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そら音のイデア  作者: 金田悠真
第1章 慣れていく非日常編
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第13話 茶会と始動

 

 香織のその言葉に、5人は当然だとばかりにすぐに頷いてみせる。


 むしろ、自分達から言い出せなかったとも取れるような表情を浮かべており、それが香織にはとても頼りになるものであった。


「とは言ってもなんだけどさ、なんであたし達の所に来たの?……単純な疑問だよ?あたし達かおたんのお母さんの顔も名前も知らないよ?」


 そう不思議そうに首をひねった花蓮の言葉は正論だったのであろう。他のメンバーも変な事を言っているな、というような感情はなさそうで、真っ直ぐに香織を見つめているだけだった。



「うーん……正直、なんと無くですけど。こっちの世界に……皆さんに頼れば大丈夫だな、って」


 そう思えたんです、と恥ずかしそうに笑う香織。彼女の置かれている状況では笑顔すら作ることは難しいはずだが。

 張本人である香織だけが、この場で唯一自然にリラックスした表情で微笑んでいた。


 それは付き合いの浅い5人への全面的な信頼でもあるし、彼らを信用している自分を信用しているようでもあって。

 クラスや、茜に聞かれたら笑われてしまうだろうが、香織は根拠のない自信にすっかりと安心してしまっていた。


 まるで、母が無事である事が決まっており、すぐに解決して助け出せるのも分かりきっているように。



「さて、全面的に協力するのは良いが………何をしたら良いんだろうな」


 変わらず腕を組んだまま下を向いている空がそう呟いた。

 たしかに名指しで話しかけていたわけでは無いのだが、その言葉に返事を返すものは居なかった。


 それは、依頼をした香織も例外では無くて。ただどうしたものか、と自身のメモを眺めた。


 イヤリスの街に来てから常に持ち歩いていたそれは、現実世界でも同じで。


 違う事があるとすれば、『向こう』の世界で書き増やしたものが無かった、という事であろうか。



「うーん………」


 香織は癖のように考えて浮かんだ疑問をメモに増やしていく。


 最初にこの世界に来た時からのTO DOリストとでも言うのだろうか。もっとも、それ自体は子供の頃から父を倣ってやっていたので珍しいことでは無いのだが。




 何故母が行方不明になったのか。




 何故それを学校側が知っているのか。





 大きな疑問点はこの2つだろう。

 メモに書き記しながら、香織は傾いて強くなった茜色の日差しに軽く目を細めた。


 現実世界と変わらない空の色は、香織を。そして5人をも燃えるような色に染め上げ、照らしていた。


「………ん?」


「どうしたの?空」


 どこか気の抜けたような声を上げた空は、少しだけ目を細めて香織の右手を見つめていた。

 そして彼のすぐ隣にいた未来が気が付いて反対に空の顔を見つめ返す。


「………なんでもない」


「明らかになんでもあるでしょう」


 そんな空の言葉に、呆れたように笑った瑠奈が突っ込みを入れた。だが空はどこ吹く風で小さく口角を上げたままで返事はしなかった。



「それよりも母親の事だ。花蓮の疑問通り……俺らの魔法じゃ力になれないぞ?」


 それは確かに空の言う通りで。この世界では決まった形がない魔法という力ではあるのだが、いかんせん人探しに向いているようなのは持ち合わせていない。


 空は氷を生み出すか雷を生み出す。

 未来は自身の運動能力を上げる。

 花蓮は人の魔法を保存しておける。

 瑠奈は傷や疲れを癒すことができる。

 亜紀はまだはっきりとは発現していない。


 どれもこれもゲームの世界だと文句はないバランスなのだが、今必要な力というものは誰も待ち合わせていなかった。


「ギルドとか街に誰か力になってくれそうなやつ居たか………?」


 難しそうに空が腕を組んで呟くと、全員が目を閉じて思い出すように黙り込んでしまった。


「リザちゃんは………人の記憶を書き換えるだけだもんね」


 未来はそう呟き、周りは頷いたのだが。

 香織にとっては『だけ』で済ませられるような事でもなくて小さく苦笑いを浮かべてしまう。


「あ、ねぇ!おとうふさんは?なんでも見えるってうわさだけどー、なんの魔法なのかな!」


「あれは透視できるってだけだな………覗きに使えそうだと練習してた」


 亜紀が珍しく話を聞いていたのかそう提案したが、またしても空の言葉で跳ね返されてしまった。


 特に気をつけようと言うつもりでもないが、香織は癖のように名前と魔法の概要をメモに増やしていく。



「あ、ギルさんの声でお母さんに呼びかけてもらうのは?」


「声大きくするだけだろ?こっちの世界にいなきゃ聞こえないし……返事はどうするんだよ」


 真面目に考えろ、と瑠奈の頭を軽く叩いた空に苦笑いを浮かべながらペンを走らせる香織。


 その様子をまた目を細めながら見ていた空が香織に手のひらを差し出した。


「…………なんですか?」


「メモ。見せろ」


 いつだったかもそんな事があったな、と思い返しながら香織はメモを手渡した。

 空があまりにも黙り込んで目を動かしているせいで、そんなに字が汚いのかと不安にもなってしまう。だが、パラパラと何枚かページをめくった空から返ってきたのは、そんなことも全く関係のない言葉であった。



「おい、行くぞ」


 メモを眺めながら立ち上がった空は自身のカップもそのままにシートから出て靴を履き直す。


 何歩か歩いてから振り返って不思議そうに首を数センチ傾けた。



「??どうした。行くぞ?」


「や、相変わらずあんたのテンポ感について行けなかったわー………」


 その様子をただ見ていた花蓮は呆れたようにそう呟いて他の人間にも目を向けた。


 言われてから空の分のカップを片付けている瑠奈。

 一足先に靴を履き直した未来。その背中に飛びついた亜紀。

 同じく呆気にとられている香織。


 空だけは心外そうに少し唇を尖らせた。


「いいから、行くぞ」


 それは少しワガママな子どものようで。

 FLATのメンバーといる時の空が自然体なのかもしれない。香織は初めてそう思った。


 くす、と小さく笑いながら腰を上げて靴を履くと、空のすぐ隣へと駆け寄る香織。


「空さんは、間違った事は言ったことありませんもんね」


 にまにまと見上げる香織に、空は少しだけ鼻を鳴らしただけで歩き出してしまった。

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