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白銀ノ竜  作者: 鏑木
第1章
6/10

邂逅2

少しだけ憂鬱だった。

朝から雨がしとしとと降り、時折遠くで雷がなっていた。

チビドラゴンなリリィを肩に乗せて学校に行き、そのまま放課後バイトに行った。

リリィはバイト中邪魔にならないよう、けど離れる気はないらしくチビドラゴンなまま店内をうろちょろしていた。


お疲れ様でしたとコンビニから出て暫く歩くとチビドラゴンから人形態に戻ったリリィが隣に並ぶ。いつの間にか雨は止んでいて、リリィと出会った日と同じ月夜だった。




「セナ様今日の晩御飯は何ですか?」


「ん?昨日野菜と肉買ったから野菜炒めかな」


「ハンバーグではないのですね…」



ハンバーグは明日ね。と少し残念そうなリリィに告げながら歩いていると前方にある電柱近くに人影が見えた。

距離は約100m程、少し暗くて性別はわからない。


人影に少し嫌な予感がしたが考え過ぎだと思い、私は足早に通り過ぎる事にした。


その直後私はリリィに腕を引かれ、足を止められた。






「ッ!セナ様!下がって下さい!」


「!?」




今まで聞いた事かない切迫詰まったリリィの声。

不覚を取った、と焦りを滲ませるリリィに私は状況が飲み込めず軽いパニックを起こしていた。


リリィは私を背中に隠し人影を睨みつける、その人影はゆっくりとこちらを向いた。電柱に設置された外灯に照らされたその人影は若い黒髪の男性だった。




「リリィ…?」


「セナ様、私の後ろに隠れていて下さい」


「どうしたの…?」


「…まさかこのタイミングで彼等が出てくるとは思いませんでした…セナ様、彼は竜です」





それも我々に敵対する…竜なのです。




顔が見えなくとも分かるリリィの焦りと緊張。

それだけで数m先からこちらを見つめる人物が危険だと言う事が嫌でもわかった。


彼等?リリィはさっき彼等と言った…という事は…。






「リリィ、まさかとは思うけど…」





まだ他にいるの?と聞く前に背筋がゾワリとした。

嫌な予感がしてリリィの腕を思い切り後ろへと引いた瞬間途轍もない衝撃と共に何かがリリィが直前までいた場所に降りてきた。






「ッ!リリィ!大丈夫!?」


「はい!セナ様ありがとうございますッ!」


「何なんだ一体…!」






パラパラと砂塵が舞い上がる何かが降りてきた場所を見ながら後退る。

視界が良くない中目を凝らせばそこに居たのは2m近くの筋肉質な男だった。

浅黒い肌に血管が浮き上がる腕、黒髪の短髪の男は鋭い眼光をこちらに向ける。離れた場所にいる外灯下の細身の男とはまるで正反対で。


どう見たってお友達にはなりたくないタイプ。



相変わらずリリィは警戒態勢を崩さぬままで。どうしたら良いんだろと考えていると。

細身の男がこちらに近づいて来た。






「…久しぶりだな白銀の王」


「その呼び方はお止め下さい。漆黒の王」




薄ら笑みを浮かべる漆黒の王と呼ばれた男とは対象的にリリィは今までに見た事のない無表情を顔に貼り付けていた。


口振りから二人はどうやら知り合いの様子。

リリィの口振りからリリィは彼の事が余り好きではない…のだと思う。






「ふっ…相変わらずだな。そこのお嬢さんが君の主とやらか?少し脆弱そうだ」


「お言葉ですがそちらの方が貴方の主ですか?少し脳筋そうに見えますが。そちらと違い私の主は賢く暖かみ溢れる強いお方です」




貴方の様な方に脆弱等と言われたくありません。

そうリリィは吐き捨てるように相手の言葉を弾き返す。

いつも私と話す時のような声色ではなく、氷のような冷たさで。私はガラリと違うリリィの雰囲気や声色に戸惑いながら成り行きを見守る事しか出来ないでいた。



リリィのそんな態度でも男は余裕を崩す事なく、ふっと含み笑いを浮かべる。







「白銀の王…いや、敢えて零王と呼ぼうか。見たところまだ契約はしていないのだろう?君の力は全開とは行かぬ様子」


「………」


「その様子正解だな。我々が此処に来た理由、君等に会いに来た理由はわかっているな?」


「…セナ様には手を出さないで下さい、貴方の言う通りまだ契約はしていません。彼女はこの戦いに無関係です」





リリィは静かにそう言い、肩の力を抜いた。

男は口元を歪めて笑ってはいるが黒色の瞳は冷たく笑っていない。

そこでこれから何が起こるのか、リリィの言った言葉の意味がわかった。


…リリィは私を助ける代わりに死ぬつもりだ。






「リリィ!何言ってんの!?死ぬつもりだろ!」


「…セナ様、良いんですこれで。私は貴女が無事ならそれで構いません」


「ふざけんな!そんなのおかしい!」


「短い間でしたが貴女に会えて、貴女と一緒に過ごせて私は幸せでした。私は貴女と、セナ様と一緒に居れた思い出さえあれば他に何も望みません」


「…そんなの!」





リリィの何もかも覚悟した目を見つめながら今までの記憶が蘇る。

リリィと初めて会った時の事、ハンバーグを初めて食べた時の顔。

不貞腐れたように拗ねた顔、私を呼ぶ時の甘えたな声と優しさが含まれた声。

寝る時にいつも背中に感じる温もり…。


失くしたくないと思った。


こんな理不尽極まりない事でリリィを失いたくないと強く思った。

その為ならどんな事だって出来ると思った。





「……リリィ、契約を結べばリリィは全力を出せるんだよね」


「セナ様…?」


「やるよ私。こんなとこでリリィを失いたくない」


「セナ…様…」



大きく目を見開くリリィへと私は笑顔で手を差し出す。




「覚悟は出来た。だから私と契約を結んでリリィ」


「ッ…はいっ!」




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