座敷わらしは異世界で夢をみる イ
ドナドナ。
これが有名なドナドナ何だね。
今、森の中の屋敷からドナドナされていたりします。
座敷わらし改めミィニア二号です。
「ニアちゃんは、大人しいわね」
それはそうでしょう。こんな状態で騒げる人がいたら、ソイツは馬鹿ですね。
え、お前、座敷わらしだろうって、今は人ですが何か?
「ふふふ、お母様。ミィニアは何時もは五月蝿いくらいに騒がしいですのよ」
「そうなの?」
「それにお転婆です」
「お転婆、ふふふ、そういえば屋根から落ちてきましたものね」
いえ妖怪に、とってあの程度の高さ何でもないのですがね。
「ところで屋敷に戻りましたら、どういたしましょう。奥様、お嬢様」
母娘の会話に、静かに伺いをたてる泣き虫メイドさん。
あの森の屋敷に来る度に、泣いていたとは思えない落ち着きぶりです。
「そうね、先ずは養子縁組の登録をしないといけないね」
養子縁組するとこのフェルエナのパパさんは、わたしのパパさんにもなるのですが、ハッキリ言わせてもらえば、わたしの方が数百年年上です!!
ふむ。
言わないけどね。言えないし。
「その後は、ドレスやアクセサリーを見に行きましょうよ」
「それは良いですわね」
「それから学園の登録かしら」
「ミィニアにはいい友人が出来るといいのだけれど、そう言えばミィニアは何歳なのかしら?」
数百歳です。
何て言えないよね。
わたし、この世界で何歳くらいに見えるんだろうね。日本妖怪だしね。
五、六歳?
「七さい」
「まぁ!それではちょうど学園への入学年齢ね!!入学の為の試験勉強もしないといけないわ」
はへ?
試験ですか、わたし妖怪座敷わらし何ですけれども?!
某妖怪の歌にもあるように、試験何て関係ないハズなのですが?
「お母様、ミィニアはとても優秀ですわ。別荘にあった本を見せたところ普通に読んでいましたもの、文字も問題なく書けますしね」
実年齢数百歳ですので異世界の言葉遣い如きなんの問題もありませんね。
「そうなの?!驚いたわ、こんなに小さいのに、読み書きが出来るなんて、そう言えば着ている服はとても良い生地を使っているわね。デザインはアジグジ大陸の更に東の物に似ているけれど」
「流石ですわ。お母様。私は生地はとても良い物だとは思っていましたが、まさかアジグジ大陸とは思いませんでしたもの」
座敷わらしなので、当然、着物です。
それも前の家で贈られた一番いい着物を来て家を出ましたからね。
全てシルク。
それも特に高級品で、デザインも白地に赤い金魚が二匹水面を泳いでいます。
帯はオレンジで、金魚結び。
足元の草鞋だって、無農薬の藁で編んだ現代日本ではお目にかかれない。立派な草鞋ですもの。
「もしかしてニアちゃんは良い所のお嬢さんなのかしら、ねぇ、ニアちゃん。貴方のお家の事分かる?」
はい、座敷わらしです。
言えるかぁぁぁ!!
「わかんない」
「そう」
うきゃ。
何故か抱きしめられました!?
「お母様、ズルイですわ」
今度は、フェルエナに抱きしめられました。
もしかして、これって『安心して私は貴方の味方よ。大丈夫よ』の抱擁なのかな?
はぁ、もう好きにしてください。
「旦那様、羨ましいのは分かりますが、お顔が崩れておりますわ」
泣き虫メイドさん、なかなか辛辣ですね。
「以前、ココで休憩した時は消えてしまいたかったわ、でも今はとても良い気分ね」
と、いう事で、只今、道沿いの泉で休息中です。
皆さん、来る時は少しでも早くフェルエナに会いたかったようで、かなりの強行軍で馬車を走らせたらしいです。ですので、帰りはゆっくりなんだってさ。
「はぁ、どうしてこんな事に」
馬さんに愚痴ってみますが、無視されました。
やはり、馬の耳に念仏ですね。
くっそ〜。
「ミィニア、コチラにいらっしゃい」
呼ばれたのでフェルエナの方に向かおうとした時です。
悲鳴が上がりました。
見れば肌が緑色をした一見子鬼に似た。ゴブリンとか呼ばれている魔物が、数頭姿を現していました。
ゴブリンは群れで獲物を狩ります。
知能は低く、棍棒等の武器は使えますが魔法は使えません。
個々の意思疎通は猿よりも弱いくせに、体力と腕力が高いため危険な魔物でもあります。
日本のゲームだとザコなんだけれどね。
それにしても、どうして魔物って奴は存在感が大きいのかね。
何だかイラて来るよね。
妖怪なんて、日本で現実では存在感をなくしているから姿を消す者さえいるというのにさ。
ガギガギと話す事も出来ないのに、人間に恐れられるなんて羨ましい。妖怪なんて、話す事が出来るのに今やマスコットキャラクターだったりするし。
化け狸など落ち込んでいますよ。
イラて来るから潰すことにした。
八つ当たりとも言います。
「妖術、カマイタチ!!」
護衛の兵士達が動く前に、風の刃がゴブリン達を襲う。
「凄い、ミィニア。貴方、魔法が使えるのね」
いえ、妖術です。
昔、妖怪カマイタチに、花札のカケで勝って教えてもらいました。
「ミィニアお嬢様、コチラに」
兵士さんに呼ばれますが、無視します。
「妖術、雪嵐!!」
カマイタチで弱ったゴブリンに、雪と風が襲いかかる。
「凍っちゃえ!!」
雪女に教えてもらいました、吹雪の妖術です。
花札で勝って教えてもらいました。
「凄い、凍らせてしまうなんて」
周囲を巻き込み、一帯を護衛のごと氷漬けにしてやりました。
妖怪舐めんなよです。
「きゃぁぁぁ」
再び響く悲鳴。
「フェルお姉ちゃん!?」
ゴブリンはコチラだけでなく、フェルエナたちの方にも現れました。
「風よ!」
フェルエナが風の刃でゴブリンを牽制、兵士さん達が急いで間にはいります。
は!?
不意に背中に気配を感じ振り向こうとしましたが、一瞬早く大きな棍棒が振り下ろされました。
「ミィニア!!」
フェルエナの悲鳴が響きます。
「ゲガ?」
ですがそこに合ったのは、着物を身につけた丸太です。
妖術、空蝉の術。
え、忍術だろうて?
忍術も妖術も同じ様なモノです。
細かい事気にしすぎるのは、ストレスの元ですよ。
「着物が汚れたでは無いですか!!忍術、分身の術」
つい口が、まぁ、気にしてはいけません。
「ニアちゃんが二人!?」
「魔法なの?」
ですから、妖術です。
「妖術、十人囃子!!」
二人から十人に数を増やします。
忍術系は天狗さんから、花札のカケで勝って教えてもらいました。
皆さん、座敷わらしに幸運で勝てる思っているのでしょうか?
不正ではありませんよ。
あくまでも座敷わらし特有の幸運です。
後ろに現れたゴブリンは、他よりも一回り大きいですね。
ホブ・ゴブリンとか呼ばれる奴でしょうか?
目の前獲物が突然十人に増えて驚いています。
「妖術、畳返し土遁バージョン」
地面が畳の様に長方形でまくり上がり、次々に、十人分の土の畳が、ホブ・ゴブリンに覆いかぶさっていき埋めてしまいます。
それを見て、フェルエナたちの方に現れたゴブリンたちは逃げ出しました。
どうもコイツがボスだったようですね。
ふむ。
勝ちました。
ゴブリン如きが、齢数百年の妖怪に勝てるとか思うなよです。
「ミィニア」
「フェルお姉ちゃん大丈夫だった?」
パン!!
近づいて来たフェルエナに頬を叩かれました。
え、えぇ?
「心配させないで」
その後は抱きしめられます。
誰が、こんな使い古された展開を想像しますか?
叩かれれ、心配されて、抱きしめられる何て。
よく見れば、皆さん怒っていますが心配の上での怒りだとわかります。
え〜と。
どうしましょう?
『ゴメンナサイだよ』
不意に響いたのは、ミィニアの声。
「ご、ごめんなさい」
言葉にすると、とても大きな罪悪感が襲って来ました。
こんなに心配されているなんて、考えても見ませんでした。
妖怪、座敷わらしとしてではありませんが、わたしは確実にフェルエナたちにその存在を求められている様です。
「はへ」
涙が溢れ落ちます。
わたしは数百年泣いた記憶はありません。
だから、誰か涙の止め方教えてください。