邂逅
ここテストに出るからなー。
教師の気怠そうな声を聞きながらノートに黒板に書かれている数字を記入していく。
書いてはいるものの頭の中に授業内容も今書いている内容も入っては来ない。
何故なら…
「セナ様!セナ様!見て下さい!あのお方寝ていらっしゃいますよ!」
チビドラゴンに変化しているリリィが私の肩に乗り楽しそうに話しかけてくるからだ。
時折私の頭にスリスリとしてくるから擽ったすぎてたまったもんじゃない。
リリィ本人曰くこのドラゴンの姿の時は私以外には見えないらしい敢えて見せる事は出来る、人の姿は見えるとのこと。
何とも便利なものだ。
「セナ様ー」
あー!もうだからスリスリしないで!
何がそんなに良いのかリリィはグリグリと頭をスリスリしてくる。
暫くそれに耐えていたが余りにも擽った過ぎて、私は他に気づかれないようにリリィの額にデコピンをする。
「はうっ!」
ピクッ!としたあとにリリィは前足で頭を押さえながら、酷いですー!と恨みがましい蒼色の目を向けてきた。
その後はデコピンされたくないのかリリィはおとなしくしていた。
最初からおとなしくしておけばと思いつつも、少し不貞腐れたように私の頭に顎を乗せているリリィが可愛らしく思えた。
「セナ様何処に行かれるのですか?」
「ん?スーパーだよ、晩御飯買いに」
学校が終り、人の姿に変化したリリィと並んで歩く。
スーパー、ですか?と不思議そうなリリィはスーパーを知らない様子で。
私はリリィにスーパーを含め周辺にある店を説明しながら目的地に向かう。
初めて見るのか、私達には見慣れている物でもリリィは新鮮な反応を見せる。
様々な物に興奮したように食いつくリリィを宥めながら何とか買い物を終えることが出来た。
「セナ様!これっ!凄く美味しいです!」
食事中リリィの弾んだ声で呼ばれテレビから視線をリリィへと向ける。
そこには私が作ったハンバーグを食べながらキラキラした目をするリリィが居た。
唇の端にハンバーグのソースを付けていて子供っぽく見える。
「ほらソース付いてるよ」
「あ、すみません!ありがとうございます」
「そんなに美味しい?」
「はい!とても美味しいです!」
冗談めかして聞いたのに満面の笑みで返してくるから聞いたこっちが何か気恥ずかしくなって、つい目を逸らしてしまう。
そんな事に気付いてないリリィは、流石セナ様です!だなんて追撃をしてくる。
「…そんな事ないよ、これくらい料理出来る人なら誰でも出来るって」
「いえ!セナ様だからです」
「言い過ぎだってば」
「いえいえ!言い足りないくらいですよ!」
褒め殺しにも程があると思いながらパクパクとホントに美味しそうな顔で食べるリリィを見て思わず笑ってしまう。
それに気付いたリリィは不思議そうに首を傾げてどうかされました?と尋ねてくる。
何でもないよと言いつつリリィの口に手を伸ばした。
「ほら、また付いてる」
「あ!…すみません、つい」
「ううん。ねぇ、ハンバーグ気にいったならまた作ろうか?」
「良いんですか!?」
「うん、全然良いよ。このくらいなら言ってくるたら作る」
「本当ですか!?お願いします!」
余程嬉しいのか目に見えてニコニコしはじめたリリィ。
最初は綺麗で清楚で涼しげなお姉さん系の印象だった見た目も中身も、けど今のリリィは何か人懐っこくて甘えたで、見た目は変わらないけど良い意味で手の掛かる子供みたい。
まだ1日しか一緒に居ないけど、私はリリィといる事に少なからず心地良さを感じていた。
本当は何処かで追い出すべきか、何て少なくとも考えていた。
いきなり出会って、主だの選ばれし人間だの竜だの怪しさ満点で、信用しろ受け入れろだなんて初めから出来る方が無理な話。
だけどリリィなら、信用出来る。
まだ全部を心の中で受け入れて消化しきれていないけど、きっとリリィの言う事は本当なんじゃないか、受け入れる事が出来るんじゃないかと私はリリィを見ながら思える。
リリィが言う害を為す者達が現れてぶつかる日が来るかも知れなくても、きっと私は後悔しないんだと思う。
きっと傷付いて悩んで悔んで選択を迫られるんだと思う。
「凄く楽しみです!ハンバーグ!」
「そんなに気にいって貰えたなら良かった」
けど、私はきっと後悔はしないと心の何処かで確信している自分がいた。
「…んー…何か暑い…」
リリィに背を向けて寝ていた私は夜中暑苦しさを感じて目が覚めた。
背中に何か押し付けられた感覚とお腹に違和感を感じて視線を向ければそこには白いリリィの手があった。
まさかと思い首だけで後ろを確認すればすぐ側にリリィの寝顔を見つけた。
「…なるほど、どうりで暑いわけだ…」
軽く溜息を吐いてリリィから距離を取ろうと身体を捩ればお腹に回された腕に力がこもり、あろう事か背中に押し付けられた額でグリグリ攻撃をされる。
そんな事をされてはもう私は無理に剥がせなくなり、諦めて寝る事に決めた。
それから毎晩リリィが引っ付いて寝る事はお決まりになった。私が暑苦しさと戦う事も。
リリィと暮らし始めて1ヶ月があっという間に過ぎた、梅雨が終わり7月に入り季節は夏に突入した。
リリィは相変わらず毎晩私に引っ付いて寝て、週に2回は必ずと言って良い程にハンバーグを要求する。市販やレストランのでも良いかと試してみれば食べはしてもやはり私のが1番良いらしい。
これまで聞いた話だとリリィの言う竜との契約に関しては、まだ今の私達は俗に言う仮契約で、まだ私はリリィの力を使う事は出来ないとの事。
ちゃんとした契約をするには血の契約と言うのをしなければならず、一度契約を結べば私が死ぬまで契約が続くらしい。
「血の契約って?」
「はい、簡単に説明するとセナ様の中に私の血を…私の中にセナ様の血を入れる事で契約が履行されます。血の契約を行い竜と人は魂が結び付き文字通り一心同体となり、生涯解ける事はありません。そして血の契約を結べば我々を狙う者達に狙われる確率が高まります」
「それって私が死ねばリリィも死んじゃうって事?」
「そう言う事です、前にも少し説明しましたが我々竜は一人の主に付きその方が死を迎える時に竜と死を迎え、ほんの一部の記憶を持ったまま転生します」
「…そっか、じゃあ今のまま仮契約なら私が死んでもリリィは死なないって事?」
「…はい、そうです…」
正直なところ私は悩んでいた、というより戸惑っていた。契約を結ぶ事を躊躇いを持っていた。
リリィと一緒にいるのは楽しい、今の生活がずっと続けば良いのにと思う。
けど、もし契約を結んで私が死んでしまう事になりリリィまでも死なせてしまう事になるんじゃないかと悪いイメージが湧き上がる。
私のそんな気持ちにリリィは気づいているのか、契約を無理にとは言いません、セナ様が気持ちに整理がついたら言って下さい。と言ってくれた。
…私はどうしたら良いんだろう。
そう思いながら毎日を過ごしていたある日だった。
彼等が現れたのは…私に決断が迫られる事になったのは。