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10話 結成!即席チーム


 「じゃあ、颯太君のことも後回しね」

 「……ごめん」よく考えれば颯太が謝る必要はまったくないのだが、条件反射のようなも

のだった。


 「でも、考えてみればおかしいですねえ、ではなぜ、颯太さんはこの学園に入る

ことができたのでしょうか」

 「理由は必ずある。それが何かはわからないがな。もっとも、ちからを自覚しな

いまま入学する生徒は毎年いるらしい。しかもその数は少なくないと聞く」

 「なるほど、颯太さんが特別というわけではないのですね」

 久来とサクアのやり取りは颯太をますます混乱させるものだった。久来の言い方

だとこの学園にとって、むしろちからのない颯太が異端らしい。本来なら颯太はこ

の学園にいるべきではないということなのか。まさかこの教室がそうであるよう

に、学園に通う生徒全員がラインオーバーと呼ばれる能力を使えるとでもいうの

か。


 疑問は解決されるどころか、ますます深みにはまってしまっている気がした。。

 

 「さて、と。一応これで全員ね」

  皆の話が一区切りしたところで、雛乃が一人ひとりの顔を確認しながら言う。


 「ふむ、思ってたよりバランスはいいな」

 「バランス? バランスって能力のってこと?」

 「そうだ。なにせこれから共に行動するわけだからな。能力の相性は重要だ」

 もしここに集まっている生徒達が偶然によって集められたメンバーだとしても、

こうして同じ空間にいる以上は協力は不可欠なものなのだろう。サクアの『共に行

動する』という言い方に異論を求めるものはいなかった。暗黙の了解で皆協力を受

け入れているということだろう。


 「つまりチームとして行動するということか。確かに今はそれしか選択肢はなさ

そうね」

 「チームということはリーダーを決めないといけませんね」

 久来の言葉は心なしか先ほどよりも明るく聞こえる。チームというただの言葉だ

けで、不思議と心強く颯太に響く。それはここにいる皆も同じようだ。教室を包む

雰囲気がいくらか軽くなっているように思えた。


 久来のリーダーを決めるという提案は本来だったら揉める要因となる提案だが、

このメンバー構成においてはその心配はいらないようだ。

 申し合わせたように視線が一点に集まる。


 「皆考えてることは一緒のようね」

 今、このときまでで誰が主導権を握り、中心にいたかを考えれば答えはすぐに出

た。

 同級生たちを代表するように雛乃が言う。


 「サクアさん、ここはあなたにリーダーをお願いしたいわ。わたしはこの状況を

乗り切るのに最も重要なことって『情報』だと思うの。そして情報に関する部分で

今一番頼りになるのはあなたしかいないわ。私たちのちからをうまく導いてくこと

ができるのは他にいないと思うの」

 ラインオーバーに関しての知識量、情報を掴むちから、だけではなくて彼女は自

分たちと同級生にも関わらず、すでに貫禄のようなものを持っている。それは外見

に頼る部分ではなく、真直な意思や言葉など内面的な部分できく占められている。

 そこが彼女の持つ強さなのだろう。男としては非常に情けない話だが、この能力

者で構成されたメンバーを引っ張るのは、やはり彼女が適任なんだと颯太は思っ

た。


 「私もサクアさんがいいと思いますわ」

 久来をはじめ、後ろのほうで吉竹もゆっくりと頷いている。彼も賛成らしい。体

こそ見上げるほどの巨体だが、存在感が異常に薄い。この巨体を持ってこの存在感

の薄さはある意味奇跡ではないのか。

 皆の注目を集めているサクアはいたっていつもの調子だ。

 「わかった。では、リーダーは私が引き受けよう」

 まるで、それが当然だと言うようにすんなり彼女はリーダーを引き受けた。普通

はこういう場合は一度は断ったりするものなのだが、彼女感覚は颯太には理解でき

ないが、サクアらしいといえばサクアらしかった。


 とにかく、ここに即席能力者チーム+αが誕生したのだった。

ちなみに+αの部分はちからのない颯太を指している。

 

 「では、チームとしてまずは何をしましょうか、リーダー」

 なぜか久来は目をキラキラさせてサクアを見ている。

 「ふむ、さすがにリーダーは少し照れくさいな。今までどおりサクアでたのむ」

 「そうですかあ、リーダーて響き、かっこいいのに」

 そして、なぜかとても残念そうな表情を浮かべるのだった。

 「呼び方とかどうでもいいから。もう、なんか調子が狂うわね」

 雛乃は腰に手を当て、ため息交じりに言う。


 「では、改めて提案させてもらおう。私は学園の探索を行いたい」

 「ええと、探索ってやっぱり、この教室を出てってことだよね……」

 「ああ、学園がどういう状況かここにいても一向に解らないからな」

 「やっぱりそういう流れになるのね」

 心なしか諦めにも似た表情を雛乃は浮かべる。しかし、一瞬のことだったので颯

太は特に気に留めなかった。それよりもサクアの提案のほうが今は大事だ。


 「ちょっと待ってよ、それってすごく危険じゃないの? またさっきみたいな閃

光だってくるかもしれないんだよ。ここから出たら雛乃さんの結界のちからも

届かないじゃないか」

 「その点は大丈夫だ。まず、来徒のちからを借りているから危険は察知できる。

今のところ閃光の心配はないようだ」どうやら気絶していてもちからは借りること

ができるらしい。それでも教室の外の退廃した廊下を見れば、外へ出ることはどう

しても躊躇ってしまう。


 「外へ出る必要は本当にあるの?この教室にいれば私の領域内だし、来徒のちか

らが使えるなら危険の察知もできるわ。時間が経てばきっと助けが来る。このまま

教室にいても何の問題もないはずよ」

 「確かに雛乃さんの言うとおりだな。ここにいればとりあえずは安全かもしれな

い。しかし、100%ではない。それは外に出ても同じことだ確かに危険かもしれ

ないがそれも100%ではない」

 サクアの強固で真っ直ぐな視線は雛乃を射る。しかし、今回は彼女も負けてはい

なかった。

 「外への探索はあなたの個人的な目的によるものじゃないの? あなたはオーバ

ーラインに強い関心を持っている。だからさっきの閃光の元凶を突き止めたいだけ

じゃないの」

 「……それは否定しない。しかしそれだけではない。ここに留まることは現状を

維持することはできても、打開はできない。どちらも同じように危険はついてく

る。ならば私は前進するほうを選びたい」

 「危険はまったく同じじゃないでしょ。100%じゃなくても二つの方法の危険

度は大きく違うわ。わかってるでしょ?当然ここから出たほうが危険に決まってる

じゃない。リーダーならまずは皆の身の安全を考えるべきじゃないの」

 二人の視線が真っ向から衝突している。バチバチというお互いのぶつかり合う音

が聞こえてきそうなほどだ。


 「あ、あのう」二人の間に割って入るような一つの声。その持ち主は久来だ。

 「私的にはリーダーの支持に従いたいですわ。だってせっかくみんなで決めたリ

ーダーじゃないですか」

 どうも論点がずれている気がしないでもないが彼女ははっきりとサクアの意見に

賛同していた。


 「おれも……リーダーに賛成、したい……」

 驚いたことに珍しく吉竹が自分から口を開き、しかも自分の意思を口にしてい

た。

 この時点で3対2.民主主義の方法をとるなら問答無用にサクアたちの意見が採

用される。颯太は雛乃を見る。彼女は目を閉じゆっくりと息を吸い込んでいた。冷

静さを取り戻そうとしているのだ。颯太は思わずサクアに向かって声をあげてい

た。

 「サクアさん、信じていいんだね」


 「ああ、約束する。皆の安全は必ず確保する。私はチームを守る、絶対にだ」

 その発言はすっかりリーダーとしての言葉となっていた。


 

 

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