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3話 LINEOVER

 颯太の意識がゆっくり覚醒する。

 周りを見渡すと、目の前に広がる光景は颯太の予想を大きく裏切っていた。先ほどの颯太を襲った轟音と激しい振動から、少なからず周囲の変化は覚悟していた。


 しかし、教室は少なくとも目に見える範疇では違いを見つけるほうが難しい。数分前から何も変わらない教室だった。当然、颯太自信も傷や痛みも何もなく、これもまた先ほどから何も変わっていない。


 まるで、狐につままれたようだった。


 よくテレビの特番などでやる大掛かりな手品が目の前で繰り広げられたら、きっと今みたいな気持ちを味わうことができるのだろう。

 そして、この感覚はつい最近も感じたことがある。一瞬、何日か前の夜の公園での光景が浮かぶ。

そういえば、あの時のタケルのやったことって、本当に手品だったのだろう

か・・・

 

 などと考えていると、勢いよく近づいてくるひとつの気配。強引に意識が現

実に引き戻される。

 

 「話をしてもいいか?」

 放たれた声は、声という皮をかぶっているだけで、それは鋭く研ぎ澄まされた剣のようだった。

 しん、と静まり返った教室に放たれたそれは凛と響き渡り、自然と周囲の目を集めていた。


 威風堂々という言葉が一番しっくりくる声の主は、もともとこの教室にいたうちの一人だ。彼女の放つ異質な物々しい空気は、先ほどの閃光が起こる前から颯太の意識を向けさせていた。まるで男のような言葉遣いもこの少女が扱えば違和感がない。


 『まるで戦場に身を置く戦士のような雰囲気』そのままに、彼女はさらに言葉を重ねる。


 「今、力を使ったのはお前達だな」

 はっきりと言い切るが、その言葉の意味がまるで颯太には解らなかった。

 彼女の言う『おまえたち』の中には颯太も含まれているのだろうか?つかみどころのない言葉は颯太の不安を育てていた。


 「おいおい、命の恩人にずいぶんなたいどだな」

 彼女の問いに答える声。それは颯太のすぐ横から発せられた物だった。滝越来徒。先ほど知り合ったばかりの声の主のこえはなぜか自信に満ちていて、目の前の少女の気迫にもまったく臆していない。


 「力の中身を教えてほしい」彼女は来徒の態度などお構いなしに中指と薬指をトンと颯太の机に置いて詰め寄る。しかし、当の本人は歪めた口元を崩すことなく、彼女の勢いを悠然と受け止めていた。自然と空気が張り詰めていくのを感じる。


 「自分が何者かも言えないようなやつに簡単に教えると思うか?」

 「彼の能力は予知能力のようなものよ」

 来徒の声とほぼ同時に発せられたもうひとつの声。その声によって彼の態度は一瞬で崩れてしまうのだった。


 「て、てめえ!いきなりばらしてどうするんだよ!こういうのはイザッて時に

かっこよく言うもんだろ!!」

 「なにがイザよ。そんな余裕ぶっているときじゃないでしょ」

 ため息混じりに答えたのは、颯太のすぐ後ろの席に座っていた霧崎雛乃だった。彼女は来とを軽くいなすとすぐに目の前の少女に体を向ける。

 「私のほうは防御空間を作り出すようなものて言っておくわ」

 雛乃の表情から緊張がはっきり見える。それが目の前の少女にたいしてなのか、今のこの状況に対してなのかはわからないが。

 「なるほど。そのままだな」

 「なに?そのまま?」

 「なんでもない。それよりも答えてくれて、ありがとう。私の名前は神護サクアだ。たしかに最初に名乗るべきだったな、すまない」サクアと名乗った少女

は素直に頭を下げる。


 それが合図にとなり颯太たちも思い出したかのように、順番に名乗っていった。来徒も面白くなさげではあったが素直にしたがった。


 一区切りついたところでサクアは次の言葉を重ねる。「それで、先ほどの閃光のことだが・・・」

 「あの閃光が何なのかは正直わからないわ。単純に攻撃と思っていいのかもしれない。ただ、悪意がこめられているか、私たちに向けられたものかどうかは核心がもてないの」雛乃はあごに手を当て探り探りといった感じに言葉をつむいでいく。「無差別ってことか。規模も気になるな」

 「確証はないけど、閃光の勢いからして少なくともこの学園すっぽり筒む位はあると思う」


お互いが慎重に言葉を選んでいるのが解る。どうやら今の状況がよくつかめていないという点ではここにいる誰もが同じらしい。ただ、その前の基礎知識の段階で颯太とここにいる人たちには大分隔たりがあるようだ。すっかり置いてきぼりをくい、すでに追いかける気力もなくすほど、理解のできない言葉が頭上を飛び交っていた。


それでも気力を振り絞りどうしても気になることを問いかける。

 「攻撃?一体何のこと?」

 おそらくは先ほどの閃光のことを言っているのはなんとなく解るが、『攻撃』

と呼ばれるものだといわれるといまいちピンとこなかった。それが攻撃というのなら、なにかしらの変化があるべきではないのか。そういった類の物は今のところ見つけられない。


 そんな颯太の問いにサリアはすぐに答えを返す。まるで、こんなことに割く時間ももったいないとでも言いたげに。

 「廊下を見てみろ」

 あきれるほどに簡単な答えだった。しかし、それがすべてを理解する一番の答

えだということを颯太はすぐに理解する。

 

 窓から見える廊下はその姿を大きく変えていた。壁はまるでペンキでもぶちまけられたかのように漆黒に染まっていた。向かいに見える別の教室は窓はすべて破壊され見る影もなくなっており、そこから見える教室の中もまた漆黒に染め上げられた空間。そこにあったであろうあらゆる物はすべて炭と化しかろうじて形のみを残すのみとなっていた。


 目の前の光景は少し前に颯太が実際に通り、目にした場所である。長く続く廊下の先もすべて同じように焼け果てている。


 むしろこの教室のほうが異常な状態と思えてしまう。

 あまりの光景に茫然自失となっている颯太にお構いなしに背後から投げかけられるサクアの声。


 「雛乃には感謝するんだな。彼女がいなければこの教室もそちら側のように灰になっていた

だろうから」

 「ヒナだけじゃないだろ!俺をわすれるな!」

 すぐさま来徒がサクアに食って掛かる。

 「俺が危険をすべて予知してやったからみんなが助かったの!ヒナは俺の予知がなかったら何もできなかったんだからな!」

 間髪を入れず、雛乃の心底あきれたと言いたげな深いため息。そんなことにもお構いなしに来徒の勢いはますます加速する。

 「だから、感謝されるのは俺。というか、メインが俺で、サブにヒナだろ、むしろ」


 「予知?たしかに予知ではあるが、はっきり見えるのはほんの数秒程度ではないのか?時間に比例して映像は段々とぼんやりと、あいまいになっていくようだな」

 まるで答えを最初から知っていて、確認のためとりあえず答えあわせをした、といった感じで言葉を投げたのはサクア。

 

 一瞬生まれる間。みるみる表情が驚愕に支配されるのは雛乃と来徒だった。

 「お、おまえ、それをどこで・・・!!」来徒からは先ほどまでの、稚拙さが強調された勢いがすっかり消えていた。変わりに顔を出したのは、追い詰められた時に見せる張り詰めた緊張感。


 それは雛乃も同じだった。サクアは、今度はそんな彼女のほうに目を向ける。

 「お前の防御空間はたしかに精度は高い。ただ、生成までに時間がかかるようだな。この教室全体に張るのに30分はかかっているのだろう。

 なるほど、事前に情報が必要という事においては、来徒の力が不可欠というのも、あながち間違いではない、というわけか」


 再び沈黙が支配する。雛乃の表情を見ればサクアの言っている言葉が核心を突く『何か』を言い当てているという事が見て取れた。


 すっかり血の気が引いた表情の雛乃がかろうじて言葉をつむぐ。

 「す、すごいわね、見事に私たちのことを言い当ててるわ。それは貴方の力によるものなの?」

 「うむ、それは・・・っ!」サクアの言葉は途上で中断された。

 

 突然生まれた不自然な静寂。 背後から明らかな空気の変化を感じ、颯太はゆっくりと振り返った。そして、まず聞こえてきたのは雛乃の悲鳴のような呼び声だった。


 「来徒!」


 いつのまにかに来徒の姿は席から消えていた。視線を少しずらすと、彼はサクアに対面するように立っていた。一目で状況の異常さを理解する。来徒の手には刃渡り10cmはあるであろうナイフが握られていて、その先端はサクアの喉元に突きつけられていた。

 

 来徒は凶暴を全身に貼り付け歯を剝き出してありったけの殺意を目の前にむ

向けていた。

 「お前がどんな力かなんて知ったことじゃあないがなあ、もしお前が俺たちと同じならわかるだろ?俺たちラインオーバーにとって力を丸裸にさらされるという事が何を意味するかがよ!」

 まるで来徒の言葉は颯太にとって意味不明だったが、ただ、ラインオーバーという言葉だけはなぜか引っかかるのだった。



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