0.00 転送まで
「こんにちは!ボクの名前はクロボウズ。キミは今の自分を変えたいと…思ってるかな?思ってるよね?」
「あ、えっと…」
「ウンウンッ!そうだよね!それじゃ、ちょこっとだけボクのお寺まで来てくれるよね?」
自分のココロを覗かれたからだろうか?
どんな人間も吸い寄せてしまう不思議な力が
そのふざけた声には宿っているようだった。
「ハイハイ!お客様!シートベルトはしっかりつけてねぇー」
結局、乗ってしまった。
不思議な力とやらもこれっぽっちも感じない。
「ルンルンルーン♪迷える子羊ごあんなーい」
彼はノリノリでアクセルを踏みこむ。
ーー
車内に流れるのはボーカロボットとかいう
機械による合成音源を使った歌だ。
思ったより声が低めで、落ち着いた曲が流れていく。
まぁ、たまに聴くなら悪くない。
「これっ、ボクが作曲っ!プロデュースしたんだよね! どうどう? いい曲でしょー」
延々と続きそうな自慢話に、
はぁ、そうなんですか。と適当な返事で返す。
「そういえばキミ、受験生でしょ? ボク、わかっちゃうんだよねー。このお守りあげちゃうよ!」
そう言いながらお守りを渡してくる。
「あ、ありがとうございます」
”恋愛成就”と書かれている。
…このお守りは、なかったことにしよう。
さりげなく助手席のポケットに入れておいた。
ーー
ボウズはそれから喋らなかった。機械によって作られた曲も終わり、静かな車内で窓に映った紅葉の出迎えを眺めていた。
「さぁ、とうちゃーっく」
車が停まる。ドアを開けると少し寒さを感じる。
「じゃっ、ここからは歩いていくよ」
ボウズはどんどん先に進んで行く。
近くで見ると、さらに鮮やかな紅葉だった。
どこかで聞いた
”燃えるような色”なんて言葉を思い出しながら
どんどん先に進んで行く。
「あの、まだまだですか?」
「うん、まだまだだよ」
木々の葉は青くなっていた。
標高が上がるにつれ、色づきも遅れる、ということか。
どんどん先に進んで行く。
「あの、まだまだですか?」
「うん、まだまだ、まだだよ」
木々の色は青くなっていた。
緑…ではなく蒼色に。
どんどん先に進んで、行く。
「あの、まだまだですか?」