表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

冷蔵庫

作者: 三日月(

   冷蔵庫

 

 今日もだめだったなあ・・・。

私はバイトで疲れた体をなんとかごまかしながら家に帰り

汗まみれの体を冷やそうと冷蔵庫にむかったがそのまま力尽き

ずるずると冷蔵庫にもたれながらふとつぶやいた。


 彼は本当に優しい。

今日は荷物を持ちすぎて戸が開けられないときにすっときて何も言わずに開けてくれた。

昨日はメガネを忘れ講義のノートがとれなくて困っているとき、うしろから肩をたたいて素敵な笑顔と共にこっそりノートを貸してくれた。

おとついは講義室の長い階段を一番上から蒲田行進曲ばりに転げ落ちた私を遠巻きに見る人たちがいる中、なにも言わずに手を差し伸べて私を立たせ、転がっているたくさんの荷物(友達がくれたミルキーのレアな包み紙さえ)も全て拾い集めてくれた。


それと

どうにかして彼と接点をつくりたい私は

必死になって彼が興味をもっていることについて勉強し

質問を作り出し投げかけるのだが

たとえば・・・ブラウン運動の仕組みや、なんたら粒子について、今大河でやっている真田丸についてなどなど、多種多様な質問にも嫌な顔ひとつせず答えてくれる彼。

わからないときは次の日に持ち越しておしえてくれることもしばしば。

こちらとしてはしめしめだけど(笑)

まぁ、聞くばかりではなんなので、私も自分が持ってる知識をフル稼働して彼に教えることも時にはある。

昔から親しまれているジャンプのマークを90°回転したら可愛い少女漫画的な絵になることや、金輪際の読み方や、パラオは昔、日本の植民地だったこともあり、いまだに日本語的なものが現地に残っているため、ブラジャーのことをむこうではチチバンド、おいしいはアジダイジョウブというかなり意味のない雑学的な話を彼に教えたりもした。

 そんな仲良さげな感じのわたしたちなのだが、恋人へのもう一歩がなかなか進まない。

私としては、彼になんとか近づきたくて行動するが、彼はいつもするっとかわしてそこから逃げているような気がする。

昼ごはんは一緒に食べるが、夜ごはんになるといつも断られる。

一緒に映画は見に行くが、借りてきたDVDを見るとなると必ず自分とも仲のいい友達を連れてくる。

部室にみんなといる時、うまいことふたりきりになろうとしても電話がかかってきたとかなんとかいって部屋からでていってしまう。

 今日も話の中でバイトの話になったのでおごるから遊びにおいでと誘ってみたものの、案の定ありがとうと言いながら彼はバイト先に来なかった。

一緒に働いている仲間が仕事終わって帰り際「そういえば、仕事中ごみを捨てに行ったら外にあいつのなで肩が見えた気がする。」と教えてくれた。

私も入り口に一瞬やつの派手なマフラーが見えた気がしたからきっと来てくれたのだろう。

でもやはり、その入り口に入る一歩がでないのだろう。


 どうしてなのかな?なんでそうなるのかな?たった一歩なのに・・・。

 もたれている冷蔵庫からあの特有のぶいーーーんという音が聞こえる。

その音を聞きながらふと思った。

冷蔵庫って触ると意外と熱いからつい中も熱いんじゃないかなと思ってしまうが、そんなことはなく、中はぎんぎんに冷たい。

それはまるで見かけは温厚そうな優しいほんわか男子だが、実は簡単に中身を見せてくれない冷めた心を隠し持っている彼みたいだ。

きっと誰もおれのことなんかわかるはずがないとどこかで思っているのだ。

本当はわかってほしいくせに。

そのはざ間で揺れて揺れて揺れている彼が私は好きなのである。

なんとなくそういうところが昔の私に似ているからそんな彼のそばが心地よいのだ。


 私はもたれた体を起こししゃがんだままゆっくり冷蔵庫を開けた。

そこには私の大好きなものがたくさん放り込まれている。

納豆、ポン酢、カフェオレ、鶏肉、練乳、ちゃんぽん麺、キムチ鍋の素、メープルシロップ・・・

われながらなんとも雑多にいれてあるもんだ。

その時にふと思った。

もしかして彼の中もこんな感じなのだろうか・・・。

私が今まで彼に伝えてきた言葉がこの冷蔵庫のように雑多に詰まっているのだろうか。

もしそうだったら、彼の中からそのひとつひとつを取り出して私のものだと油性のマジックで名前を書いていこう。

そしてまた新しい私の大好きなものも次々と入れていこう。

いつか私のものでこの冷蔵庫がいっぱいになるまでやり続けてみよう。


私はかばんから筆箱を取り出し、最近買ったばかりの油性マジックで

冷蔵庫からお母さんが毎年漬ける梅酒のびんにでかでかと名前を書き

氷の入ったコップにゆっくりいれ、もたれかかっている冷蔵庫を彼だと思い

ちびちび飲んだくれた私。


あれから半年・・・。


今はファンヒーターの前で

冷蔵庫からなんでも入れたら温かくしてくれるレンジに昇格した彼にもたれながらホット梅酒を飲んでいる私たちである・・・。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ