7話 自己紹介
「そう言えば、一番大切なことを聞くのを忘れてたな。俺の名前は零だ。お前の名前は?」
「確かにお互い自己紹介がまだだったわね。私の名前はリアよ」
「リアか。良い名前だ。よろしく」
「こちらこそ」
お互いにすっかりと根本的なことを忘れていたことに、笑い合いながら自己紹介する。
軽く握手をした後に、零が草原で戦っている他のプレイヤーを横目に見ながら口を開いた。
「何だか皆、武器や身体に振り回されてる感じだな」
何気なく呟いた一言に、リアは当たり前と言いたげな表情になる。
「世界初のVRMMOだし、モンスターと戦うのだって普通初めてでしょう? 真剣や弓を使うのも大抵の人達は初めてだし、いきなり剣や槍を振り回せるような身体能力が手に入ったんだもの。私もベータテストのときに初めてやった時はあんな感じだったわ」
「テスターだったのか……」
「そうよ。て言うか貴方の言動的にテスターでも無さそうなのに、いきなり森に入って無傷で出てくるなんて可笑しいわよ。」
「たまたまさ。それよりベータテスターなのに森のことをほとんど知らない感じだったけど、どういうことだ?」
「テスト中は草原までしか行けなくなっていたからよ。3日間っていう短いテスト期間だったしね。実際にやって問題が無いか調べるのと、後は宣伝効果を期待してのベータテストだったみたいだし。事実テストから一週間でこれだけ知名度が上がったのだから正解よね」
世界初のVRMMOというだけでも充分知名度はあったのだが、やはり本当に問題は無いのかという不安から、最初は動向を見守る人間が多数だった。
しかしベータテストで何も問題が発生しなかったこと。
さらにテスターがネットで口々に賞賛の言葉を述べていったこと。
一週間わざと正式サービス開始まで期間を空けたこと。
さまざまな要素が混ざり合って、開始直後から遊ぶ人間が爆発的に増えたのだ。
「俺もネットの評判を見て始めた一人だしな」
「やっぱりテスターじゃあ無いのね。初戦闘はチュートリアル?」
「ああ」
「じゃあブルーウルフに頭から噛まれて殺されなかった? 私は腕を噛まれたのだけど……」
リアは苦い顔をしながら、噛まれたのであろう左腕を擦る。
「避けた」
「普通いきなり飛び掛かって来られたら反応できなかったりするものよ。犬でも飼ってるの?」
「いや、飼ってないな」
「そう。あのチュートリアルは元々実際に攻撃されて、この世界での痛みや恐怖心を知るためにあるって言われてるの。その後倒すまで戦ったと思うけど、傷は負ったの?」
「いや、無傷で倒した」
「凄いわね……。リアルだと女の中なら身体能力も高いし運動神経も良いし、そこら辺の男には負けないくらいの自負があったのだけれど……。しかもこっちの世界の身体はリアルよりもスペックが高いし。貴方の話を聞いてると自信を無くすわ……」
リアは呆れと悔しさが混ざった何とも言えない表情で零を見る。
「負けず嫌いなのか?」
「そうよ。スポーツも勉強も、一番をとらないと気が済まないの」
「まあ分からなくもないな」
「情報も力でしょう? だから貴方に声を掛けたのよ」
「完全に納得したよ。それよりもう門に着いたけど、俺は飯を食うにも金を持ってないぞ」
「素材を手に入れてるでしょう? それを売ったらいいわ。私も売りに行くし、ギルドに報告に行きたいしね」
「ギルドに報告?」
「クエスト達成の報告よ。本当に何も知らないのね。少しは事前に調べなさいよ。しかもチュートリアルもあったでしょう?」
「俺は戦闘チュートリアルしか受けてないからな」
「そう」
素っ気ない返事だが、その顔には諦めの二文字が浮かんでいた。
「それでクエストって?」
「討伐や護衛とかの依頼よ。達成したら報酬が貰えるわ。NPC――ノンプレイヤーキャラクターが基本的に依頼を出してるけれど、プレイヤーも依頼を出すことはできるわ。色々手続きが必要だけどね。ギルドでは素材の買い取りもやってるから、そこで素材を具現化して売れば良いわ」
「そういえば素材って幾らでもアイテム欄に収納できるのか?」
「いいえ。アイテムは40種類まで。素材は基本99個まで入るわ。ただ傷薬や食糧、その他諸々を持って行かないといけないから、すぐにアイテム欄は一杯になるって言われてる。ただ一杯になっても具現化している状態なら自身の力で運ぶことができるから、それを有効活用しないといけないわね。それと弓矢や投擲用のナイフや投げ槍は別に5つだけアイテム欄が用意されてるわ」
「アイテム欄は便利だな」
「リアル志向のゲームだけど、素材を持った状態でまともに戦うことは出来ないから。そこら辺のゲームバランスは考えられてるわよね。――いつの間にか話している間に着いたわ」
リアに向けていた 視線を正面に向けると、焦げ茶色の建物 に、“ギルド”と書かれた看板がデカデカと掲げられていた。
目の前にある門からは、ひっきりなしにプレイヤー達が出たり入ったりしている。
二階建ての横に長い建物には、何個も門が付いているため、 プレイヤー達による渋滞が起きることはない。
しかしギルドの前ではパーティーメンバーを募集しているプレイヤーが、他のプレイヤーの注意を引いているため、人で溢れかえっていた。
「多いな」
「始まりの町のギルドだもの。皆ここに最初は集まるわ。これからも人が少なくなることはないでしょうね」
佇んでいる門番の間を通り抜けて、二人でギルドの中へと足を踏み入れた。





