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ゼロマギ  作者: ガネネ
1/1

恐怖(?)の先生(母親)

「それでは皆さん、これよりHRを始めます」

そう言ったのは、おそらく流矢のクラスの担任の先生であろう一人の女性。フワフワな金髪で瞳は鮮やかなサファイアブルー。少し高めの身長に細い体。いわゆる西洋美人といった感じのその女性は、生徒会長の絵里香とは比べ物にならないぐらいの絶大なオーラを放っていた。クラスの誰もがその美しさに見とれていた。一人を除けば・・・・・、

「んっ?ビオ、どうかしたのか?なんか震えているけど・・・・・」

すぐ後ろのため、流矢はビオの変化にいち早く気づいたため、ビオに話し掛けてみる。しかし、体が小刻みに震えさせているビオは何の反応もせず、「さ、最悪だ・・・・。何でよりにもよってあの人が・・・・・・」と、ただブツブツと呟いているいるだけだった。

「なんだお前。あの人の事知ってんのか?すみにおけんな」と、言おうとしたが言えなかった。ビオの顔が異常な程に青ざめていたのだ。

(な、何があったんだ・・・・・?)

ビオのあまりの変わり様に流矢は、得体の知れない恐怖を覚える。そんな流矢達に、教卓の前に立つ女性は少しも気付かず自己紹介を始めようとしていた。

「私が今日から1年、皆さんの担任を受け持つことになりました、ルミナ・サクティスです。よろしくお願いします」

ルミナと名乗ったその女性はまた、ニコリと微笑む。

(・・・・ん?サクティス?)

流矢はそこで、何かが喉に引っかかった様な違和感を覚える。『サクティス』。どこかで聞いた気が・・・・・。それは流矢だけではなく、クラスの何人かも流矢と同じ事を考えていた。そして、その疑問を解くかの様に、ベストなタイミングでルミナと名乗る女性はある事を言った。それは、

「ちなみに、このクラスにいるビオージオ君の母です」

・・・・・・・・・・・・・、

「えっ、エーーーーーッ⁉」

クラスの生徒は一斉に仲良く絶叫する。対してビオはそれを聞くと、ミジンコの様に縮こまってしまった。よっぽど知られたくなかったらしい。しかもさっきよりもさらに、体が震えていた。しかしそんな事よりも、今彼らの目の前にいる女性が母と呼ばれるような年齢だったという、驚愕の事実である。彼らの目の前に映る人は明らかに、15歳の子供の母親とは言ってはいけない、若さを感じさせる美貌だった。

(あれ?でも俺の母さんも似たようなものだよな。確かあの人、40代だったよな。見た目は20代だけど・・・・・・・)

周りが唖然としている中、身近な人物を思い浮かべ、流矢はなんとか落ち着く事が出来た。今だに震えているビオに、彼女がどんな人物なのか聞こうとしたが、まだルミナが話しているし、もうすぐ終わりそうだったので後に聞く事にした。

「それでは今日のHRはこれで終わります。今後の学校行事の詳しい予定や学級委員長決めは明日にします。寮生の生徒は夕方4時に寮の説明会があるので、しっかり行ってくださいね。それじゃあ、私はこの後職員会議があるので、もう行きますね。皆さん、また明日」

そう言うとルミナは、とっとと出て行ってしまう。それを見て生徒(主に男子)は「さよ~なら~」と彼女を見送る(手振り付きで)。そしてすぐに、周りの生徒と談笑を始めたり、帰りの支度をしたりするなど各々の行動をとりだした。流矢はとりあえず、いまだに唸り続けているビオに再び話し掛けてみる。

「ビオ、何をそんなに怖がってるんだ?」

「最悪だ最悪だ最悪ださい・・・・・・・・」

「おいビオ、ビオ!」

「何で、何であの人が(ブツブツブツ・・・・・・・)」

「しっかりしろ、ビオ!・・・・・・ビオージオ・サクティス‼!‼」

「ワアッ⁉」

驚いたのか、ビオは勢いよく顔を上げたかと思えば、その反動で後ろに椅子ごと仰け反り、そのまま倒れる事が出来れば受身を取る事が出来たかもしれないが、流矢の机の角に思いっ切り頭を打ち付けてからズルズルと、再び椅子ごと倒れるという何とも無様なコメディーっぷりを披露した。

「お、おい。大丈夫か?」

達也はビオの顔を心配そうな顔で覗き込む。流矢達も同じ様に覗き込んだ。対してビオは、「大丈夫・・・・」と言いながらゆっくりと椅子を立てて座り直す。

「幸い、コブは出来ていないみたいだ。今ので頭もスッキリした」

頭をさすりながらビオは少し恥ずかしいそうに笑う。さっきの取り乱しといい、今のコケっぷりといい、人なら誰でも見られたくないものだ。

「まあ、怪我が無くてなによりだ。ところで、あの先生・・・・お前のお母さんってどんな人なんだ?」

流矢はようやく、ビオに聞きたかった事を口にする。

「あっ、それ俺も聞きたかったんだ。先生が話してる時、お前ずっと尋常じゃない震え方してたもんな」

「まあ。そうなんですか?」

「ビオ、あなた一体何があったの?」

流矢に続き、達也達も次々とビオに質問攻めを喰らわしていく。

「うっ・・・・・、やっぱりそれを聞くんだね」

ビオは顔を少し引きつらせると一度、「ハア・・・・・」と深い溜息をつき、

「別に、悪い人ではないんだ。むしろ、本当に良い母親だと僕は思うよ。ただ・・・・・・・・」

「ただ、なに?」

「その、教育方針というか・・・・、勉強の教え方や魔法の特訓が厳しいんだよ・・・・・・・」

「え、具体的にどんな所が厳しいんですか?」

理沙が興味津々と言った感じでビオを見つめる。流矢達も同じ様な顔でビオを見る。

「えっと・・・・・、例えばみんなは『九九』を習ったよね?僕も小2年の時に覚えさせられたんだけど、僕が一つでも間違えると『罰』があったんだ」

「あ?罰?そんなの俺でもあたったぜ。1・2度間違えても何もなかったけど、3度目からは腕立てを30回させらたんだ。いやー、あの時はよく耐えたと思うよ。1000回はしたんじゃねえかな」

達也は腕を組み、自分の功績を誇らしそうな顔をして語る。

「達也、そこは威張るトコなのか?腕立て1000回もクリアしたってことは、『九九』覚えるのに300回ぐらい間違えた事になるからな」

流矢は達也の組んだ腕をほどかせながら、やや呆れ気味の顔をして言う。

「はあ・・・・・。まあ、達也の阿保な話はおいとくとして。ビオ、あなたは一体どんな罰があったの?」

「戦闘の実践訓練だったんだ。しかも、相手は母さんで歯が立たないげらい強くてさ。その上全く、手加減してくれなくって・・・・・・・・」

「えっ、ビオさんのお母様は、そんなにお強いんですか?」

「結婚する前は、北欧最強の軍隊『ヴァルキリー』の、隊長を務めていたらしい。当時は24歳・・・・・」

ビオの言葉に全員が唖然とする。彼の母親を知らなくても、『ヴァルキリー』がどんな軍隊なのか、そこの隊長がどんな人物なのか。それらを噂程度には聞いていたからだ。

「確か、『ヴァルキリー』の隊長ってその戦う姿から、『戦乙女』じゃなくて『鬼神』って言われてたんだろ?」

「今でもそうさ。あの人を怒らせた時には、命がいくつあっても足りないよ・・・・・・・」

「そんな、大袈裟ですよ・・・・・」

「でも、ビオの話を聞く限りじゃ、最初に見た時の先生のイメージが思いっ切り変わったな」

達也の言葉に、流矢達は大きく頷き、それを見たビオは苦笑する。

「あははは・・・・・・。まあ、実の息子の僕が言わせてもらうと、半分優しくて、もう半分は鬼ばばだね」

ビオは本人のいない事をいい事に、自分の母親(ミナ)に対して少し悪態をつく。

そして

「あら~。ビオージオ君、高1にもなって人に、それも先生に対して陰口を言うなんて礼儀がなっていませんね~。私が今ここでその腐った根性を叩き直して上げましょう」

流矢達の耳に入って来たのは一人の女性の声。その場に、先ほどはいなかった人物の声。聞き覚えのある、ビオにとってはこの場に居てはならない人物の声。

その声の主はビオの後ろに立っていた。

ギギギギ・・・・・・

まるで、サビたせいで開きずらくなった扉を開いた音が聞こえてくる様に、ビオは首を後ろに回す。

そこに立っている人物が視界に入ったビオは顔を真っ青にしながら、

「か、母さん・・・・・・・⁈」

恐怖の混じった声でそう呟く。しかし、その相手はそれを肯定せず、

「いいえ。私はあなたの母親ではなく、あなたを正しい魔術師に導く教師、『ミナ・サクティス』です。よって、あなたが自分の母親に対して『鬼ばば』呼ばわりした罰をお仕置きで償って貰います。」

「ちょって待った⁉あんたが今怒ってり理由って、自分を『鬼ばば』って言われたから⁈」

「そんな事はありません。教師が私情を挟んでで生徒に教育をしていい筈がありません」

「・・・・・・・鬼ばば」

「さてと、今日は入学式だからアリーナも使われていないでしょうし、たっぷりとお仕置きが出来ます。ええ、大丈夫です。お仕置きといっても30分程度の模擬戦ですから。ですが、『鬼ばば』と言った事を後悔しなさい」

「やっぱり私情をバリバリ挟みまくってじゃん⁉教師としてあるまじき事なんじゃねえのかよ‼」

「つべこべ言わず早く来い。そして逝け」

「あんた今、実の息子に向かって『逝け』って言っただろ⁉ってやめて、関節技を決めないで⁉僕の腕はそんな方向に曲がらないから‼」

腕をあらぬ方向へ曲げられ、叫び続けるビオはそのままルミナに連行されていった。流矢達は彼を助けようにもルミナのあまりの気迫に気圧され、その場から動く事も出来なかった。いや、それもあるのだが、彼らが何の行動も起こせなかったのは、自分達の見たルミナの人間像があまりにも違っていたからだ。最初のイメージは、清楚でグラマーで、美人で優しそうな先生。しかし今では、元北欧最強の軍隊の隊長。メチャクチャ怖わくて厳しい。そして、自分の実年齢を悪くいいならば容赦無く、実の息子でもお仕置きをするとんでも人間。

そんな彼女とその息子の徐々に遠ざかっていく後ろ姿を見ながら、

「まあ・・・・・とりあえず、あの人に『鬼ばば』は禁句だって事は分かったな」

「年齢気にするような容姿か?ウチの母さんよりピチピチじゃねえか」

「達也。女の人って、色々複雑なのよ・・・・・・」

流矢はこの学園で無駄死にしないための知識を得て、達也はルミナのあそこまで怒る理由が今だ分からず、同じ女である美和はそれを悟る。そして理沙はというと、

「とりあえず、私はお腹がペコペコなのでビオさんを置いて早く食堂に行きませんか?」

空腹を満たすため、親友(ビオ)を待たず、見捨てる事を提案したという。


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