、変わらず楽しげに辺りを見回していた。


 そのまま数分間経ったとき、不意にドアが大きな音を立てて開け放たれた。


「待たせてすまねぇな!!コイツが中々部屋から出てこねぇもんでよ!」


 巨大な扉さえ低そうに屈んで入ってきたギルバートは、先程外で修行を共にしていた少年を背中を指先でグイグイと押しながら席に座った。

 彼専用の巨大な赤の椅子は本革で質の高さが簡単にうかがうことができる。

 上座に座ったギルバートの斜め向かい。3人と向かい合うように少年も静かに腰かけた。


「すみません、ちょっと………色々あって」


「単純におめかししたかっただけじゃねえのかっ!?可愛らしいお嬢ちゃんが2人もいるからな!」


 がはは、と下品かつ豪快に笑ったギルは、まるで酔っ払っているかのように大声で笑い続け、自身の膝を2度3度と叩いて鳴らした。


「いややわぁ、可愛らしいなんて照れてまうやないの」


 両手を頬に当てながらくねくねと体を動かすライザは、隣に居る香織を見つめて「どうしようか?」と赤くなった顔を向けていた。


 疲れた顔を隠そうともしない空と香織。

 いや、少年も含めると3人である。


 少年は呆れたような笑い声を上げながらじっと真っ直ぐ向かいに座る香織へと視線を向けていた。



「……すみません、そろそろ本題いいでしょうか………?」


 申し訳なさげに音もなく右手を開いて上げた香織は、少年の視線を急かすようなものだと受け取ったようだ。ギルバートと、彼の言葉に乗っかりふざけ始めたライザを制するように小さな声を張り上げた。



「おぉ!そうだったそうだった!オレも暇じゃないんだ、手短にしてくれ!」


 だったら最初から待たせたりふざけた話をするな、と言う言葉が、空と香織の心の中で同時に湧き上がった。

 だが2人ともにそれをそのまま口に出すほど子供でもなかったので、曖昧に笑うというオトナのような対応をする事にした。



「っはい………改めて、五十嵐香織と言います…高校生です」


 今更ながらに高校生などといって伝わるのだろうか。ライザにギルバート。目の前の少年も名前こそ知らないが金髪の癖っ毛がフワフワと浮いており、欧米の少年そのものである。


 日本語で普通に意思疎通できているし大丈夫か、元々は同じ世界の人間なのだから。


 ギルバートやライザの様な名前は偽名なのか、それとも魔法で意思疎通できていて外国人なのか。いや、ギルバートは人間なのかすら怪しい見た目ではあるのだが。


 まぁどちらにしろ魔法だろう、と後日暇な時にでも空に聞くことを脳内にメモしながら、香織は少年とギルバートをゆっくりと交互に見つめた。




「実は………人を探しているんです。何か知っている事があればと思って」



「えぇ…お母様が居なくなってしまうなど不安だと思いますから………僕にできる事なら、なんでも」


 間髪入れずに金髪の少年はそう答えた。

 内容はギルバートにでも聞いたのだろう、と疑問すら持たずに香織はゆっくりと頭を下げた。



「ありがとうございます。………あの、こうしてここに来た理由なんですが、コレを見ていただけますか?」



 そう前置きして、香織がメモをテーブルに広げた。

 自身のよくわかっていないままだし、そもそも素直に魔法を教えてしまっていいのかと心配にはなったが、どうせ使えるのは自分だけだろうし、空が何も言わないのだから大丈夫だろう。香織はそう判断した。



「先日は、お邪魔しました。……その時に書いたメモなんですが……」



 ギルバートと少年は並んで覗き込むが、他人からすれば筆跡も見分けがつかないであろうし、ただただ書いてあることを読んだだけに過ぎなかった。



「これ、最後の行は私が書いていないんです……」



 なんと表現したらいいかわからず、香織は事実だけを口にしてみたが、2人の反応は芳しく無く、思わず空を見てしまった。


 静かに息をつくと、空は香織のその言葉を拾って話を続けた。



「コイツは世界とか魔法について…メモをする癖があってな。疑問点をまとめていたりするんだが……それについてのヒントが出てくる。そんなイメージが近いかな、コイツの魔法は」



 腕を組み、ギルバートではなく少年だけをじっと見つめたまま空がそう説明をすると、2人はようやく納得したように頷いた。


「なるほど…スゴイですね……!」


 少年は感動したのか声が震えており、口元を押さえながら目を見開いていた。

 ギルバートも「便利なもんだなぁ」と感心したように何度も頷いている。


「っだったらよぉ、自分の母さんの行方は?って書けばいいんじゃねえのかっ?」


 そのギルバートの質問はごもっともだった。

 と言うより、それだけでわかるとどれだけ楽か。さっきここにくる前に空にぶつけたのと同じような言葉が聞こえ、思わず香織は笑ってしまった。



「ダメなんです……そうやって書いても何も出てこなくて……。手がかりを探すためにって書いたらまずこれが出たんです」



 北へ行け。

 シンプルな命令だが、空がこれに気がつかなかったら、こんなにトントン拍子で調査を進める事も出来なかったであろう。


 香織は続いてまた別のページを見せた。


「北に行けって書いた日……。昨日出会ったのはライザさんとギルバートさん達です。……さらにこっちには『商人の客』……。最初はライザさんに他のお客さんだとか思い当たることを考えて貰ったんですが……色々考えてみても、なかなか答えにはたどり着かなくて」



 説明をするためにゆっくりと頭の中を整理しながら話して行くと、香織の中でも理解が追いつき始める。


 空はいつだって自分の数歩先を簡単に歩いているのを思い知らされているようで、どこか悔しかったが、香織は同時に、感謝の念も抱くようになっていた。



「…………なるほど、そういったご事情でしたか…」


「はい。もしかしたら、商人の客にはと言うのは、今までライザさんが相手にしてきた人ではなく、昨日のお客様である………えっと…」



 そう踏み込んで質問をし始めようとした時、名前すら聞いていない事に気が付いてしまい、香織は申し訳なさそうに苦笑を浮かべた。

 その様子に、顎に指を当て、メモを覗いていた少年が気がつくと柔らかい笑顔を浮かべてくる。



「僕の名前はパレス。よろしくお願い致しますね?」


 自身の胸に手のひらを揃えて当て、恭しく立ち上がって礼をしたパレスは、自然に手を伸ばして香織に握手を求めた。


 どうしたらいいかわからないのか、手を出したり引っ込めたりしている香織を突き飛ばすように今まで黙り込んでいたライザが飛びついて両手で握りしめ、彼の腕をぶんぶんと振り回した。



「うちはライザやで!よろしゅう!……オニーサン、可愛らしいなぁ…っ!」


 アメリカの可愛らしい少年のような見た目に、完全に目を輝かせているライザが腕を振り回している間、香織は自身の手のひらをじっと見つめていた。



「……あはは、ありがとうございます。……香織さんもすみません……戸惑わせちゃいましたよね」


 申し訳なさそうに、目と目の間へとシワを増やしたパレスがライザの手をそっと解いて香織を見つめると、慌てて香織は首を振って否定した。


「いえ!そんな!……こちらこそすみません……あんまり握手とか慣れてなくて……」


 ごしごしと自身のスカートで手を拭いた香織が差し出すと、パレスは驚かせないようにかゆっくりとした動きで手を伸ばして握り返す。



「いえいえ、そうですよね…日本じゃ握手なんてしないですよね……」


 恥ずかしい、と少しだけ可愛らしく頬を赤らめながら笑う彼は、ライザで無くとも可愛いと思えるものであった。


 何と無く可愛らしいと思えるのも癪に触るな、と香織が顔を背けると、気がつかないうちに脚を組んで退屈そうにしている空が、真っ直ぐにパレスを見つめていた。



「空さんですよね?……FLATのリーダーさんと会えるなんて光栄です!」


「…………あぁ、ありがとな」


 ゆっくりと口角を上げて微笑んだ空が先に手を出すと、今度はパレスが自身のズボンで手を拭いてからその右手を両手で握りしめた。



「ありがとうございます!……また機会があったら魔法とか、教えてくださいね!」


「もちろん。ギルバートより上手く教えてやるよ」



 ニヒルに笑った彼の態度にまた大声が上がるか、と身構えた香織だったが、ギルバートは不思議とそこまで子供ではなかったのかもしれない。小さく含み笑いを浮かべながら空を見つめていた。



「ふん、魔法発現球を買ってやったんだ……すぐ使えるようになるさ」


 いや、やはり不機嫌だったのかもしれない。そう冷たく呟いたギルバートは、空と同じように腕と足を組んで座り直した。



「あ、そうだ……その魔法発現球……使ってみてどんな感じですか?」



「………そうですねぇ」


 ぼんやりと考えながら、パレスは本題とはズレていて良いのか、と空やギルバートをチラチラと見つめていた。

 だが帰ってくるのは両リーダー共のゆっくりとした頷きだけであった。



「とても、不思議な感覚ですね……知識として最初から知っていたような……自分はこんなことができるってなんと無く思うんです」



「へぇ、それはすごいな」


 その高値だと言う商品の感想は、空でさえもついつい食いついてしまったようだ。さらに興味が湧いたように空が質問を続けた。



「??……いや、だが……。それだったら魔法を教えてくれとかは不思議な話じゃないか?」


「……それが、何と無くは思いついてるんですけど……具体的にどんな魔法かって分からなくて」



「……それは、また…」


 残念だな、となんとも言えない顔をしながら労いの言葉をかけた空は、改めて顔を縦に動かした。



「もし機会があって、その時もまだ上手く使えないようなら。相談に乗るよ」


 おもむろに立ち上がった空が懐から小さな紙切れを1つ取り出してパレスに見せた。


「コレをFLATかギルドの人間に渡せば、コンタクトを取ってもらえるから……アジトに来ても俺が居なかったら活用してくれ」


 そう続けた空は、香織からすると珍しくきちんとした姿を見せているな、という感想であった。

 どこかの社長のように振舞いながらカッコつけているように見える。事実カッコいいのだが。



 だが空にしては珍しく、名刺を差し出すと、そのままパレスの手に渡る前にヒラヒラと地面に落ちていき、テーブルを挟んでパレス側に落ちてしまった。



「すまない……慣れないことはするもんじゃないな」


 自身でも恥ずかしかったのか頭をかきながらそう告げるが、パレスは全く気にしていないように笑った。


「いえいえ!空さんも人間なんだって安心しましたよ」


 優しげな笑顔とそのフォローは、ライザで無くてもついつい感心してしまう。香織が紳士的なパレスへの評価を内心であげていると、彼は優雅に左足を引き、軽く浮かせて片脚立ちになりながら名刺を拾い上げた。



「重ね重ね済まないな…新しいのを渡すよ」



「いえ、せっかくならこの珍しく落としてしまったやつを頂きます」



 記念です、と優しく笑いながら座り直したパレスに、空もまた小さく口角を上げて見つめ返した。

突然ですが、僕が好きな作品ジャンルはミステリです。



そのせいもあってか漫画の「じけんじゃけん」が物凄く好きです。

あ、髪フェチで前髪ぱっつん黒髪ロングフェチだからかも。

賭ケグルイも好きだからそうかも。


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