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そら音のイデア  作者: 金田悠真
第2章 母を訪ねて両世界編
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第1話 母への手がかり 其の一

第2章スタートです!!


ラブコメ的な要素も入ってきてようやく本格始動ですね……!

そう思ったら今までの全部序章かなぁ。なっがいなぁ。。。

 


 FLATのアジトで豪華な和風の朝食を食べた後、空と香織は中央区にある宿に泊まっていたライザを訪ねた。




「なるほどなぁ、それでまたウチの所に来てくれたってワケかぁ。見送りに来てくれたんかと思って嬉しなったのにぃ」


 心なしかライザの仕草や口調が空に馴れ馴れしく感じられる。今も木の椅子を隣にくっつけ、しなだれかかりながら鼻にかかった甘い声を上げていた。


 それは香織が悪く考えすぎているだけかもしれないとも思ったが、ほんの少しだけ頭に血が上っている彼女には冷静にそれを考え直すことは難しい。



「えぇ、お母さんを探す手助けというか……何かヒントが無いかと思って」


「それはわかったけど、香織の魔法ってのはなんなん?ウチそっちが気になるわぁ!」


 人の母親が行方不明でそれを探す手助けを、という話だというのにそれよりも魔法を優先させるとは。香織は苦笑いをしながらどうしたものかと空に視線を向ける。


 ライザに腕を掴まれながら、空も香織と同じような呆れた苦い笑顔を浮かべていた。



「俺も昨夜コイツの頭のネジが飛んでるのは、嫌という程体験した。………諦めてくれ」


 そのライザを擁護するような言葉に、香織は知らずまた不機嫌の度合を高くしながらメモを取り出した。



「っ、というか……!私もまだ自分でわかってないんですけど?」


 その不機嫌も相まってか、香織の言葉には見てわかるような棘が付いており、その棘は真っ直ぐ空へと突き刺さっていく。


 はぁ、と2人に聞こえるほどに溜息をつきながら、空はメモを受け取ってページを捲って行く。




「別に見たまんまだろ。……お前がメモとして書いた疑問。それに対するヒントが出てきてるんだよ」


「そんな魔法……あるんですか?」



 この目で勝手に文字が浮き上がってきているのは確認したが、中々簡単には納得ができないものだ。香織は怪訝そうに眉を寄せて声を低くする。



「そんな魔法と言うがな……前も言ったはずだぞ。魔法ってのはなんでもありだ。そいつにしか使えない魔法ばかりからな」



 俺だってよくわかってない、と溜息混じりにまた言葉を続けた空は、新たな何も書かれていないページを香織に見せた。



「なんか書いてみろよ」


「朝やったばかりじゃないですか」


「……ライザにも見せた方がわかりやすいだろう。それに、ライザに手がかりがありそうとはいえ、何を聞いたらいいかさっぱりだからな」



「ライザライザって……」


 最後の一言は、香織にしか聞こえていない大きさだった。一層低い声でそう呟いた香織は、乱暴にペンを取り出して、いつもより雑に文字を走らせて行く。




 どの客について聞けば良いですか?

 



 そう書いたけれど、朝のように白い光はいつまでも発生することはなかった。




「お前これ誰に聞いてんだよ。いつも通り書け」


「いいじゃないですかっ……別に」


 半ばムキになってそう返すが、魔法が発動していないのもまた事実だ。香織は雑な文字に横線を引き、その下にまた改めて文字を走らせた。



 ライザさんに聞くこと

  >お客さんについて。

  >どの客がヒントか。



 今度はさっきよりも丁寧で、香織がいつも書くようなやり方でペンを走らせた。


 けれども、またメモはうんともすんとも言わず。


 どの客がヒントか。の下に文字が浮かび上がることは無かった。




「んー?まだ上手く使いこなせてへん感じかなぁ」


 いつのまにか香織の隣に並んだライザは、じっと好奇心たっぷりの瞳でメモを覗き込んでいる。

 細い親指と人差し指で自身の顎を掴み、探偵のようなポーズで少し考えたライザは、お手上げだとばかりに両手を上げて椅子へと座り直した。



「まっ、人の魔法なんて分からんわ!……そっち考えるよりウチのお客さんについて話した方がええやろ!」



 ライザは椅子をガタガタと鳴らしながら揺れて、彼女が泊まっている宿の狭い部屋を見渡した。


「あれー……帳簿どこにやったかなぁ……空、分かる?」


「………知るわけないだろ。昨夜だって使わなかったし」



 そっかぁ、と脚を動かすことはなく、ただただ行儀悪く椅子を鳴らしていたライザはまたすぐに考えるのを諦めて目を閉じた。


 んー、と唸り声を上げながら顎を上に持っていったライザがおもむろに口を開く。



「ウチのお客さんって言ってもなぁ、これでも大人気やからさ、あちこちにおんねん。……どの話をしたらええんやろか」



 申し訳なさそうな声に、空と香織も返す言葉が思いつかず黙り込んでしまった。

 真上を向きながら目を閉じ、また椅子を揺らし始めたライザをじっと見ながら、2人もまた脳みそを回転させ始める。



「イヤリスでの客は1人だけか?」


「ん?せやな!……あのギルさんとこのお兄さんだけやなぁ。魔法発現球やったから、1人でも採算合うわーって思っとった」



 細かい2人の会話や言葉にいちいちささくれだっていても仕方がない。香織は諦めて振り切るように頭を横に振り、メモを取り始めた。




 イヤリスでの取引は1つだけ

  >お客さんは龍演会




「そうか。………だが、アルシャットの街の客じゃないとは思うんだよなぁ」



 空がぽつりと言った一言に、香織は思い出したように声を上げた。


「そういえばライザさんって違う街から来たんですよね……。違う街があること自体知らなかったですけど」



 またちくっと空を攻撃しながら、香織はライザを見つめなおした。


「簡単にアルシャットの街について教えてもらえませんか?未来さんたちも行ったことないって………」


 そう言いながら2人を交互に見やる。

 朝それとなくFLATの幹部メンバーに話を聞いてみたのだが、誰も行ったことがなく申し訳なさそうに断られたことを思い出した。



「そうなん??空はあるって言ってたのになぁ?」


「あぁ、FLATを作る前だったからな………それに……アイツらは」


 と、そこまで言ってぱっと目を見開いた空は先ほどの香織のように小さく首を振った。


「まぁいい。………アルシャットはイヤリスと全然違うよな。大都会ってイメージだ………道も建物もコンクリートで」



 思い出しながらアルシャットの情報を口にして行く空は、明らかに何かを誤魔化していた。

 いつもほど上手くないその様子を不思議そうに見ながらも、香織のペンはゆっくりと動き始めた。


 そのペン先を確認し、空はゆっくりと立ち上がり、窓際に歩いて行く。

 そして香織がメモを取りやすいように言葉を区切りながらまた話し始める。


「ギルドもあんな小さくないし、討伐隊もいくつも存在してる。……単純な面積だけで見ても何十倍あるかわからんな」


「せやねぇ。後は若者が多いんとちゃう?……他の街あちこち商売しに行ってるけど、学校とか多いのはアルシャットやもん」



「………そうだな、アルシャットの周りは魔物も強力で多いからな……討伐隊を育てるための学校もあるくらいだ」




 アルシャットの街

  >都会、学校が多い。

  >理由は魔物が多く、それに対抗するため



「それこそ魔法とか……そういう研究も盛んだな……この世界についてとか、よく調べてる研究者が居たぞ」


 その情報を付け足すと、空は香織をちらっと振り返って微笑んだ。


「落ち着いたらお前も行くといい。……きっとお前の考えとか見てると、合うと思うぞ」


 そこまで言ってまた窓の外にあるギルドの建物を見つめながら、空は腕を組んだ。



「香織の魔法も調べてもらった方が良いかもな。母親の行方と書いても居場所が分かるわけじゃない……しかも、追加のヒントを得ようとしても何も起きない。……ちょっと分かりにくいからな」



 歯痒そうにそう呟いた空だったが、香織の反応は全く色が違うものであった。



「この世界についてとか、研究は気になりますけど……魔法はコレで良いと思いますよ?」


 あっけらかんと告げた香織の言葉に、今度は空が驚かされて振り向いた。意外そうに目を開きながら香織の表情を読み取ろうと伺っている。



「そりゃ、ハッキリとわかった方が楽ですけどね。……少なくとも何処かには居るみたいだし、この事は自分で向き合わないといけない気がして」



 空には目を向けず、真剣にメモを覗き込んでいる香織。

 何かを言いたそうに口を小さくモゴモゴと動かした空だったが、その言葉が発される前にライザが口を開いた。



「香織のオカンは、アルシャットにきた事あるん?」



「え?………あ、無いですね……というか、その……『こっち』に来た事がない人なので」


「えっ!?そうなん?……なら何でウチが手がかりなんやろ……」



 不思議なこともあるもんだ、と顔を曇らせたライザが余計どの客について話せば良いのか分からず、困りはじめる。

 その疑問はもっともであり、空と香織が悩んでいる大きな点でもあった。改めてそう言われてしまうとどうすれば良いのか分からずにまた3人は黙り込んでしまう。



「ライザじゃ、無いのかもな……」


 小さくそう呟いた空は窓に背中を預け、顔を上げたライザと香織を見つめていた。



「ウチやないって……どういう事?」


「商人の客……ライザの客が何か手がかりかと思って来たが……言葉通りだったのかもしれないって事だ」



 そう続けた空は、何度か自分自身に問いかけるように黙って頷いてから、ゆっくりと足を動かして部屋を出て行こうとする。



「ちょ、ちょっと!どういう事ですかっ?」


 相変わらず彼のテンポ感にはついていけない。そう愚痴を吐いてしまいそうになりながら、香織も立ち上がった。



「ちょっとギルのオッさんと念話して来る」


 それだけを言い、何も説明をしないまま空は扉を開け、部屋から颯爽と姿を消してしまった。




「もうっ……すみません、せっかくお話ししてくれたのにあんな事……」


「あっはは!かまへんかまへん!香織のオカンが見つかる事が第1やろ?」



 さっきはそれより魔法に食いついていたはずだが、とはとても言えず。香織は曖昧に笑いながら軽く頭を下げた。



「でもなぁ、空はホンマにせっかちというか何というか……自分の考えだけで動いとるもんなぁ。……いっつもなん?」



「………私も1ヶ月くらいしか経ってないですけど……それは事実だと思います」


 すでに何度も被害を受けている香織は、神妙な顔で頷き、申し訳なさそうな声を出した。



「昨夜だってそうやで?……ウチ、期待しとったんに……」


 ライザはそう言うと、腕を組みながら頬を膨らませ、唇を尖らせた。


「昨夜って……あの、ご飯の後……ですか?」



「………久々のアバンチュールやぁってドキドキしとったけど、なーんにも。朝方までこの部屋でひたすら質問責めやで?………今思ったら香織のオカンの情報集めやったんかなぁ」


 拗ねたような表情と顔のまま香織を見つめるライザ。冗談ぽく話してはいるが、プライドが傷ついたのかそれとも別の理由か。

 瞳の奥底はあまり笑ってはいないようであった。



「………妬けんなぁ」


 じぃっとライザが香織を見つめながら発した一言。


 自分たちはそんな関係では無い、と首を振ってはいたが、香織がずっと抱えていたモヤモヤとした感情は今は感じられず、どこか清々しいまでであった。



「ウチ。久しぶりに本気かもしれん……」


 瞳の奥に熱いものを灯しながら、ライザは香織へと顔を寄せ、声を小さくさせた。



「女子高生ちゃんは可愛いけど、負けたくなくなったわ」


 にや、とボーイッシュなライザが笑うと、その風貌も相まってかとてもかっこよかった。

 いたずらっぽく笑ったライザに、どう返して良いかわからず、香織はただ顔を横に背けた。


「……そんなんじゃ、無いですから」


「そうなん?……昨日店出る前と今じゃ全然態度ちゃうやん……香織も妬いとったんとちゃうの?」


 試すように話すその言い方が、空に似ていて少し嫌だった。

 香織が顔を背けたまま唇を引き結ぶ姿を見て、ライザは椅子から飛び出して香織へと飛びかかった。




 ビクッと体を跳ねさせるだけしか出来なかった香織は、そのままライザのなすがままで。



 彼女の両腕にスッポリと捕まえられてしまった。



「あーん!可愛いわぁ!!……ウチ香織も大好きなってまいそう!!」


「わっ、ぷ……ちょっ……ちょ!」


 ギュゥっときつく閉じ込められたまま、その頬が香織へと擦りつけられる。いきなりのハグに戸惑いながら手を伸ばして止まっていると、ライザは顔を離して至近距離で香織を見つめた。




「ふふっ、じゃあウチらの勝負するためにも、オカンの事ちゃんと見つけたらなね?」



 その笑顔は昨日から何度も見たようなライザらしい快活な笑みでありながらも、優しさに溢れたもので。


 香織は、ただ恥ずかしそうに頷くしか出来なかった。










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