エレベーターの中から。
「ふぅ……」
疲れきっていたのか、ふとため息が溢れる。
仕事の時間を省いたとしても、往復2時間の道のりだ。
しかも、その殆どが歩きである以上、どうしても疲労が増してしまう。
階段でならたったひとつ上の階層。
ゆっくり歩き昇ったところで僅か1分にも満たないぐらい。
よく目にすることではあった。
健康のためにと、一段飛ばしで階段をあがる者や……または駆け足で昇ってゆく者たち。
元気で何よりだとは思うが、正直今は何も考えられないほど。
たったひとつ上の階層に辿り着くのに、文明の利器に頼るしかなかったのであった。
4階建て以上の建物には必ずつけるように。
そう、決められていたのだろう。
箱形の密室の扉が滑らかに開いた。
ウィーーーン。
一から十まで。
途中、記されていない階層が気にはなったが、いわゆるエレベーターである。
不吉とされている番号がまったく見当たらないのは気にかかる。
だが、どうでもよかった。
早く、床につきたい。
地上一階から二階へとボタンを押した。
あとは寝るだけで良い。
既に夕食は済ませていたし、風呂は……朝起きてからのシャワーで十分だった。
「ふぅ……」
ようやく心地好く柔らかなベッドの上に寝転がり、まるで夢など一切見ることもなく穏やかな日常の仕上がりへと踏み出そうとしたその時。
思いもよらなかった光景が開いた扉の先にあった。
姿かたちは曖昧で。
言い表しようの無いほど、衝撃的な闇と混沌に満ち溢れている。
たぶん、疲れきっていたからだろうとタカを括っていたのだが。
直ぐ様それは180度回転して、やがて何も考えられなくなってしまった。
「ねぇ、あの染み。 気になるわよねぇ」
「いや、ただの汚れだって♪」
過去、何らかの凄惨かつ奇妙な事件が起こったことは黙りを決め込み。
不動産業者は、今日もほくそえむ。
たかが、四階。
されど、誤解。
誰もいないのに自動的に開く扉。
異世界へのゲートが待ち受けていたのであったのだろうか……。
暗闇から。
蠢く。
不思議な光。