表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

我が子には甘いヨ!

作者: 鈴木あきお

ほのぼのとしたホームドラマです。旦那をめぐって嫁と姑が衝突します。

子供も絡んできてどうなることやら。是非、本文まで読んで下さいませ!!

損はさせません!! お願いします!!感想お待ちしております!!


初夏、私の主人である河津紀夫35歳の告別式がしめやかに行われた。暑い中、大勢の人々が紀夫に会いに来てくれた。息子の祐樹5歳は棺桶に横たわる紀夫の傍で泣きじゃくっている。

「パパ、生き返って! やだぁ~」

祐樹の泣き声につられて、大人たちも目に涙を浮かべ、すすり泣きを始めてハンカチで目元を拭いた。私は紀夫の好きだったミステリー小説を棺桶にそっと置いた。

「あなた、天国でも読んでね!」

私の目は涙で溢れていた。遠くから姑の節子が私を睨みつけてくる。まるで・・・

お前のせいで大事な息子が死んだ!!

と言わんばかりの冷たい眼をしている。

気が付くと私のすぐ傍に紀夫の死体が立っていた。

「イヒヒ・・・」

紀夫は薄気味悪い笑い声を上げた。私の背筋にゾクゾクと悪寒が走った。

私は夢から覚めた。隣には紀夫と祐樹がすやすや寝ている。窓は開いていて、涼しい風が入ってきていたが、私は汗だくになっていた。起き上がり、ダイニングへ行って、麦茶を飲んで落ち着きを取り戻した。リビングで朝になるまでソファーに深く腰をかけて、クラシック音楽を聴いて過ごした。最近、嫌な夢をよく見るようになった。

身近な家族の死!!

最も起きてほしくない出来事だ。


ようやく朝になり卵焼きとウインナーを焼いて紀夫用に弁当を作る私。それに加えて朝食の準備祐樹の幼稚園の準備、洗濯と朝は大忙しだ。玄関先で祐樹と一緒に紀夫を見送る。紀夫はカジュアルな服装で眼鏡に短髪といった外見である。

「あなた、いってらっしゃい!」

「お仕事がんばってね、パパ」

紀夫は笑顔で祐樹の頭を撫でる。

「うん、がんばるよ!祐樹」

隣の家から白髪混じりの髪の節子が歩いてくる。同じ敷地内に瓦屋根で木造の古い家と築3年未満の新築の家が建っている。

「おはよう~ゆう君」

「おばあちゃん、おはよー」

にこやかに節子と接している祐樹。

「紀夫、新しい仕事には慣れた?」

紀夫は首を傾げながら自信なさげに言う。

「ぼちぼちかな、行ってくるよ」

紀夫は黒い軽自動車に乗って発進した。

「美和さん、ゆう君幼稚園送ったら梨園の手伝い頼むわね」

「はい」

「最近、腰痛くて。悪いわね」

節子は腰を自分で揉んでいる。

「大丈夫?おばあちゃん?僕が揉んであげようか?」

祐樹は節子の腰を非力ながらも揉む。

「あら?気持ちいい」

私は微笑ましく見ている。

河津家では河津梨園と複数のアパートを経営しており、地元の南埼玉郡白岡町では裕福な家と見なされていた。私が河津家に嫁に来てから早6年の歳月が経っていた。紀夫は河津家の長男で、長女と次女は嫁にいって年に数回、家族連れで帰ってくるだけだった。私と紀夫が節子を面倒見ていた。正確に言うと、私と節子が紀夫の面倒を見ていたのだ。


田園地帯の脇道を車が多く走行していた。幼稚園から数百メートル離れた駐車場に車を停めて、幼稚園に祐樹を連れて行った。

「おはようございます」

園児がどんどん幼稚園の中へ入ってゆく。

「祐樹君、おはよう! 早く遊ぼうよ」

「うん、お砂遊びしよう」

「いってらっしゃい」

祐樹は楽しそうな笑顔を浮かべながら友達と中へと入って行く。ママさん仲間が私の傍へやって来た。

「河津さんのご主人さん、お休み?」

「え?仕事ですけど」

「パチンコ屋の駐車場に車が・・・黒のワゴンアールでしたよね?」

「え・・・?」

私は急いで去った。ママさん仲間達は私が去った後にお互いの顔を見合ってニヤニヤといやらしい笑顔を浮かべた。


パチンコ屋の駐車場に車を停めて、ミステリー小説「告白」を読んでいる紀夫。最近のブームは湊かなえだった。背もたれを倒しリラックスしている様子だ。煙草は吸わず、ガムを噛むのが習慣だった。コンコンとフロントガラス叩く音がする。怒っている私の顔を見て、紀夫は驚いた様子で背もたれを慌てて元に戻す。


 家に戻ってから、私は紀夫を強い口調で問い詰めた。

「どうして、辞めたの?」

設備施工の会社をわずか1週間で辞めていた。理由は体育会系の雰囲気が合わなかったからと。

「私と祐樹を養おうっていう自覚あるの? 何回、転職繰り返すの?」

「ごめんよ、言い出せなくて・・・本当にごめん」

紀夫は何度も深く私に頭を下げた。私は嫌気が差してきて、冷たく言った。

「聞き飽きたよ! 行動で示してよ」

紀夫は俯き黙ったままである。いつも私が怒ると無口になるのはいつものパターンだった。

ピンポーンと音が鳴り、節子が入ってくる。

「漬物作ったから皆で食べてね」

私は頭を下げて感謝を示した。

「すいません、いつも」

「紀夫、仕事は?」

落ち込んだ顔をしている紀夫を見て、節子は何かを察した様子になる。

「美和さん、ちょっといい?」

節子と共に家から出て行った。

農業用の道具の置いてある納屋に私は呼び出された。節子は私をじっと見詰めて言う。

「前も言ったけど、あの子は小さい頃からメンタル弱いのよ。必要以上にきつい言い方しないでほしいの」

「私も紀夫さんの性格はわかっています。

でも、何も言わないとびっくりするくらい何もしない人だから」

「紀夫が自殺したらどうするの?」

節子の深刻な顔を見て、私は折れた。

「わかりました、やんわりと接します」

大袈裟な姑だと私は常に思っていた。だから、紀夫がダメ男になってしまったのかと私は確信した。

 家に戻ると紀夫はワープロで夢中になって小説を書いていた。さっき私に怒られた事なんかもう忘れている様子だ。私の視線に気が付いて手を止めた。

私と紀夫は20代前半文芸サークルで知り合った。お互い、小説家を志したが厳しい現実を目の当たりにして、執筆をしばらく止めていた。紀夫はあきらめきれず私の目を盗んでは

書いていた。だが、作品は日の目を見ることはなかった。仕事を積極的にやらないのもこれが原因の一つであるとわかってはいたが。

「また書いているの?」

「湊かなえに負けない極上のミステリーをさ!!」

「あ、そうですか。賞取ったら言って」

私は紀夫の自信過剰ぶりにあきれた。15年以上小説を書いてきて、最終候補にも残ったことがないのだ。この能天気さが紀夫の良さでもあるのだと私は思っていたが、ここまで来ると単なるバカだと思えた。

「明日、ハローワーク行けば?」

「混んでいるからね~」

露骨に面倒くさそうな顔をする紀夫に私のイラツキ度は最高潮に達した。

「あら?随分余裕ですこと」

私は仕方なく怒りを抑えて優しい言い方をしてあげた。正夢にならないという保証は絶対ないからだ。

祐樹の事を考えると甲斐性のない主人でもいないよりかはましだと私は思うようにした。


 晴天の中、私は麦わら帽子を被り、梨園の手伝いをしていた。梨狩りに訪れた人の対応がメインだ。嫁に来た当初、農作業の手伝いはしなくてよいという条件つきだった。

「千円になります」

収穫が一番早い幸水を袋に入れて、初老の男性に渡してあげた。

「ありがとうございました!またお越し下さいね」

「お姉ちゃん、また来るよ、頑張ってね!」

初夏の太陽がギンギンと容赦なく私を照らす。私はタオルで汗を拭って、腕に向かって虫除けスプレーを噴射した。ヒヤッとした感覚が気持ちよかった。蚊よ、私を刺さないでおくれとお祈りした。60半ばを過ぎる節子が歳をとって動けなくなったら私が全てをやらされるのか?と私の脳裏に不安が過ぎった。


 夜になり、実家の和室で私達は食事をしていた。黒豚のしゃぶしゃぶに刺身の盛り合わせといった失業中とは思えない贅沢だ。義父で故人の河津徳次郎の位牌にもご飯が盛られていた。デザートに梨も置いてある。

紀夫は隣の席の節子と話していた。

「ハローワーク行ったけど、ろくなのがないね! 給料安い割には仕事もきつそうだし」

「ゆっくり探せば?焦ってブラック企業行ってもすぐ辞める羽目なるだろうしね」

親身に紀夫の相談に乗っている節子。紀夫がマザコンに見えてしょうがなかった。

「ママ、おかわり」

「半分くらい?」

「うん」

窓が全開になっており風が吹くと、風鈴が鳴った。畳に蚊取線香も置いてあった。

「夜分遅くすいません!」

節子がドアを開けると宅急便の配達員が来ていた。配達員はすごく頬がやつれて、夏の暑さもあってか疲れているようだった。

「お中元です!ハンコお願いします」

「あれ?宮田君」

紀夫が配達員の宮田の傍へ行く。

「久しぶりだね!何年ぶりかね?」

紀夫の同級生のようだった。

「紀ボンは何しているの?」

「失業中でさ~何かいい仕事ない?」

「うちの会社は?」

「もっと楽な仕事ない?」

「急ぐからまたね」

宮田の顔が冷たくなるのを私は感じた。

席に戻る紀夫に私は強く言った。

「あんな言い方したら失礼でしょう?空気読みなよ」

「ごめんよ」

節子はちらっと私の顔を不満そうに見た。

「美和さん、片付けお願いね」

私は黙って頷いた。


私がいつも通り幼稚園に祐樹を迎えに行った帰りの出来事だった。手をつなぎ駐車場まで祐樹とお喋りしながら歩いていた。

「祐樹君、バイバーイ」

「バイバーイ、武晴くん」

母親の自転車に乗った友達が通り過ぎる。祐樹は私の顔をじっと見詰めて言った。

「おばあちゃんの家で、ご飯食べるの?」

「今日はママが作ってあげる! ハンバーグとポテトでいい?」

「唐揚げも食べたい」

「おデブさんなっちゃうよ~」

駐車場に着くと、フロントガラスに大量の泥が被っていた。

「ママ~車で砂遊びした?」

私はただ、呆然と立ちすくむだけだった。


 洗車をしてから家に戻ると紀夫がリビングのソファーに座って読書をしていた。

「ただいま~パパ」

「お帰り!アイスあるぞ」

祐樹は嬉しそうに冷蔵庫へ向かった。

「ねえ、何か仕事見つけたの?」

「うん、これ」

家具のハトリ、倉庫内作業パート大募集!!

時給1300円 完全交代制の為、残業もありませんとの広告を私に見せた。

「パート?」

「家から近いし、時給もまあまあだし」

「本気で仕事探しているの?」

私は厳しい目で紀夫を見詰めた。紀夫は私から目を反らした。

「お義母さんが亡くなったらどうするの?

相続税やら固定資産税払えるの?」

「そうぞくぜいって何?」

「何でもないよ!アイス食べな」

紀夫は若干怒り気味で私に食いかかった。

「祐樹の前でそんな事言うなよ」

「現実に目を反らさないでよ! 

その場が良ければ、それでいいって考えはやめなよ」

祐樹がアイスを食べながら紀夫のそばに来る。

「パパ、お仕事しないと、お尻ペンペンするぞ~」

祐樹は紀夫のお尻をぶちだした。

「よくもやったな~」

紀夫は祐樹を持ち上げて回転させる。

「ほらほら、悪い子はお仕置きだ」

紀夫に遊んでもらえて祐樹は嬉しそうな顔をしていた。私も子煩悩な紀夫は好きだった。

仕事さえ安定してくれれば文句はなかったのだが。節子が袋を持って自分の家であるかのように図々しく入ってくる。

「野菜買ってきたから食べてね」

「ねえねえ、トマトは?」

「あるよ、真っ赤で美味しそうなの」

節子はトマトを祐樹に見せる。

「わ~い」

私は節子に向かってきっぱりと言い放った。

「援助は結構です!」

「!?」

「お義母さんが甘やかす限り、紀夫さんは変わりません」

むかっとした顔になり祐樹に言う節子。

「ゆう君、うちに遊びに来る?新しいおもちゃ買ったからね」

「うん、いくいく~」

節子に連れられて祐樹は出ていく。紀夫も逃げるかのように寝室へと向かう。

私は一人リビングに残されてため息ついた。


婚約して初めて河津家に来た日をふと思い出した。お茶菓子を出されて、緊張した様子で座布団に座っている私だった。

「本当にうちの息子と結婚してくれるの?」

「はい」

「頼りないけど、いい?」

「大丈夫です、尻にひきますので」

私と紀夫、節子は微笑んだ。

節子は徳次郎の遺影に向かい報告をした。

「お父さん、我が家にこんなに若い嫁が来るよ」

節子はうれし涙を浮かべていた。

昔から、河津家を知っている近所の人から聞いた話だと紀夫は中学校時代、虐めが原因で不登校になり、家庭内暴力を奮っていた時期があったそうだ。家の中から怒鳴り声や物を投げる音が頻繁に聞こえてきた。節子の顔に生傷が絶えず、近所の人が心配して河津家の様子を見に来ていたそうだ。徳次郎は仕事で留守がちで、節子には相当な心労があったようだ。手を焼いた息子が結婚となると喜びも倍増だったろう。


 祐樹が生まれて間もない日の事も思い出した。


「紀夫さんに疲れました」


縁側で生後間もない祐樹を抱っこしてくれていた節子に思い切って不満をぶちまけた。

紀夫が試用期間で会社を解雇された。理由は集中力散漫、仕事の覚えが悪いので職務不適合とされた。私は紀夫が小説を書いているのが原因の1つと思い、潔く小説家への道をあきらめるよう言った時があった。案の定、紀夫の答えはノーだった。

「私、そろそろ限界です」

節子は真剣な顔で私に言った。


「紀夫の夢を奪わないで! 生活きつかったら協力するから」


節子の真剣な顔に私は何も言えなかった。


何でそこまで小説に固執するのか、私は疑問だったが答えが次第にわかってきた。紀夫が書いた短編小説の1つで引きこもりの少年が文学の面白さに目覚めて、生きる希望を抱いていくという物語があった。自伝小説かと紀夫に聞いたが違うと言っていたが、恐らく自伝だろうと私は確信していた。主人公の駄目さが紀夫にそっくりだったし、母親も節子をイメージして書いたのがもろわかりだった。息子が立ち直るきっかけになった小説を節子は大事にしていきたいと考えたのだろう。私も紀夫の小説への熱意は認めていたが、やはり現実の生活が優先になっていた。

 

祐樹が夏休みに入り宮代町、東武動物公園周辺で祭りが行われた。私は浴衣を着て、祐樹と紀夫を連れて祭りを楽しんだ。祐樹は綿飴を食べて上機嫌になっていた。

「金魚すくいやろうよ!」

「やろう、やろう」

幼稚園の友達とも遊んで満足な様子だった。子供の幸せは親の幸せであるとつくづく私と紀夫は実感した。花火が上がり、私達は夜空でパーンと爆発して、美しく輝く花火に見とれていた。車の件以来、嫌がらせはないので私はほっとしていたが、ついに大打撃を食らうのだった。

家に戻り、私はお風呂に入浴剤の温泡を入れた。皆で湯船に入ると色のついたお湯がザブーンと溢れて流れていった。

祐樹と紀夫と共に疲れた身体を癒した後、畳部屋に布団を3組ひいて寝る準備をしていた。窓から拭いてくる自然の風が涼しかった。紀夫が祐樹に絵本を読んであげると、いつの間にか祐樹はすやすや寝ていた

「いい顔しているね」

タオルケットを蹴っ飛ばしてぐっすりと寝ている祐樹に私はタオルケットをかけた。

「遊び疲れかしらね」

少ししてから紀夫はミステリー小説を読みだし、私はスマホで町内の掲示版を閲覧していた。掲示板に中傷する言葉があるのを私は発見した。


「あ~あ!朝から晩まで仕事で嫌になっちゃうぜ!○○梨園のボンボンは親のすねかじりで楽をしてやがる!! むかつかねえ?」


「どうせ嫁も財産目当てだろう? 事故でも起きて不幸な目に合わないかな! ケケケ」


私は紀夫にスマホを見せた。

「これ、見て」

「ん?」

紀夫はスマホを見た後、すぐに私に返した。

何も言わない紀夫に、私は強めの口調で聞いた。

「悔しくないの?見返してやろうとか思わないの?」

「言いたい奴には言わせとけよ」

紀夫の言葉に私は愕然とした。

「早く寝よう」

私は枕を叩きつけた。

紀夫はビクッとした様子だ。

「ばばあと仲良く暮らせよ! 叶わない夢を追いかければいいだろうが!」

私はついに切れてしまった。寝ていた祐樹がびっくりして起き出した。

「うわぁ~ん」

「ごめんね、ねんねしようね」

私に怒鳴られたせいか、掲示板を実は気にしていたのか紀夫は落ち込んだ様子で一睡もしていないようだった。 


翌日、祐樹を連れて実家に帰ろうと思い、

車に荷物を積み込んでいた。紀夫は必死に止めにかかった。

「美和、考え直してくれよ」

「やだ!もう我慢の限界よ」

農作業から帰ってきた節子が私と紀夫の傍へ寄ってくる。

「どうしたの?」


「出ていきます・・・この家に疲れました」


「出ていくならあなた一人にしなさいよ!祐樹は河津家の跡取りなのよ」

節子の険しい顔を見て、祐樹は怖がった様子になり、私にしがみつく。

「ママと一緒がいいよ~」

「いいから、こっちにいらっしゃい」

節子は強引に祐樹を自分の方に寄せた。

紀夫もすぐそばでおたおたしているだけだ。

「ゆう君、おいで」

祐樹は節子の顔色を伺って、躊躇している。

「お世話になりました」

私は諦めて、一人で実家に戻ることにした。


実家に戻ったが虚無感が私を襲った。兄夫婦からは邪魔者扱いされて、実母からも小言を言われて居場所がなかった。私は部屋に籠り、うとうとと居眠りをした。

大木で首つり自殺をしている紀夫が現れた。私はどうしていいかわからず、ただひたすら泣くだけだった。気がつくと節子が私の傍にいて無表情で私を睨みつけた。死体の紀夫も薄ら笑いを浮かべていた。

「イヒヒヒヒ」

恐怖のあまり私は瞬く間に硬直していった。


私は夢から覚めて、ふぅ~とため息をついた。お風呂に入り、身体をリフレッシュさせた。湯船に浸かりながら、正夢になったらどうしよう?と不安が過った。連絡してみようか迷ったが怖くなり、結局連絡しなかった。

河津家から飛び出して一週間が過ぎて私宛に郵便が届いた。封を切ると祐樹からのお絵かきが入っていた。クレヨンで力強く花火を鑑賞する親子の絵が描かれていた。


「ママ、帰ってきて!」


とのメッセージも書かれていた。

一番の被害者は私でなく祐樹だと私は実感した。大人同士が一体何をしているのだろうか

罪悪感が私を襲った。実母の声が聞こえてきた。

「あら~ゆう君いらっしゃい」

私が急いで玄関まで行くと帽子を被り、リュックを背負った祐樹がいた。祐樹は、じっと私の顔を見詰めて言った。

「ママ、何で帰ってこないの?」

祐樹はこつんと私を叩いた。

「ゆう君、ごめん・・・」

後ろから生きている紀夫が現れた。なぜだか私はほっとした。

「おふくろとも話し合って祐樹のためにも家に戻ってほしい」

「やだ!お義母さんから距離置くなら離婚はやめてあげる」

「おふくろ一人にするわけいかないだろう!頼むよ、美和」

「じゃあ、ここにいる・・・ずっとね!」

「我がまま言うなよ」

「あなたに我がままなんて言われたくないよ!仕事決まったの?」

「まだ・・・今度こそ死ぬ気で頑張るよ」

紀夫の言葉に心のこもっていないのが私にはわかった。

「いつも口だけね!疲れただの、口うるさい人がいるだので、やめちゃうんでしょう」

「そう言うなよ!」

祐樹はぽろぽろと泣き出して言った。

「喧嘩しないでよ・・・ママもパパも・・・

仲良くしようよ」

祐樹は拳骨で顔を真っ赤にしながら私をぽこぽこと殴った。

「バカ!バカ!バカ!」

私はすまなそうに祐樹を強く抱きしめた。

「ごめんね、ゆう君」

紀夫も祐樹の頭をさすった。

「ごめんよ、祐樹」

実母は後ろから優しく私達を見守っていた。


 私は翌日から河津家に戻った。祐樹の為にご飯を作り洗濯をして、いつも通りの日々が戻った。

紀夫はパソコンで求人サイトを見ており、傍で祐樹がお絵かきをしている。

紀夫は飽きたようでまた小説を書き出す。鬼気迫る目で執筆をして、机の下には公募ガイドが置いてあった。私の視線に気が付いてすぐに求人サイトに戻る紀夫だった。

 

 私は晴天で太陽が照りつける中、庭で洗濯物を干す。遠くの方で東北新幹線が走っているのが見えた。隣の家で節子も洗濯物を干していたが、視線を合わせないようにした。祐樹が満面の笑顔を浮かべながら、私の所へやって来て言う。

「ママ~見て、ゆう君また絵描いたよ」

私は絵を見てびっくりした。

「あら~うまいね・・・将来は画家かな?」

「おばあちゃんにも見せてくるね」

私は節子の所へ走っていく祐樹を追いかけた。

「ダメよ!見せちゃ~」

祐樹の絵には鬼婆が金棒を振り回して弱い嫁をいびっている絵が描いてあった。

私がつまずいている間に祐樹は節子に絵を見せた。

「お婆ちゃん、鬼なの?そんなに怖い?」

「ちょっとだけ」

私は気まずそうに祐樹と節子に近づく。

「カワイイらしい鬼だね」

私は必死にフォローする。

伸びをしながら紀夫が家から出てくる。

「天気もいいし、皆でドライブでも行って温泉入るか」

「行くぅ~お婆ちゃんも行こう」

「そうかい、行こうか」

皆、和やかな雰囲気になった所で私は思わず次の言葉が出た。


「仕事決まってからにしてよ!」


場の雰囲気が気まずくなり、私と紀夫は互いの顔を見合わせながら苦笑いを浮かべた。

                                        完






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ