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ロリコン勇者の再就職  作者: 音無 奏
旅立ち編
3/40

贈与能力

 俺の真剣な態度もあってか、応接室は張り詰めた静寂を保っていた。

 フィリアの瞳は何処までも凛としていて、ただこちらを見つめ返してきていた。

 皆が、俺が口を開くのを待っていて、俺は促されるように、沈黙を破った。


「フィリア様――」

 

 重低音の声が響く。

 それは少し繕った声だ。

 横では忍が息を飲む。

 それを合図に俺は続ける。


「――妹はいらっしゃいますか!?」


 てきぱきと質問に応答していたフィリアが初めて口を噤んだ。

 それは困惑してのことだろう。

 そして――


「ええ、下に七歳になる妹が」


 と答えた。

 そんなハープのような音色の声が、俺の頭の中でループ再生される。


「ぜ、是非ともご紹介を! 出来ればお知り合いに、いやもっと深いあいだがぶべしっっ!」

 最後まで俺は言葉を言わせて貰えなかった。

 輪廻先輩が俺の髪を鷲掴みにして、テーブルへと叩き付けたからだ。


「病気の発症は禁止やで、陣君」


「ひどいです先輩……先輩だって姫様口説いてたじゃないですか…………」

 ずきずきと痛むデコを抑えながら文句を言ってやる。


「それはそれ、これはこれや」

 白々しく言う輪廻先輩。

 クソ、これだから権力者は。


「それに、うちかて真面目に質問してたやろ? 空気合わせぇーや、ロリコン」


「だが、ことわ――」

「言わせ、へん!」


「んぎゅああああああああっ!」


 俺の後頭部に追撃が入る。頭骨がピシリと音を奏でた。相変わらず容赦ない。

 そして、姫様達が若干引いていた。

 まあ、無理もない。内輪ノリはあくまで内にしか通用しないのだから。


「もう、真面目にやろーよ」

 と忍が文句を言ってきた。

 うむ、もう緊張は解けた様だ。決して狙ってはいなかったが、結果オーライ。


「そうは言うが忍、これは定番だろう。魔王討伐とか悪役退治を申し付けられた主人公がお姫様を后に迎えるとか――ほら、お前も読んだことがあるだろうが、そういう漫画」

 そう、何気なく俺が言うと、


「「絶対駄目ですっ!」」

 

 険しい否定の声が重なって響いた。

 誰と誰か。

 一人は忍で、もう一人はフィリアだった。

 別に本気で言ったつもりはなかったのだが。しかしながら、俺の眼前では温厚だったはずのフィリアが拳を握り締めて、般若のような怒気を放っていた。


「何が后ですかっ! 寝言は寝てから言いなさいっ! 認めません! お姉ちゃんは絶対に認めませんから! 大体ユーリカはまだ七歳ですよ! 王族とはいえ、あなたのような小児性愛者の変態に嫁がせるなど私が認めませんっ! あの子は可愛いんです、天使なんです、いつもいつも、お姉ちゃん大好きって言ってくれて、それはもう私の最愛の妹なんですから、誰にも渡しません! 結婚なんてぜーーーったいに許しませんからね!」


 

 冗談で言ったつもりが、こうも本気にされるとこっちが反応に困る。

 今まで取り繕っていた、完璧な王族、という鍍金はいとも容易く剥がれていった。だけれど、声を荒げ、必死に訴えるフィリアの姿に俺は初めて人間らしさを感じるのだった。

 

 それと、妹さんは七歳で、名前はユーリカか、脳内フォルダにメモしておこう。

 まあ、それはそうと、言いたいことは色々あるが取り合えず、一呼吸。

 

 そして、


「シスコン乙w」

 

 とだけ言っておく。


「――――はっ! ……えー、こほん。質問はもう、よろしいでしょうか? 出来れば皆様の能力やこの国のことなどなど、説明したいことがありますので」

 今さら取り繕っても、もう遅い。

 きっとこの先も俺はお前を変態どうぞくとしてしか見ないことだろう。


「な、なんでしょうか、その目は……」


「いや~、別に~。まあ、聞きたいことは山ほどある、でも説明してくれそうだから話したいことを話して下さい」

 フィリアはもう一度咳払いをすると、


「では、まず皆様に宿った能力の鑑定からいたしましょう。それが、魔王さえも倒せる可能性を秘めているこの世界からの贈り物なのです」


 あれを――

 と、フィリアがいうと、前もって準備していたであろうメイドが豪奢な箱にしまわれた、四枚の透明な板を差し出した。同時に、小さな針が差し出される。


「写し鏡の板と呼ばれる道具です。血を一滴垂らすことで、持ち主の登録ができ、その者が持つ能力スキルを示します。皆様は召喚されると同時に、この世界の力を贈与能力ギフトスキルとして一つ与えられています」

 

 俺はフィリアの指示に従って、指先をちょんと針に近づけて、滲んだ血を映し鏡の板に垂らした。

 垂れた血が板に触れた瞬間。

 どくん、と心臓が一度はね、何かが一体化したような錯覚を感じた。

 

 透明だった板を見れば、ほんのりと淡い光を放っていた。

 そして、その光はやがて形を変化させ、文字を刻んでいった。

 それは多分俺の直感でしかないのだが、この文字は俺にしか見えていない。何故だかそう思うことが出来た。


『 木崎きざき じん


  贈与能力ギフトスキル 魔力の泉 』 

  

 そこには、そう記されていた。

 それを認識した、瞬間。変化は、唐突に訪れた。   

 胸のうちに眠る力の片鱗。

 それを意識した途端、熱く激しい、それでいて柔らかい光の奔流が体内のありとあらゆる場所を駆け巡っていったのが分かる。



    魔力の泉 


 ――第一能力解放――

 

 所有者に膨大な魔力を与える。

 

 それがこの能力の本質だと、俺は知った。

 それはまさしく、世界そのものの力の一端だろう。溢れんばかりに零れゆく生命の鼓動が、魂の奥底でゆったりと律動を刻んでいる。


「皆様が、勇者としての力を得られたようで、大変喜ばしいことです」

 その声に引かれて意識を浮上させ辺りを見渡せば、皆一様に変化があったようだ。

 忍など、まだわちゃわちゃと混乱しているようだし。

 かくいう俺も、突如体の中で起こった変化にうろたえていた。

 

「おもろいなー、これが俗に言うチートかいなー、勇者ちゅう大仰な呼称もあながち間違っとらんのかもしれんわ」

 

「全く持って同感です」

 輪廻先輩の言葉に、俺はそれだけしか言えなかった。


「はわわ、はわわ、えっと、うん、凄いね天君」


「は、はいっ! なんか、よく分かんないけど、ぶわーって感じです、姫宮先輩!」


 ひとしきり感慨に浸っていた俺達にフィリアが言う。


「皆様の力は強大ですが、まだまだ得たばかりですので、その能力の全てを扱うことは出来ないでしょう。しばらくの間は王城にて、その力の使い方を学び、訓練に励んで欲しいと思います。そうすればいつかは、皆様の先輩である爆炎の勇者や、嵐帝と並ぶほどの力を発揮できるようになることでしょう」

 そういえば、俺達よりも先にこの世界に召喚された人物がいるんだった。

 爆炎に嵐帝、ね。

 何という中学二年生。

 いや、まあ気持ちは分かるが。


 その後俺達は、フィリアからこの国の状況や、周辺国――北の魔界、西の天帝国、南の統一神聖国、東の和国、それぞれの特徴や、物価、支給されるものなどの話を聞いて、晩餐会まで解散となった。

 

 俺は立ち去ろうとするフィリアに、最後にふざけていて聞いていなかったことを、尋ねることにした。


「なあ姫様、魔王ってのはどうしても、討伐しなければならない存在なのか?」

 そんな俺の質問に、フィリアは冷徹に言った。

 それは酷く物憂げで、それでも感傷を表には出さないように努めていたのだろう。


「魔界との国境、いえ、かつての国境であった砦カディル、並びに周辺の村々に住む人々は、新参の魔王に、一切の交渉の余地なく、皆殺しにされました。私にはそれだけしか言えません」

 

「…………そっか」

 

 フィリアは今度こそ部屋から立ち去って、ぱたりと閉じた扉の音が、何故だか辺りを冷たくした。 


まったり不定期更新です。

よろしければお付き合い下さい。

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