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そら音のイデア  作者: 金田悠真
第1章 慣れていく非日常編
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第4話 魔法とは

 


 とある朝。


 イヤリスの街で畑を耕す者や、装備を整えて意気込みながら街を後にする者達。


 少しずつ街が活気を帯びて来た頃、西門のすぐ外、見晴らしのいい平原に空と香織、花蓮が立っていた。


「第一回!!魔法を覚えようのコーナー!」


 清々しい朝に甲高い花蓮の声がどこまでも響き渡る。


 付いていけないのか苦笑いを浮かべる香織と呆れたようにため息をつく空。


 その反応に不満げに唇を尖らせた花蓮が少し低くした声をあげる。


「ちょっとー、ノリ悪いじゃん?せっかくかおたんが魔法覚えようって言うのにー!」


「そのかおたんも付いていけないんだからお前がズレてんだよ」


 かおたんという謎のニックネームで話を進めないでくれ、と言葉にならない呆れを内包したまま、香織はメモをぶらぶらと揺らしていた。


「かおたんももっとテンションあげてー!」


 広げた両手を空に突き出しながら花蓮が再度吠えるが二者の反応は変わることがなかった。


「まあいいや。じゃ、早速魔法の説明をさせてもらうね?」



 意気揚々とそう宣言した花蓮は手に持った杖を天高く振り上げた。


 先が二股に分かれ、その間に赤い球のついたいかにもな杖を振り下ろすと、香織の眼前へと突きつける。


「これが私の杖。でも杖は気分だから必須じゃないよ?」


「必須ではない?」


 ようやく始まったか、嘆息しながらメモを取る香織は意外そうに声を上げた。


「うん。魔法は本当に人それぞれだから。杖とか道具使う人もいるかなーって感じ」


 そんなに緩いルールで何となくの説明は、理論づけて覚えたい香織にとっては少々イラつきを覚えるものであった。


 それでも聞いている空が口を挟まないということはそれが真実なのであろう。

 無理やり自分を納得させた香織は、さらにペンを動かしていく。


「魔法って言っても何か教科書みたいのがあるわけじゃない。発現方法は人それぞれだし、全く同じ魔法が使える奴の方が少ないと思っていい」


 そう補足した空はゆっくりと指先を花蓮に向けると、いつ高と同じように青い光が指先から放たれ、勢いよく氷が打ち出される。


「いった!」


 その氷の弾丸は花蓮に当たると、地面に転がり、そのまま溶けだした。


「俺は氷が得意。それを利用して雷系も使える」


「あたしに当てなくてもいいじゃん!」


 そんな文句も聞こえないように笑い飛ばした空は、さらに香織に向けて説明を続ける。


「花蓮は今みたいな『THE』っていう魔法じゃない。見せてやってくれ」


 あいよー、と唇を尖らせたままの花蓮が懐から取り出したのは赤や青、カラフルな色が付いた手のひら大の球体だった。


 奇麗なその石を覗き込みながら香織は意識せずにほぉ、と声を上げる。


「あたしは魔法で何か道具を作るのが得意。空達他の人の魔法を閉じ込めていつでも使えるようにしてあるんだ」


 そう言って赤い石を前に投げると、草原が一気に火の海へと姿を変える。


 次いで青い石をその火の中へと投げ込むと、炎がそのまま凍りついて小さな氷山が出来上がった。


「瑠奈は傷とか治せるし、未来は自分の身体能力あげるようなのしか使えないかなぁ」


 なるほど、と呟きながらこの世界に来て最大の量のメモを取りながら香織は頷く。


 何度もこの世界に来てから驚かされてきたが、実際に魔法を次々見せられると感動してしまう。


 狼のような魔物ーーーウルフだったかーーーそれらとの戦闘の時はあまりに急展開で思考が追い付いていなかった。今冷静になってみてみると、狼の魔物という怖い存在だったが魔法の前では形無しだろう。


「亜紀も魔法メインだが、あまり制御できなくてな。魔力は俺以上なんだが・・・」


 そう呟いた空は、さらに指先に青い光と黄色の光を纏わせて香織に見せつけた。


 視線を向けると、その指先ではパチパチと音を立てながら雷が発生しており、もう片方の指先には先ほど打ち出されたような大きさの氷がフワフワと浮かんでいる。


「今見た様に、氷だったら青っぽい、雷だったら黄色っぽい光が出る。何となく色のイメージはつくだろ?」


 先ほど炎が広がったときは赤い光だった。そのものの色と対応しているということかと香織は頷いた。


「これはおいおい覚えて行けばいい。まずは魔力を感じてみることだ。無意識に魔力を放てば、そいつが使いたいと思ってる魔法が発現するはずだ」


「使いたいと思う魔法?」



 その言葉に引っかかった香織は不思議そうにオウム返しをした。


「・・・正直、魔法ってのは誰もよくわかってない。例えば、俺は未来のように身体能力を上げるような魔法は使えないし、練習したからといって使えるようになるわけじゃないんだ」



 まぁ、例外もあるんだけどな、と呟いた空はおもむろに香織に近づき、その両手を握った。


 いきなり顔立ちの整った異性にそんな行動をされてしまった香織は無意識に顔を赤らめるが、途端に体に巡る熱い感覚に身を震わせた。


「これが、魔力だ。今俺の感覚で伝えているだけだから、まずは似た感覚を自分の身体の奥から探してみろ」


 いきなり始まった実践。しかも今まで経験したことの無いような感覚でだ。


 すぐにできるわけじゃない、と補足した空の言葉通り、香織は自身の中を探す感覚から考えることにした。


 何か粘度の高い液体のようだが、実際目に見えるわけではない。


 試しに内臓を確かめるようにお腹の下に力を入れてみるが、少し息が詰まるだけで何かを掴むことはできない。




 それでは、と空から流されている魔力というものを捕まえてみようと体のあちこちに力を入れてみるが、それも現状を変えるには至らなかった。


「んっ・・・!」


 やけくそ気味に全身を強張らせてみると、ほんの少しだけ身体にまとわりつく魔力が揺らいだような気がした。


 だがそれも長くは続かず。気のせいかと思うほどに10分近く経っても変化は見られなかった。


「いきなり使えるような才能があるやつの方が珍しい。慌てなくてもいいさ」


 そう慰めながら微笑み、手を離した空は軽く肩をほぐすように片腕を回した。


「そうそう。あたしは一週間かかったし、亜紀なんて2年経つけどまだ正確にはコントロールできていないからさ」


 いつの間にか芝生の上にべったりと尻をつけて腰を下ろした花蓮がそう付け足した。


「なにか、コツとか無いんですか?」



 変にいつも使わない筋肉に負担をかけてしまったせいか、軋む身体を麗奈と同じように芝生に投げだすと、そう問いかける香織。しかし返ってきたのは何とも頼りない答えだった。


「うーん、こればっかりは本当に感覚だからねー」



 申し訳なさそうに眉をひそめた花蓮はそう呟いた。


「このイヤリスの街でも魔法は使えない人は少なからずいるし。使えてもライターくらいの火を出すだけとか、そんな人も多いんだ」



 どうやら魔法が使えるのは珍しいわけではないが、使えないという事も十分にあり得るということだ。


 残念がりながらため息をついた香織だったが、その気分は空の次の一言のおかげで落ちることはなかった。


「さっき俺の魔力を操作できてた。才能はあると思うぞ。強さはわからないが遠くないうちに魔法が使えると思う」


「おー!!イヤリスで最強の空が言うならなかなかだよー。安心してね、かおたん!」



 最強じゃあないけどな、と最早突っ込むことにも飽きてきたのだろう空は、非常に小さい声で呟き、二人に倣って芝生にどっかりと腰を下ろした。


「そうなるといいのですが」


 自身の手のひらをじっくりと見つめながらそう返した香織は、もう一つ疑問をぶつけていく。


「・・・なんで魔法が使える人とそうでない人がいるんですかね」




 そんな当たり前の疑問だったが、返ってくる声はなくて。



 どこか遠くの森の中で、ただ小鳥がさえずっていた。



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