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あの日の、シャングリラ。  作者: 溝上翔
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ポーラー・スター


しばらくして僕も鶴淵橋を後にして、帰路につく。公民館の横の坂道を登れば、そこが僕の家だ。玄関を開けようとするが、開かない。どうやら外出したようだ。いつもなら鍵が手袋の中に入っているのだが、その中にもない。しばらく鍵を探してみたが、見当たらないので、僕は公民館の駐車場で時間をつぶすことにした。駐車場の車止めに腰かけると僕は、図書館から借りてきた漢文学の本を取り出して読み始めた。だが、数ページ読んだところで僕は、伸子さんのことが気になって読めなくなった。そうして物思いにふけっているうちに、いつの間にか・・・・・、気を失っていた。



「ああ、大丈夫だった。よかった。」

気が付けば、近所のおじさん達が僕を囲んでいた。どうやら、気を失った僕を見つけるや否や、熱中症で倒れているのではないかと心配で駆け付けたようだった。


「君、大丈夫か?何をしてた?」

「家の鍵を持っていないので、ここでしばらく本を読んでいたら、気が付いたら寝ていまして。」

「そうだったのか。まあ、中に入りなさい。」

僕は高崎さんという、そのおじさんに連れられて公民館に入った。

公民館には高村さんをはじめ、おじさんとおばさんが5人いた。どうやら、1週間後の夏祭りの準備をしていたらしい。


「で、君の名前は?」高村さんが僕に尋ねる。

「城戸橋研です。」

「城戸橋さんってもしかして坂の上の、千代高校の?」福間さんというおばさんが聞く。

「そうです。」

「そうか、君は千代高校か。優秀だね。ところで、君は何の本を読んでいたんだい?」高村さんが尋ねる。

「漢文学の本です。」

「また難しそうな本だな・・・・。」

「さすが千代高生ね。」

「いえいえ・・・・・。」

「ところで、君は彼女はいるの?」

「いえ、まだ・・・・。」

「なんだ、いないのか。まあ、そのうちできるよ。」

「そうですかね。」

「君は気付いていないかもしれないが、なかなか整った顔立ちをしている。そうだな、メガネだな、邪魔なのは。君はコンタクトにしたほうが良い。そうすれば、彼女の一人や二人、なんてことはないよ。」

「だといいのですが・・・・。」


しばらくして、母親と連絡がつき、帰宅することとなった。

僕は帰宅するや否や、自分の部屋に向った。

僕の部屋には、ただ真っ白い模造紙が貼ってある。

小学校に入学した時に父親が貼ったものだ。父親は普段厳しいことは何も言わないのに、この模造紙に関しては、「何も書くな」と厳命した。

おそらく、想像力を養うためとかそういう意図なのだろう。

気が付けば、僕は帰宅するたびに模造紙に向ってぼーっと何かを考えるようになった。あるときにはそれは地図になるし、ある時はグラビアアイドルのポスターになる。で、今日はというと、言わずもがなである。どうして伸子さんは、転校する前の日に、僕にあんなことをしたのだろう。しかも彼氏がいながら。からかったのかな。そんなことを考えながらも、明日の予習をしなければ思い立ち、英語の夏期講習用テキストをカバンから出す。「ポーラースター」という名前のそのテキストは、基礎固めには最適だ。しかし、今となっては僕にとってのポーラー・スターとなってしまった伸子さんは、今頃大分に向っているのだろう。僕の頭はやっぱり伸子さんから離れられなかった。その日、僕は生まれて初めて徹夜をした。


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